第235話 流されて
夕也との勝負に勝利した亜美だが、皆からいつもの如く化け物扱いされてしまう。
慣れてはいるものの、化け物を脱却したい亜美は?
☆亜美視点☆
夏休みにプールに遊びに来た私達。
50m自由形で夕ちゃん、紗希ちゃん、渚ちゃんと勝負して見事に勝利したところ。
皆泳ぐの早くて冷や冷やものだったよ。
「清水先輩何やったら出来へんのですか?」
「うーん……格闘技?」
さすがにボクシングとかは無理だと思うんだよね。
「どれどれ……ふっ!」
「うわわ」
夕ちゃんが急にパンチを出してきたので咄嗟に避けて、夕ちゃんの顎に寸止めを決める。
「見事なカウンターだねー!」
「ボクシングもできるじゃない」
「先輩……」
咄嗟にやっちゃった。
私って本当になんだったら出来ないんだろう……。
「私、自分の弱点探してくる……」
「えぇ……」
私は、皆と離れて1人で流れるプールならぬ流されるプールとやらに向かうことにした。
私、こんなんだから皆に化け物扱いされちゃうんだよね……。
私の苦手な事、出来ない事……何かなぁ?
「先輩!」
「うわわ、渚ちゃん」
後ろから渚ちゃんが追いかけてきた。
というか、夕ちゃん、希望ちゃん、紗希ちゃんもついて来ていた。
「お前なぁ。 別に良いじゃないか」
「そうよー? 何でもできるなんてすごい事じゃん」
「うんうん。 むしろ自慢していいよ」
「ですです」
「……皆ぁ」
優しいなぁ。
「でも、化け物扱いするんでしょ?」」
「うぐっ……」
「はぅ……」
「きゃははー」
「……」
誰も否定してくれなかった。
私は悲しいよ。
「それにしても……なんだこれ」
「流されるプールだって」
目の前には壁をクッションで覆われたプールがあるんだけど、凄い勢いで水が流れている。
まさに激流だ。
こんなの誰が喜んで入るんだろうか……。
「あははは! 宏太兄ぃ頑張れ―!」
「ぶくぶくぶく」
いたよ……喜んで流されてる女の子が。
一応、危険は無いようにライフジャケットも装着されるようだし、壁もや柔らかいクッションのようでぶつかっても怪我はし無さそうだ。
「麻美はなんていうかパワフルやな……」
渚ちゃんは、喜んで激流に流される友人を見て、しみじみと漏らすのだった。
麻美ちゃんも大概変だよね……。
「あー、皆も一緒に入ろうよー!」
凄い勢いで流されながら遠ざかっていく麻美ちゃんの声。
「……どうする?」
「わ、私はパスかなー」
「わ、私も無理やと思います」
怖がり同盟の希望ちゃん、渚ちゃんは拒否。
紗希ちゃんはちょっと乗り気になっている。
私はというと少し迷っている。
麻美ちゃんを見ていると、なんだか楽しそうに思えて来たのだ。
「夕ちゃんは?」
「んー、入ってみるかな」
「じゃあ、私も」
夕ちゃんが入るなら私も入ろう。
早速ライフジャケットを借りていざ入水。
「うわわわわわぁ」
あっという間に流される。
これ上がる時はどうやって上がるのよー。
「きゃはははー」
「ぬおー」
夕ちゃんと紗希ちゃんも入水したようだ。
もはやどうすることもできずに、ただただ流されるだけである。
ちょっとでも抵抗しようとするも、全くの無意味。
せめて夕ちゃんの近くに……。
「あれ?」
急に流れが無くなった……どうやらインターバルエリアがあるようだ。
ここから上がることもできるらしい。
なるほど……良くできてる。
「もう1周いこー」
麻美ちゃんはすぐさま次の周回へ向かった。
す、凄くタフだね。
「亜美姉も行こう!」
ガシッと手を掴まれて連行されてしまう。
こうなったら夕ちゃんも道連れに。
ガシッ!
