第230話 信頼
インターハイ決勝戦は最終セットまでもつれこんだ。
月学の絆で勝利をもぎ取れるか。
☆亜美視点☆
バレーボール女子インターハイ決勝戦は最終セットまでもつれこんだ激戦となっている。
ただ、試合展開自体は私達月学が押されている。
というのも、相手の対策が早いのだ。
麻美ちゃんのブロックや、私達の高速連携に対応してきて、簡単に崩すことはできない。
しかし、麻美ちゃんに関しては何か対抗策がある様子。
しかも、それを4セット目にはワザと見せずに15点先取になる最終セットまで温存していたというのだ。
私達が攻撃で点を取ってくれると信じて……。
「よし、あと1セット! 今年も獲るよぉ! 頂点!!」
「おおー!」
コートに入って心機一転。
奈央ちゃんからも、同時高速連携解禁が言い渡されている。
こちらも私達OHを信頼しているのだ。 応えるよ。
立華サーブ──
「さぁこーい!」
私も今日一番の声を出す。
「ええやん……勝負やで!」
サーブが飛んでくる、
希望ちゃんが上げると、奈央ちゃんがサインを出してくる。
今日久しぶりの同時高速連携だ。
「まったく」
「信頼しすぎよ」
「あはは」
私、奈々ちゃん、紗希ちゃんで助走を開始、さらに2テンポ遅れて麻美ちゃんが走る。
同時にジャンプして腕を振る。
1人、キャミィさんだけが奈々ちゃんのブロックに跳んでいたが、他5人は定位置で腰を落としている。
1人分のスペースがあれば十分。
パァンッ!
私の下に運ばれてきたボールは、キャミィさんが空けたスペースに向かって放たれる。
ピッ!
「よしっ!」
「あんなトスでも狙ったとこに打ち分けられるんかいな……」
「もちろんだよ。 奈央ちゃんのトスは信頼できるから、私はいつも通り打つだけだもん」
そう、いつもドンピシャで私の手元に合わせてくれるのだ。
もう神がかってると思う。
どこにトスが運ばれてくるかわかるなら、私は気にせずいつも通り狙いを定めて打つだけ。
「まず1点! ここブレイクするよ!」
奈央ちゃんのサーブ。 ここはミスしないように山なりサーブで入れていく。
慎重になっているっていうのもあるけど、これは信頼の証。
私達なら止めてくれるという信頼。
「はいっ」
Lが拾い、眞鍋先輩のトスになる。
私と麻美ちゃんでキャミィさんの、奈々ちゃんが弥生ちゃんのブロックにつく。
「せーの!」
「うぇーい!」
キャミィさんに合わせられたトスを、力いっぱい振り抜いてくる。
私も麻美ちゃんの真似をして、腕を後ろから前に勢い良く出して威力に負けないようにしてみる。
「って、ええー?」
麻美ちゃんジャンプ低くない?
ネットよりちょっと上に手の平が出ているなーぐらいしか跳んでないよ。
しかも、手の平上向いてるし……上?
パンッ!
キャミィさんが打ったスパイクは、麻美ちゃんの手の平に当たる。
上に向けられた手に当たったボールは上空に高々と打ちあがった。
「ワンタッチー!」
その状況をすぐに読み取って動いたのは、希望ちゃんだった。
さすがの反射神経。 大きくコートの外へ飛んで行くボールに余裕を持って追いついた希望ちゃんは、腕の力も使って、前へ高くレシーブして、ボールをコート内の奈央ちゃんへと運ぶ。
「もう、皆最高!」
奈央ちゃんは嬉しそうにそう言いながら、サインを送ってくる。
ここは同時連携を使わないパターン。
希望ちゃんがまだコート内に戻って来てないので、フォローに麻美ちゃんを残し、残り3人でバラバラに助走を開始。
「エース!」
「きたきた!」
今度は奈々ちゃんのスパイク。
強烈な一撃は、相手Lのレシーブを物ともせずコート外へ飛んで行く。
「どんなもんよ!」
「な、なんやねんあんさんら……ここに来て元気になるとかどういう体してんねん」
弥生ちゃんがウンザリしたような声で愚痴る。
「私達はいつでも元気一杯よー」
「有り得んやろ……」
それにしても驚いた。
麻美ちゃんのブロック。 手の平を上に向けて、ギリギリボールが触れるぐらいの高さにブロックを出す。
ボールを下に落とすブロックじゃなくて、後ろに飛ばすブロックだなんて。
これが、麻美ちゃんが思い付いた対策ってことなんだろう。
結果的にそれは上手くいって、ブレイクすることに成功した。
本当に色々見せてくれるよこの子は。
今大会のMVPだよ。
