第228話 天才
京都立華との試合は一進一退の攻防。
☆亜美視点☆
現在6ー6の同点。
お互いが点を取り合っていて、中々点差が付かない。
こちらがスパイクを決めれば、向こうも決めてくる。
こちらがブレイクすれば、向こうもブレイクし返してくる。
今年はこんな試合ばかりだよ。
次は立華サーブ。
「はいっ!」
「ナイス亜美ちゃん!」
サーブは私が拾う。
そのボールを奈央ちゃんがトス、奈々ちゃんがスパイクを決める。
決定率高いね。
今年は皆、決定率が異様に高い。
これで7ー6。
ローテーションが入り、希望ちゃんが帰ってくる。
「渚ちゃん、いい感じだったよぅ」
「ありがとうございます!」
交替の際に、希望ちゃんが渚ちゃんに一声掛けたようだ。
ちゃんと先輩してるんだね。
さてと、私達は奈央ちゃんがサーブ。
相変わらず、小さな体を目一杯使ったパワフルサーブだ。
それをLが拾う。 守備範囲広いなぁ。
当然、眞鍋先輩がセットに入る。
ライトからは弥生ちゃん、レフトにはキャミィさん。
麻美ちゃんが、キャミィさんのブロックにつき、サインを送ってきた。
1枚で良い? 何かあるのかな?
私はとりあえず、奈々ちゃんの隣に行き弥生ちゃんのブロックに跳ぶ。
ここのトスはキャミィさんの方へ。
麻美ちゃん、頼むよ。
「ヘーイ!」
「うぇーい!」
何か似てる……。
キャミィさんは、タイミングの合ったトスに対して、力一杯腕を振り抜いた。
パァァン!
もの凄い音がした。
ボールの行方は……?
ピッ!
「うぇい!」
「おー!!」
「麻美良くやった!」
麻美ちゃんのブロックは成功。
ボールは、相手コートに落ちていた。
一体何をやったんだろう?
「でも手が痛いー」
「ははは……凄い音だったもんね」
「大阪の姉妹に、京都のキャミィさんまで止めちゃうなんて凄いよぅ!」
そうだよね。
全国屈指の実力者達に、麻美ちゃんのブロックが通用している。
凄い事だよ。
「次も頼むわよー!」
「が、頑張る」
私達も負けてられないよ。
「もう一本ブレイクするよっ!」
「おー!」
再び奈央ちゃんのパワフルサーブ。
やはりLが強引に拾いに来る。
先程と同じく、弥生ちゃんとキャミィさんが左右に分かれて走り込んで来る。
こちらも、先程と同じ様に分かれブロック。
そして、トスも先程と同じ。
完全再現になった。
「ハイッ!」
「とぅっ!」
キャミィさんのスパイクに対して、麻美ちゃんがブロックに跳ぶのを横目に見る。
「えっ?」
麻美ちゃんは、腕を前ではなくて後ろ側に倒している。
「(な、何それー?!)」
「うぇい!」
そして、キャミィさんが腕を振り抜くタイミングで、麻美ちゃんも両腕を勢い良く前に倒す。
パァァンッ!
先程の大きな音はこれなんだ。
キャミィさんの強烈なスパイクに負けないた為に、麻美ちゃんも勢いをつけてブロックしたんだね。
ピッ!
「オウ……」
「うっし!」
またもやブロック成功。
麻美ちゃんは、この前の試合観戦の時からこれを考えていたんだね。
スタメンに立候補したのだって、上手くいく自信があったからなんだ。
「ナイス麻美!」
「まあね。 でも、こっからだよー!」
「ここから?」
「あの人が、駆け引きをする様になってからが本番。 今まではあのパワーだけでブロックを抜けてきたけど、私には通用しない。 だから、駆け引きが生まれるの。 ブロックの楽しい所さー!」
ふ、深い……。
麻美ちゃんはMBというポジションが、とても合っているようだ。
遥ちゃんが見出した才能は、本物だったんだね。
「このままいくわよー!」
さらに奈央ちゃんのサーブが続く。
今度は眞鍋先輩に拾わせる。
ナイスサーブだ。
そして、またもやキャミィさんがセットアップ。
私と奈々ちゃんで、弥生ちゃんの前に移動。
ストレートを締めて、クロスを開ける。
「っ!」
パァン!
