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第2252話 いよいよ

入院開始日になった紗希。

 ☆紗希視点☆


 10月24日の日曜日になったわ。 もう出産予定日も間近に迫った今日、私は皆より一足先に入院する事になっている。


「こんな不安になるならあと数週間子作り遅らせるんだったわ……」

「まあ一人になると心細いわよね」

「そうだねぇ」

「神崎先輩ー、準備出来たー」

「りょ!」


 麻美が車を出してくれるので、私はそれに乗って西條グループの産婦人科へ向かう。 日曜日って事で旦那である裕樹もついて来てくれるわよん。


「麻美、安全運転で頼むわよん」

「りょーかーい!」

「紗希ちゃん頑張ってね!」

「ええ!」


 妊婦組は皆お腹が大きくて大変な為、お見舞いには来れないとの事。 その代わりビデオ通話で会話する約束をしているわ。 これで寂しくないわね。


「じゃあ、ちょっくら行って元気な双子ちゃん産んで来ます!」


 皆に対して敬礼ポーズを取り、手を振る皆を背に「皆の家」をあとにする。


 麻美がガレージから車を出して、私と裕樹を乗せたのを確認すると、いよいよ病院へと出発するのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 無事に病院に到着した私。 麻美は車で待つというので、私と裕樹だけで院内へ。 受付に話を通すとすぐに病室へ案内される。 最上階にあるVIP専用の病棟の一部屋に案内された私と裕樹は、病室とは思えないその部屋に唖然とする。


「ここ、病院の病室だよね?」

「まるで高級ホテルのスイートじゃん……」

「さ、さすが西條グループの病院だね……」


 まあ多分こんなんだろうとは思ってはいたけど、本当に想像通り過ぎてびっくりだわ。


「さて。 後はここでその日を待つのみね……」

「僕も仕事終わりには毎日来るようにするし、当日は会社休んで来る」

「ありがと。 あんま無理はしないようにね」

「わかってる」


 麻美を待たせるのも悪いという事で、裕樹はすぐに病室を出ていった。


「さてと……早速一人になったか……」


 広い病室に一人。 いつ来るかわからない陣痛に不安を覚えつつ、ベッドの上に座る。


「な、なるほど……こりゃ確かに退屈で死にそうになるわね」


 部屋の中が静かだとさすがに気分が滅入るから、とりあえずテレビを点けて雰囲気だけでも明るくする。 テレビでは昼のワイドショーをやっており、有名俳優の不倫騒動についての報道を続けている。 

 そんなテレビの音をBGMにしながら、私は持って来たノートパソコンを開いた。


「産休に入ってるし仕事は無いけど、こんだけ退屈だとねー。 せっかく時間もあるし、キャラデザの練習でもしましょ」


 産休から復帰したら亜美ちゃんの書いた本の表紙デザインをしないといけないしね。


「競馬関係の小説だったら、やっぱり馬が欲しいわよね。 馬のデザインか……ちょっち資料集めでもしましょ」


 私ってば仕事熱心ねー。 こんな時まで仕事の事考えるなんて。


「馬……馬……おお、こうやって写真で見ると、馬ってカッコイイわね」


 色々な角度から見た馬の写真を保存しときましょ。


「きゃは! 馬のアレ超でかいんだけど笑うー」


 一人ではしゃぐ私なのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



 資料集めも終え、軽く馬の絵の練習も終えた私は、次に自分の将来のキャリア設計について考えてみる事にした。 こんな風に時間ある時じゃないと、中々こういうの考えられないものね。


「とりあえず今は社会人二年目で、まだまだ修行中の身。 双子の子も産まれるし、しばらくはやっぱり安定した収入が必要よね」


 数年は独立を考えない方が良さそうね。 少なくとも子供達が小学校に上がるまではファラノプシスに勤める事にしよう。 その先の事はその時によく考えるわ。


「独立かあ……」


 社長である芽衣子お姉さんには、既にその話はしてある。 就職するよりずっと前にね。 芽衣子お姉さんはそれでも快く私を部下にしてくれたわ。 本当、頭が上がらない。


「恩を仇で返す事になるのかしら……」


 今まで、私をデザイナーとして育ててくれたのは他でもない芽衣子お姉さんだ。 そんな人の下を離れて独立し、同業のライバルになろうっていうんだものね。


「でもこれは私の夢。 絶対に叶えたいわ」


 芽衣子お姉さんも私の事を応援してくれてるし、恩を仇で返されたなんて言わないわよね。


「よし。 32歳ぐらいで独立を目標にするわ。 やっぱり数字は具体的にしとくべきよね」


 こうやって具体的な目標を掲げる事が大事なのよ。 後はそこに至るまでの道筋……ストーリーをしっかりと考える。 楽しいわね。


 ピロリン……


「おりょ。 ビデオ通話の着信ね」


 時計を見ると既に夕方になっていた。 い、いつの間にこんな時間に。 退屈だと思ってたのに、色々やってる内に時間が過ぎたみたいね。


「はいはい。 今繋ぎますよーん。 そりゃ」


 ノートパソコンにウェブカメラを繋いで通話に出る。


「やほほー。 紗希ちゃんどうー?」

「亜美ちゃん、やっほー。 色々やってたらあっという間に夕方よん」

「やっぱりジグソーパズルは暇潰しに最適ね!」


 奈々美がまたジグソーパズルって言ってるけど。


「いや、今日は別にジグソーパズルはやってないけど」

「クロスワードね? いや、数独かしら?」

「いや、どれもやってないわよ……」

「そんな?! どうやって時間を潰したのよ?!」

「そんな驚かなくても良いでしょ……ちょっと仕事の事とか今後のキャリアについて考えをまとめてただけよ」

「意識高いよぅ」

「本当になあ……」

「一人はやっぱり寂しい?」


 と、奈央が訊いてくる。 まあ確かに寂しいけど、こうやってビデオ通話で会話出来るし、実際はそこまでじゃないわね。


「紗希ちゃん。 明日は私、そっち行くね」

「おお、舞ちゃん来てくれー」

「うん」


 やったー。 明日は舞ちゃんが来てくれるわ。 嬉しいわね。


「東京組も試合無いから行くって言ってたよ」

「本当? あの人達も良く来るわね。 ありがたいけど」


 そういえばSVリーグ始まったのよね。 渚達は初戦を危なげなく勝っていたし、私達が居なくてもやっけそうね。 ちょっと安心だわ。


「まだ産まれそうにないー?」


 麻美が首を傾げながら訊いてくる。


「今のところはまだかしらね」

「そうですかー」

「まあ言ってる間に産まれるわよん」

「なはは。 報告を楽しみにしてますー」

「ええ」


 こうして、夕飯が運ばれて来るまでの間、皆とビデオ通話を楽しんだ。 大学時代、私だけ京都の大学へ行っていた頃の事を思い出したわ。 数年前の事なのにやけに懐かしく感じるのは、歳をとったからなのかしら?


「いやいや。 まだ若いですけど! にしても、何ちゅう入院食なのよ……」


 栄養の事は当然考えられているとして、とんでもない豪華なメニューが並んでるわ。 まるで高級レストランよ。


「西條グループ、何事もやり過ぎなんじゃないかしら?」


 と、疑問に思いつつも、既に慣れてしまっているので気にせずいただく事にするのだった。


意外と充実の入院生活?


「亜美だよ。 紗希ちゃん、もうすぐ子供産まれるんだねぇ」

「私達もですわよ」

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