「亜美?」
「一緒に流されよう!」
「あはははー!」
結局、麻美ちゃんに付き合わされて、後2周させられるのであった。
◆◇◆◇◆◇
「なんだかまだ流されてるような錯覚が……」
何だか変な感覚だよ。
少し疲れたし休もう……。
近くの休憩スペースへ向かう事にした。
麻美ちゃんを始め、皆もさすがに疲れたらしくついてくる。
「いやー、楽しかったね!」
「そうねー」
麻美ちゃんと紗希ちゃんは、それなりにあれを楽しんだらしい。
「夕ちゃん、ちょっと肩貸してー」
「あいよ」
夕ちゃんの肩に頭を置いて、少し目を閉じる。
んー、安らぐ。
「そういえば、渚はサーフィン出来るようになった?」
「何とか、落ちひんようには」
「おお、やるじゃん! じゃあ、夕也兄ぃに抱き付きイベントは発生した?」
「してへんよ……」
麻美ちゃんは、渚ちゃんをイジって遊んでいる。
それにしても渚ちゃん。 夕ちゃんの事はどうするんだろう?
さすがに、渚ちゃんに夕ちゃんを奪われる事は無いだろうけど……。
「渚ちゃん、ちょっと」
「はい?」
渚ちゃんを呼んで、耳打ちで訊いてみると、顔を赤くしながら首をブンブン横に振った。
「しませんよ!」
「そっかぁ……」
私が訊いたのは、夕ちゃんに告白とかしないのかということ。
だけど、渚ちゃんは全力で「しない」と言った。
うーん……。
「まあ、渚ちゃんがそう言うなら、私は何も言わないよ」
渚ちゃんの意思を尊重する。
もちろん、渚ちゃんの気が変わって告白したいってなっても、私は何も言わない。
「2人とも、何こそこそ話してんのよー」
紗希ちゃんが、後ろからニョキッと首を出してきた。
私は「別に何でもないよー」と返事して、話題を逸らす。
「次は何する?」
「夕也兄ぃ! 私とウォータースライダーやろ!」
先手必勝と言わんばかりに、麻美ちゃんが夕ちゃんを誘う。
やられたー。
「その次私ー!」
紗希ちゃんが続いて手を上げた。
え、順番制なの?!
「そ、そのつ……」
「私3番目でも良いよ」
「希望ちゃん?!」
か、彼女の私を差し置いて、次々とぉ……。
「わた……」
「私は4番でええですよ」
「……5、5ば……」
「何の話か知らないけど私5番で」
「奈々ちゃーん……」
「え? 何の順番?」
麻美ちゃんが、奈々ちゃんに話の流れを説明すると、奈々ちゃんは爆笑しながら。
「亜美、あんたは夕也にとって6番目の女なのよ!」
「えーっ?! 夕ちゃん、そうなの?!」
「何でそうなる……」
夕ちゃんは、呆れたように言うと私の頭をこつんと叩く。
「お前は1番だよ」
「夕ちゃん……」
「うわ……熱い……暑いじゃなくて熱いわ」
「2人してイチャつかないでよー!」
「ラブラブじゃーん」
「羨ましい……」
「……」
と、周りの皆がそれぞれの反応を見せる。
ちょっと恥ずかしいけどすごく嬉しい。
私は1番。 恋人だもん当然だよね。
「えへへー」
「まあでも、それとこれは別。 ウォータースライダーは誘ってくれた順番で行くぞ」
「仕方ないなー。 6番目でも良いよぉ」
私も案外チョロいようである。
というか、夕ちゃん6回もやるんだね……。
「よーし! じゃあまず私だー」
「おーう、わかってるから引っ張るなー」
元気な麻美ちゃんは、夕ちゃんを引っ張ってウォータースライダーへと向かった。
私達はそんな光景を、笑いながら見送りスライダーの出口が見える場所へ移動した。
2人は今頃上で並んでいる事だろう。
流されるプールでひとしきり流された亜美達。
その後、急に夕也とウォータースライダーで遊ぶ順番を決め始めた女子達。
出遅れた亜美は6番目。
「奈央ですわよ。 皆、我が西條グループのプールを楽しんでくれているようで何よりですわ。 流されるプールも人気プールの1つですし。 それにしても今井君モテモテですわね? 私には春人君がいるので興味ありませんが」
「わ、私の夕ちゃんがー……」