弥生ちゃんのスパイクは、私達のブロックを避けてクロスへ。
しかし、そこは希望ちゃんの守備範囲だ。
「はいっ!」
理想的な流れで来てるよ。
もうワンブレイク出来るチャンス。
奈央ちゃんもわかっているのか、高速連携のサインを出した。
奈々ちゃん、紗希ちゃん、私の3人で同時に助走。
「来るでっ!」
弥生ちゃんが警戒の声を上げる。
誰にブロックがつくかな?
3人同時にジャンプして、腕を振る。
私にはブロックがいない。
「っ?!」
私にだけじゃない?!
立華は誰もブロックに来てない!
パァン!
手の平にボールが当たる感触。
だけど、私のスパイクは眞鍋先輩に拾われる。
「返ってくるよ!」
同時高速連携が防がれた。
ブロックを捨てて、全員でコート全体をフォローするという対策を立ててきた。
メンバー全員が余程レシーブに自信が無いと、そんな事は出来ないよ。
しかも、いくら6人で守るとはいえ、必ずスペースは出来るものだ。
それは折り込み済なんだろうか。
今度は弥生ちゃんに決められて、サーブが交替する。
「ドンマイドンマイ。 まさかあんなやり方があるとはね」
「うん。 多分、対大阪銀光用だったんだろうね」
「警戒してましたからね、銀光の高速連携」
さすがは京都立華。
一筋縄ではいかないね。
「ま、リード奪えたし切り替えていきましょー」
紗希ちゃんの言う通りで、こちらは2つのブレイクを取れている。
この失点もブレイクされたわけじゃない。
切り替えよう。
「あれは少し考えて出しますわね」
「そうねー」
「らじゃだよー」
「しゃーないわね」
弥生ちゃんのサーブを奈央ちゃんが拾う。
対策しているとはいえ、やはりあの同時高速連携は嫌なんだろうね。
ここは奈央ちゃんの代わりに私がセットアップ──。
「と、見せかけて」
ツーアタックを仕掛ける。
これは見事に決まり、すぐに取り返す。
「強かやなぁ、清水さん」
「あはは」
眞鍋さんも、やられたという表情を見せる。
さてさて、私のサーブなわけだけどどうしようかな。
やっぱりここは眞鍋先輩狙いで。
眞鍋先輩のセットアップを潰しつつ、キャミィさんか弥生ちゃんにトスを上げさせられる。
攻撃役を1人に絞らせられるのは大きい。
「っしょっと!」
完璧に眞鍋先輩の前にサーブを運ぶ。
「ほんま、とんでもないコントロールしとる!」
と、文句を言いながらしっかりボールを拾う眞鍋先輩。
セットアップに入るのはキャミィさん。
狙い通り。
一応他の人のスパイクも警戒するけど、ここは十中八九……。
「ハイッ!」
弥生ちゃんのバックアタックだ。
紗希ちゃんと奈々ちゃんが、ストレートラインにブロックを作る。
希望ちゃんが。その後でフォローの為に待機。
センターでは、麻美ちゃんがクロスを警戒して跳んでいる。
なんか、手の角度おかしいけど?
私は一応、麻美ちゃんの後をカバー。
「らぁっ!」
弥生ちゃんのバックアタックはクロス。
ワンタッチフォローするよ。
「うぇい!」
パンッ!
「うわわ……」
麻美ちゃんがブロック1枚で、弥生ちゃんのバックアタックを防いだよ……。
しかも、あの威力のバックアタックを、カバーのいないスペースにきっちりと落としている。
「ナ、ナイス麻美ちゃん!」
「ぶいっ!」
と、ピースサインを見せる麻美ちゃん。
私はちゃんと見ていた。
弥生ちゃんのバックアタックを止める前に、麻美ちゃんは相手コート内を見てスペースを確認。
弥生ちゃんのバックアタックを、受け流すようにして、その空きスペースに落とした。
おそらく、かなり高等な技術だよ。
「まだまだ止めるよー!」
「な、なんやあの1年……やばいやんか」
弥生ちゃんも、警戒度を高めたようである。
私も、麻美ちゃんに対しての認識を改めた方が良いかもしれない。
この子は天才ブロッカーだよ。
今日も麻美のブロックが冴える。
天才ブロッカー誕生か?
「奈々美よ。 本当、弥生のとこは毎回毎回うんざりするぐらい強いわね。 よく負けずに毎回勝ってるわよねぇ……。 ここまで来たら、公式戦、練習試合含めて負けなしの伝説ル食ってやろうじゃない」
「そういえば、何気に中学時代から1回も負けてないねぇ」