第2213話 目指せ100点
風呂で武下君と一緒になった夕也。
☆夕也視点☆
風呂の時間。 武下君と一緒になったので、この際訊いてみる事にした。
「武下君は本当に今の感じで良いのか?」
「うん?」
「いや、月島さんとの関係の話だが」
「ああ。 うん。 良いと思ってるけど」
「へえ。 気が長いんだなぁ」
隣で聞いていた宏太も興味あるようだ。 まあ、俺達のグループでは中々にホットなカップルだからなぁ。 皆興味はあるんだろう。 マリアちゃんはあんまり気にはしてないようだが、彼女はそもそも色恋沙汰にあんまり興味が無いみたいだからな。
「気が長いって言うのかなあ……」
「中学からだろ?」
「まあ、でも再会したのは社会人になってからだけど」
「その間も一応好きだったんだよな?」
「まあ、そうだね」
「そら気が長いだろ」
「話だけなら君達の方が凄いと思うけどな。 産まれてからずっとでしょ?」
「俺達かあ? 俺達はまあ色々あったからなあ」
「だなあ。 それに俺の初恋は亜美ちゃんなんだぜ」
「え? そうなんですか? 藍沢さんじゃなくて?」
「そうだんだよ。 いやー、惜しかったんだがなあ」
「ふん。 亜美は最初から俺一筋だったからな」
「いやいや! 結構揺れてたぞ」
「何をぅ?!」
「な、仲良くね」
「仲は大丈夫だぞ」
「今更悪くなりようもないからな」
「そ、そっか。 産まれてからずっと一緒なんだもんね」
「まあな。 喧嘩もした事あるが、基本ずっと連んでるな」
「本当、腐れ縁さ。 武下君にはいないのか? そんな友人」
「さすがにいないな」
「そうか。 って、話が逸れてるな。 まあ、武下君の考えはわかったが。 多分、お互いの意思が一致してるからこそ、何だかんだ上手く付き合えてるんだろうな」
「多分そうだと思う。 二人の足並みが揃ってるのが良いんだと」
ふむ。 女性陣は二人を急かしているが、下手に口出ししない方が二人は上手く行くんだろう。 亜美には釘を刺しておくか。
◆◇◆◇◆◇
寝室で亜美と二人になったので、先程風呂で話した内容と、二人を急かさないようにするべきだと伝えると。
「むむーっ。 でもでも、あれだけ歩みが遅いとねぇ。 どうしても急かしたくなるんだよ」
「わからんでもないがなぁ。 あの二人はあれで良いんだよ。 下手に口出しすると、逆に二人の仲を壊しかねないぞ」
「むっ! それはダメだねぇ! 善処するよ」
亜美も「二人の仲を壊す事になるのは良くないねぇ!」と、何とか納得したようだ。
「うーん。 まあ、私が我慢……いやいや、控えたとしても、キャミィさんがね」
「今、我慢って言ったか?」
「な、何も言ってないよー」
「ふん。 まあ、キャミィさんの方は月島さんが何とかするだろ」
「そうかな」
「だろ……お前は友人の色恋の心配より自分とお腹の子の心配をしろ」
「それは大丈夫だよ。 常に気を付けてるからね。 それに、この別荘に来てからはゆっくりさせてもらってるしね」
「なら良いけどよ」
「楽しみだねぇ、美夕に会えるのが」
「だなぁ」
お腹の子は女の子で、名前も既に決まっている。 ベビー用品ももう買い揃えてあり、後は産まれてくるのを
待つばかりだ。 まずは紗希ちゃんが一番早く出産する事になっている。 あちらは双子の女の子を出産予定だそうで、かなり大変な出産になるだろうとの事。
とにかく俺達は妊婦組を出来るだけサポートするようにせねばは。 そろそろ麻美ちゃんから掃除特訓の100点満点をもらわねば。
◆◇◆◇◆◇
翌日8月16日の土曜日だ。
