第2210話 またまたあの人がやって来た
何故かいきなりやって来た姫百合凛。
☆亜美視点☆
8月13日の木曜日だよ。 最近は頻繁に顔を見せているあのお騒がせアイドルの姫百合凛さん。 現在テレビで絶賛歌っているのだけど、当然これは収録済みの映像である。 何でそんな話をしているかって? それはほら、実物は今何故か目の前にいるからねぇ。
「何で姫百合さんがいるのかな?」
「いや。 例の屋敷に行ったら誰も居ないじゃないですか? だから、佐々木君と前田さんが働いてるお店に行きまして、ここに集まっていると聞いたので一緒に帰って来たわけです!」
「いやいや!? だから何でわざわざ遊びに来るのよ?!」
「あれ? 皆さん忘れてません? 岬ちゃんと彼氏君の事」
「あ! デート! どうだったの?」
忘れていたわけじゃないけど、完全に情報シャットアウト状態のデートだから、何も知らされていないのである。 確か7月末ぐらいに西條グループのホテルに行った筈だけど。
「大成功だったって言ってたよ。 まあ、今のSNSやワイドショー見ても話題は全く出ないし、週刊誌やマスコミにもバレてないって事よね」
「おほほ。 我がグループにかかればこの程度余裕ですわ」
「だねぇ。 情報を外部に漏らすようなヘマは絶対にしないんだよ」
「何や怖いなぁ、西條グループ」
「ふふふ。 逆らったら社会的に抹消ですわよ」
「ゾゾッ……」
「とにかく上手くいって良かったじゃーん。 岬ちゃんからどんな話聞いたのん?」
「久しぶりに二人でゆっくり過ごせたし、付き合って初めて二人で海を楽しめたって。 かなり仲も深まったみたい」
「おお。 キッスぐらいはしたのかしらね?」
「その辺ははぐらかしてたかな」
「むふふふだねぇ。 いやいや良かった良かった。 またいつでも協力するから、相談してねって伝えておいてねぇ」
「わかりました!」
……。
…………。
「あれ? 何でまだいるの? それを伝えに来ただけじゃないの?」
姫百合さんは用事が終わったにも関わらず帰ろうとはせずリビングで寛いでいる。
「もちろん、今日、明日はゆっくりさせてもらいます」
「なはは!」
「いつも通り強引だねぇ」
「だはは! ええやんええやん! ウチはゆりりん大歓迎やで。 な、佐々木君や」
「おう」
「まあ、別に構いませんけど……事務所やマネージャーさんには話であるんですの?」
「プライベートなので!」
「はあ……」
相変わらず自由奔放で何をしでかすが読めないトップアイドルである。 よくこれでスキャンダルが起きないものだと感心するよ。
「にしても、皆さんゴールデンウィークに見た時よりお腹が目立ってきてますね。 神崎さんなんて今にも産まれそうじゃないですか」
「きゃはは。 まだまだよん。 11月頭くらいが濃厚ね」
「そのお腹で後二月半?!」
「ええ」
「妊婦さんって大変ですね」
「姫百合さんもその内経験するわよ」
「残念ながらお相手がいません」
「ゆりりんやったら引く手数多やろ」
「数多でも私が手を取らないので」
「何でこんなのに惚れたのに、他の男はダメなのよ?」
「こんなので悪かったな」
宏ちゃんは割と良い男だと思うけど、私達の中ではバカで腹減らしでイジられ役の人扱いだからねぇ。 まあ、カッコイイというのは間違いないけど。
「よくわからないんですよねー。 何で佐々木君だったのか」
「優しくて超絶イケメンで理知的で身長も高い最高の男だからな……トップアイドルすらも惚れさせてしまう自分が恐ろしい」
「私はそのとんでもなく自意識過剰になれるあんたが恐ろしいわよ」
「あら? 優しくてイケメンで身長が高いのは事実じゃないですの? ただ、それを全て帳消しにしちゃうぐらいバカなのが問題なんですわよ」