その後、取ったり取られたりを繰り返し、ブレイクした点をなんとか死守するも、もう1ブレイクが中々取れないまま、試合はデュースまでもつれ込んだ
さらにそのデュースも中々2点差がつかずに続いている。
「しぶといねぇ」
「そっちもやんか」
「お姉ちゃん!」
「お、入って来たか我が妹」
ここで希望ちゃんに替わって渚ちゃんが入ってきた。
クライマックスにふさわしいね。
20-19で私達のサーブ。
「ここで決めるわよ! 1本集中!!」
「おー!」
気合を入れ直して、このプレーに全神経を集中する。
麻美ちゃんのサーブは、ミスを恐れない思いっきりの良いサーブ。
この場面でその度胸、凄いよ。
相手のレシーブが崩れて、攻撃のリズムが悪くなる。
チャンスだ。
眞鍋先輩が、無理のある体勢からトスを上げるも少々乱れている。
それをなんとかバックアタックで返してくる弥生ちゃんだけど、私がそれを拾う。
「チャンスボール!!」
奈央ちゃんのサインが出る。 ここで同時高速連携。
私、奈々ちゃん、紗希ちゃんで助走に入ると、ワンテンポ遅らせて麻美ちゃん、さらにワンテンポ遅らせて渚ちゃんも走る。
全員攻撃だよ。
「な、なんやほんまに……」
まず私達3年生全員が跳ぶ。
立華サイドは、ブロックを捨てて全員ディグの構え。
私達3人が同時に手を振るも、誰の手元にもボールが来ていない。
ボールは……。
☆渚視点☆
ボールは私に運ばれてきた。
同時攻撃じゃないと分かった瞬間、相手のブロッカーが私の前に2人走り込んできた。
先に跳んでる分、高さはこっちの方が上や。
と、思ったけど1人はあの背が異常に高い留学生。
先に跳んだ私の高さに、すぐに届いてきた。
「(反則やん!)」
しかし、攻撃を止めるわけにはいかない。 西條先輩は私を信頼して、トスを上げてくれたんや。
ここで必ず決める。
スパイクを打とうとする瞬間、先輩達の教えが思い出される。
「渚ちゃん、パワーはあるんだけど素直すぎるんだよねー」
「良い? パワーだけでゴリ押しても駄目よ? 空中戦の技術を磨きなさい」
空中戦の技術……。
パワーだけじゃなくて、テクニック!
散々藍沢先輩と、清水先輩に言われてきたやないか!
ここで成長を見せなあかんやろ!
空中で相手のブロック、相手のコート内の位置取りを見る……。
「(ストレートがボール1個分空いとるやんか。 ここにコントロール!)」
その狭いコースにスパイクを打ち込む。
「決まれ!」
「オウ?!」
「っ!」
お姉ちゃんが反応してダイビングレシーブ。
ボールが高く上がる……観客席の方へと。
ピッ!
「やった……」
「ナイス渚!」
「やったー!」
「やるじゃーん!」
あっという間に私の周りに月学メンバーが集まってきたかと思うと、囲まれてボコボコとしばかれる。
「い、痛いですー!」
「私達の教え通りじゃないの! 良く決めたわ!」
「うんうん! 良かったよ!」
清水先輩と藍沢先輩がそう言ってくれた。
「先輩方の教えおかげで、最後あのコースに打てたんです。 おおきにでした!」
大きく頭を下げて礼をする。
「渚」
相手コートの方からも声が掛かる。
「お姉ちゃん」
「やるやん。 お姉ちゃん、悔しい反面ちょっと嬉しいで」
手を差し出してきたので、私はその手を握る。
ほんまは抱き付きたいけど、それは人がおらんとこでやな……。
「亜美ちゃん、藍沢さん、ほんまおおきにな。 この子の面倒、これからも見たってや」
「うん」
「ええ」
「んで、これとそれは別や。 春高ではリベンジさせてもらうで!」
「あはは……」
そういうと、お姉ちゃんはコートを去って行った。
これにて、バレーボール女子のインターハイは全日程を終了。
麻美がブロック部門でベスト6に選ばれていたのはちょっと羨ましかった。
他には、清水先輩、藍沢先輩、雪村先輩、お姉ちゃん、西條先輩は選ばれており、月学の強さが目立つ結果となった。
渚の攻撃で試合を決め、夏のインターハイ2連覇を達成した月ノ木学園バレー部。
春高でもリベンジを誓い、弥生はコートを去るのだった。
「紗希よ。 インターハイ2連覇! ふふーん、月学に向かうところ敵なしね! っていっても、今年は苦戦の連続だったけど。 東京都姫、大阪銀光、京都立華……私達のライバルは次の大会でもっと強くなってそうー」
「私達も強くなってるよきっと!」