「さあ、掃除するぞ!」
「今井先輩、やたら気合い入っとる」
「ワハハ。 どないしタ?」
「そろそろ麻美ちゃんから100点をもらって卒業しないといけないからな」
「なはは。 私は厳しいぞー! 亜美姉からは甘やかすなって言われてるー」
「まあでも、やる気があるのは良い事ですよ」
「ですねー」
「じゃあいつも通り、掃除開始ー!」
麻美ちゃんの号令と共にリビングの掃除を開始する。 その間、他の皆にはリビングから退散してもらっている。 リビングは皆が集まる寛ぎスペースだ。 早めに掃除を終わらせて空けてやらねばならない。 場所を分担し、手際良く進めていく。
拭き拭き……。 まずはテーブルを拭いたり棚の上を拭いたり、高い位置の掃除をしていく。 ふふん、基本中の基本だぞ。
「夕也兄ぃ、もっとスピードアップー!」
「あまり速くやると雑になるんだよ……」
「素早く! それでいて丁寧に! そんな事では掃除業者さんにはなれないぞー!」
「いや、ならないが」
「ワハハ!」
「頑張ってください、今井先輩」
「お、おう」
拭き拭き拭き拭き……。
「うむー。 まあ良かろうー」
麻美ちゃん、本当に厳しいなあ。 亜美から言われたって話だが、そこまで厳しく見なくても良くないか?
「うおー! ちょいさー!」
「麻美は黙って掃除でけへんのかいな?」
「『ちょいさー』した方が速くなるー!」
「その掛け声って一体何なんですか?」
「『ちょいさー』だぞー」
天堂さんと星野さんは「あ、あはは……わかりません」と、正直に言う。 まあ実際俺にもわからん。 ちなみにあの亜美ですら理解出来ないらしいが、同種の人間には通じるらしい。 よくわからん。
手分けしながらリビングの清掃を終えた俺達。 次なる戦場へと移動を開始。 途中ですれ違った月島さんと宮下さん、可憐ちゃんにはリビングが空いた事を伝える。 その内あの部屋に人が集まっていくだろう。
「リビングの掃除はどうだった麻美ちゃん?」
「88点ー」
「ま、まだ100点じゃないのか……」
「もうちょっとー。 細かい所がなってないー」
「そやな。 ちょっとまだ雑な面が残ってますよ」
「そ、そうなのか。 自分では出来てるつもりなんだがなあ」
「なはは。 すぐに100点取れるー」
「お子さんが産まれるまでには間に合いそうですよね?」
「ですです」
「もう一頑張りするか……」
「おーし! 次は玄関の掃除いくぞー!」
「おう!」
「げ、元気やな……」
「あははは……」
◆◇◆◇◆◇
本日の掃除は終わり、麻美ちゃんからの最終採点は80点となった。 それを聞いた亜美はというと。
「80点! 凄いねぇ、あの夕ちゃんがねぇ。 でも後20点頑張ってね」
との事だ。 もちろん100点をもらうまでは頑張るつもりだが、100点の掃除ってどんな掃除だ?
「なあ、麻美ちゃんや」
「何だね夕也兄ぃ?」
「ちなみに訊くんだが、渚ちゃんや天堂さん、星野さんにキャミィさんの掃除って100点なのか?」
「失礼だぞ夕也兄ぃー! 勿論100点に決まっているー!」
「そ、そうなのか?」
つまり、皆の掃除技術を吸収出来れば俺も100点の掃除が出来るようになるって事だな。 明日から皆の掃除の仕方をよく見て勉強するか!
「夕也兄ぃ、どうしたー?」
「ふふふ。 光明が見えたのだ」
「ほへー?」
見ていろよ。 すぐに掃除をマスターしてやるぜ。 掃除業者にはならないがな。
掃除の道は中々に険しい?
「希望です。 そこまで厳しくしなくても良いような?」
「ダメだよ。 100点以外は許されないよ」