「おかしな話だぜ!」
「だはは!」
「まあでも、そういう欠点があるのが逆に良いと思いますよ。 完璧な人ってなんか逆に何か嫌じゃない?」
「夕ちゃん君どう? 亜美っちの事嫌?」
「亜美は完璧に見えてボケボケで結構抜けてるからな。 愛嬌あるぞ?」
「ボケボケで抜けてるって……ひどいねぇ」
「北上君はどないや?」
「奈央さんも完璧ではないですよ」
「私は完璧ですわよー!」
「よく幼児対抗してるし、金銭感覚おかしいし」
「むきーっ」
「確かに完璧では無さそうですね」
とまあ、完璧な人間なんてそもそも居ないと思われるよ。 まあ、姫百合さんが他の男性に興味を示さないのは、まだどこかで宏ちゃんへの未練があるからなのかもしれないね。
「ゆりりんは皆なゆりりんだからな」
「そやな」
「アイドルですから」
「そだねぇ」
アイドルというのは皆に夢を与える仕事だというし、誰か特定の人にだけとはいかないよね。
「そういえば、昨日の『ミルフィーユ』の配信見てましたよ! オリジナル曲作ってるんですね? 清水さんが作曲したって言ってましたけど良い曲ですね」
「いやいや。 適当に作っただけだよ」
「適当に作ってあんな曲出来るなら天才だと思うんですが」
「いやいやー、それ程でも」
「歌詞が付くの楽しみです。 どうして作詞はプロに任せちゃったんですか?」
と、姫百合さん。 確かに以前作った曲は自分で作詞作曲したものだけど……。
「自分で作詞するとどうしても主観が入っちゃうからねぇ」
「『Famille』だったっけ? 『家族』って意味ですよね? 家族って今井君とか雪村さんの事?」
「ううん。 ここに集まってる皆の事だよ。 だから主観が入るとどうしてもね」
「なるほどなるほど」
「亜美ちゃんが書いたらめっさ恥ずい歌詞になりそやもんな」
「そうなんだよ。 だからライターさんには皆の事を思いながら作った曲だって話はしたけど、他は大体お任せだよ」
「完成が楽しみですね。 是非一緒に歌いたいです。 あ、そうだ! 『ミルフィーユ』さん、テレビ出演してみないかな?!」
「テ、テレビ?」
「今はさすがに無理よね」
「妊婦さん二人もいるしー」
「それに、テレビ出る程やないし」
「いやいや! 人気のギター四重奏ですよ皆さん。 登録者数見てます?」
「う、うん」
確かに凄い数の登録者数に達してはいるけど、テレビはまた違うかなぁとは思っている。
「テレビは良いかなぁ。 今見てくれている視聴者さんを大事にしたいしねぇ」
「そうね。 テレビに一回出ちゃうと前例が出来ちゃって色々な番組から呼ばれたりしそうだし」
「そうですか……スカウト失敗!」
「あ、あはは」
そこは変わってないなぁ、姫百合さん。 私達を歌手デビューさせようと、あの手この手を使ってくるよ。
◆◇◆◇◆◇
夕飯の支度の時間である。 まあ私は何もしないんだけど。
「妊婦さん達は基本的にゆっくり過ごしてらっしゃるんですね」
姫百合さんが私達妊婦組を見て言う。 まあ、さっきから皆リビングでのんびりしてるからね。
「うん」
「家事は皆に任せてますわよ」
「逆に退屈で仕方ないわよん」
「そうね」
「あはは……。 そうだ! 明日、コラボ配信しません?」
「『ミルフィーユ』と?」
「はい」
以前にもやった「ミルフィーユ」と姫百合さんのコラボ配信。 今回は我々のチャンネルでやろうとの事。 まあ、それなら良いかなという事で快くOK。 明日が楽しみである。
明日は姫百合凛との突発オフコラボ配信。
「紗希よ。 来る時はいつもいきなりよね」
「困ったアイドルさんだよ」




