第2206話 夏はやっぱりそうめん
台所組はそうめんを昼食にしようと思っているようだ。
☆弥生視点☆
8月5日やよー。 仕事組は朝早うに順番に出勤して行きよったで。 残ったメンバーも今は掃除組と台所組に分かれて慌ただしくしとるよ。 ウチ? ウチは台所や。 昼の準備っちゅうわけやな。
「まあ、暑いし昼はそうめんでええやんな」
「そうめんにするんですの? それならば流しそうめんにしません?」
「流しそうめん? ええやん! 風流やし」
「何か嫌な予感するんだけど」
「嫌な予感って何ですのよ紗希?」
「別にー」
「もしかしてやけど、また例の流しそうめんマシンでやるんか?」
「違いますわよ。 あれから更に改良した新型機ですわ!」
「だはは!」
「やっぱりね」
「あの? 何の話ですか?」
「あ、マリアっちは知らないか」
「はい」
「何年か前に、西條さんの家で流しそうめんをやったんやけどな」
「めちゃくちゃ巨大な機械が出てきてさー、物凄いスピードでそうめんが流れて来たのよねー」
「速度調整はちゃんとしたじゃないの。 それに最新型はあの時よりコンパクトですわよ。 ここの庭でも出来るぐらいよ」
「ま、まあせっかくなんでそれで流しそうめんやってみましょう」
と、冴木はんはちょっと興味あるみたいやな。 マリアもマリアで「そうですね」と、賛成しよった。 まあ、楽しそうやしええか。
◆◇◆◇◆◇
昼前には庭に機械が運び込まれて来よった。 確かに、以前の機械に比べてかなりコンパクトになってはいるみたいやな。
「流しそうめん楽しみだねぇ」
「掴むよぅ」
「では機械の説明からしますわ」
「わかってるわよ。 どうせ茹でから始まって茹で終わった物から冷水で締められて流れて来るんでしょ?」
確かそないな感じやったな。 速度調整は既にしてあるんやろうか?
「ふふふ。 最新型を舐めないでちょうだい」
「な、何かあんの?」
「粉からですわ」
「はい?」
「粉から麺を作る工程から始まりますわ」
「嘘でしょ……」
「なはは!」
「だはは!」
「ワハハ!」
「うわはは!」
「まさかそこから始まるとは……」
「まあ、すぐに出来ますわよ。 何せ西條グループの技術力で作られてますもの。 私達妊婦組は下流の方で座って待ちましょう」
「らじゃだよ」
亜美ちゃんだけは普通にしとるなぁ。 あれももう西條グループの人間やな。
「では春人君。 スイッチを入れてちょうだいな」
「はい」
北上君がポチッとボタンを押すと、ブィーンと音を立てて機械が動き出しよった。
「材料投入!」
「そこからかいな!」
北上君は言われるがままに材料ホッパーに必要な材料を投入していく。 そこは手作業なんやな。
「本当にこれでそうめんが出来るんですか?」
「まあ見ててよマリアちゃん」
機械の中では今頃素麺の生地が練られとるんやろうか?
ガコンガコン……
ブィーン!
ピピッ! ピピッ!
「茹でに入りましたわ」
「早っ?!」
「どないしたらそない早く茹でまで進むねん?!」
「西條グループの技術力は世界一ですわ!」
「いやいや、そういうレベルちゃうやん」
ものの数分で小麦粉からそうめん精製しよったで。
「ほ、本当に美味しいんでしょうか?」
「不安でス」
「ワハハ」
ピー! ピー!
「そろそろ流れて来ますわよー! 準備を!」
「も、もう流れて来るのか?」
「無茶苦茶や!」
ビュンッ!
とか言うてる間に、物凄いスピードで目の前をそうめんらしき物が流れていった。
「はぅっ!」
シュッ!
「掴めたよぅ!」
「奈央ー! こんなスピードを掴めるの希望ちゃんだけじゃん!」
「おほほ、失礼しましたわ。 最高速度設定になってましたわ」
「何で調整してないのよ……」
「出荷時設定が最高速度設定なのよ」
「なはは!」
「通常設定で出荷しなさいよ……」
北上君がポチッと速度設定を変えると、ウチらでも掴めるぐらいの速度でそうめんが流れてきたで。
「よっと!」
「なはっと!」
皆が順番にそうめんを掴み、つゆに潜らせて……
「いただきます」
ツルッと啜る。
「んむんむ……美味い!」
テーレッテレー!
「粉から完成までの時間があまりにも短か過ぎて不安やったけど、普通に美味いやん」
「本当、どうなってんのよこれ……」
「こんなの、そうめんの製造所が泣くじゃないですか」
「あはは。 まあ、さすがに企業秘密だよ」
「それはそうやろナ」
「美味しいでス」
「天堂さんに星野さん。 手が止まってるけど大丈夫?」
「あ、はい」
「あまりの衝撃に思考停止してました」
まだ新参者な二人にはさすがに衝撃強かったかー。 まあ、いきなりこないな機械を庭に置いて流しそうめんなんて普通やあらへんからな。 しかも謎技術で粉から数分でそうめんになるしやな。
「奈央と一緒に居たらこんなの日常茶飯事よん? 慣れなー」
「は、はい」
餅つきマシンとかも出て来た事あったなぁ。 西條グループは何でも作っとるみたいやな。
「ちなみにこの辺の業務用機械て何処で作っとるん?」
「こういうのは西條マシンファクトリーで製造してますわ」
「西條MFですか」
「そそ」
ふぅん。 ほんま何でもやりよるな。
「ツルツル……うめー」
昼はたらふくそうめんを食うて、機械はすぐにどっかへ運ばれて行ったで。 撤収も早いんやな……。
◆◇◆◇◆◇
昼飯を終えたウチとキャミィと麻美っちは、星野さんからバイクのカスタムの手解きを受けとる。 ウチはまだパーツを買ってはいいひんけど、キャミィがマフラーを換えるみたいで、パーツを持って来とる。
カチャカチャ……
「あ、そこにある配線はウインカーの配線なので一旦外しておきましょう」
「ラジャ」
「詳しいなぁ」
「弄ってる間に覚えちゃいました。 あ、留め具をレンチで緩めて外せたら、マフラー本体を軽く揺すりながら外してください」
「ラジャ」
「ガスケットが固着してくっ付いてるので外れにくいですが、力ずつでやると壊れるリスクがあるので、軽く揺すりながら外した方が良いです」
「ほむほむ」
「はずれタ」
「バイク本体の方に残った液パとかを綺麗にしましょう」
「何やそれ」
「液体パッキンですよ」
「ああ、パッキンなんや」
「でけたデ」
「では、新しいマフラーに換装しましょう。 新しいガスケット、エキパイを角度を調整しながら着けていきます」
カチャカチャ……
「キャミィも何やかんや器用やな」
「ですね」
「本当にお嬢様なのかー?」
「らしいで」
「センターパイプを取り付けて、液パを塗ったら付属のボルトナットやサイレンサーを仮止めして調整。 最後はしっかり増し締めして排気漏れをチェックしましょう」
カチャカチャ……ギッ……
「ヨッシャ! ほなエンジンかけるデ」
「どうぞ」
キャミィがキーを入れてエンジンを回す。
ブゥン! ボッボッボッ……
「良い音やな!」
「ですね! 排気漏れも無さそうです」
「ワハハ! サンキューやデ」
「いえいえ。 いつでも相談してください!」
「今度ウチもお願いしよかな」
「はい、是非!」
バイク弄りも何やかんやおもろそうやな。 釣りとは違った楽しみを見つけた感じや。 星野さんに感謝感謝やで。 この別荘で過ごす間にウチも教わろ。
色々と謎だがそうめんは美味しかったらしい。
「奈々美よ。 本当に意味わからないわよね」
「企業秘密だよ」




