第2195話 フォームはバラバラ
アルテミスのチーム練習から帰ってきた麻美達。
☆麻美視点☆
今日は7月17日金曜日。 バレーボールの練習で疲れて帰って来た私達は、「皆の家」で寛ぐ事にー。
「なははー。 疲れたー」
「ほんまやで」
「練習メニューが中々ハードですもんね」
「あれ、前田さんが作ったんですよね?」
「そうらしいー」
チームの練習メニューはチームマネージャーの前田さんが作っている。 前田さんが集めたチームの選手のデータを元に、一人一人に合った練習メニューを組んでいるのだとかー。 ペットショップの仕事で忙しいはずなのに、いつそんな事をしているのかー。
「麻美はどないなメニューなん?」
「クイックー」
「ブロックやないんか」
「ブロックは今のままで大丈夫って言われたー」
「まあ、世界トップクラスのブロッカーやからな……」
「蒼井先輩の方が凄い」
「その先輩が麻美の方が凄いて言うとるやん?」
「あれは謙遜しているー!」
蒼井先輩の方が凄いブロッカーだと、私は思っているー。 私は何か直感でブロックするからミスも多いけど、蒼井先輩は長年の経験から来るデータと理論でブロックするからミスが少ないー。
「麻美はあのゲスブロックさえ何とかなったらなぁ」
「匂うんだよー」
「さよか……」
「あはは……でも麻美ちゃんのゲスは精度高いと思うよ」
黙って話を聞いていた亜美姉が、不意にそんな風に話に入ってくる。 亜美姉ももう妊娠6ヶ月になり、ちょっとお腹も目立って来たところ。 今は「皆の家」で寝泊まりをしているー。
「ま、まあ、これのゲスには助けられる事多いけどやな」
「なはは」
「ただ、ゲスブロックはレシーバーとの連携が取り辛いのも事実だから、そこには注意してね」
「わかったー」
「私は麻美ちゃんがゲスブロックする前提で身構えてるよぅ」
「さすがは希望姉ー!」
「私以外がリベロの時はやめた方が良いよぅ」
「わかったー」
という事は、クロエさんがリベロでいる時はやめた方が良いかー。
「意識してやめられるんか?」
「よゆー」
「ほな普段からやめなはれや……」
「なはは」
それとこれとは別というやつであるー。 止める自信があるからゲスブロックに跳ぶ。 それだけである。
「渚はエースだし、アタックの練習ー?」
「レシーブ練習や……」
「なはは! レシーブ練習かー」
「前田さんは長所を伸ばすより短所を強化する方向のメニューを組んだんだろうね」
「私、クイックが短所だったのかー?」
「んんー……。 麻美ちゃん、クイック上手だと思うけどねぇ。 ブロックよりはそっちを磨いてほしいって事なんだろうね」
「なるほどー」
「前田さんに任せておけば間違いありませんわよー」
西條先輩がパソコンを閉じて話に入ってきたー。 何やら仕事をしていたのだろうかー?
「他のベンチメンバーはどうですの?」
「皆頑張ってますー。 特に海咲さんはー」
「海咲さんは新戦力だからねぇ。 どんなバレーボールをするのか楽しみだよ」
「星野さんと天堂さんは一緒にプレーしたんですわよね?」
「私はそんなにですけど、星野さんは一年間一緒にプレーしてたかな」
「ですねー。 高さ、パワー、テクニックどれも高い水準ですよ」
「おー。 バランスタイプなんだね」
「パワー極振りとか高さ極振りみたいな私達の世代とは違いますわねー」
「高さは武器なんだよ」
「何言ってんのよ。 バレーボールに必要なのは相手を砕く圧倒的なパワーよ」
「あ、奈々ちゃん」
何処かに行っていたのか、今までいなかったお姉ちゃんがリビングに入ってきたー。 相変わらずおっかない事言ってるー。 相手を砕いてどうするのかー。
「奈々ちゃんは本当にゴリラさんだねぇ」
「ゴリラ言うな」
「奈々美のパワーにも助けられましたわよねー」
「だねぇ。 奈々ちゃんなら決めてくれるって安心感もあったし」
「ま、エースの資質よね」
「きゃはは! なーにがエースの資質よ」
「紗希、いたの?」
「今しがた部屋から移動してきたのよ」
「神崎先輩もエースの資質ありー」
「当然よね」
「奈々ちゃんと紗希ちゃんのエース争いは見てて楽しかったよね」
「まあ、ずっと私がエースだったけど」
「ぐぬぬ」
「神崎先輩も凄い活躍してたー! 月ノ木のもう一人のエースだったぞー!」
「そうよね。 麻美はわかってるわ!」
「実際、決定率は紗希ちゃんの方が出てたからね」
「そうよそうよ」
神崎先輩はたしかにスパイクの決定率が高いー。 特に真下打ちを使うようになってからー。
「まあ、そんな私達も今シーズンは全休。 あんた達が頑張らないと優勝は無理よ?」
「よゆー……って言いたいけど、クリムフェニックスは強いから大変ー」
「弥生と宮下さんね。 キャミィさんもいるし新田さんもヤバいし。 うん。 私達無しじゃ無理ね!」
「神崎先輩、そんなはっきり言わんでもええやないですかぁ」
「きゃはは」
「でもたしかに、先輩達抜きであのチームに勝つのは至難の業ー」
「一応クリムフェニックス戦には私は出るようにするよぅ」
「希望姉が居れば戦えるかもー」
「守備面は問題無しですわね。 後は攻撃の方ね」
「渚ならやれるわよ」
「が、頑張るつもりではあります」
「そういえば忘れてたけど、ミアさんも今年からじゃない?」
たしか私と同学年だからたしかにミアさんもかー。 クリムフェニックスのベンチメンバーに入ってるかー。 クリムフェニックスがまた強くなってしまうー。
「ますます私達抜きじゃ勝てないわね!」
「ここまでメンバー揃たら、さすがに最強チームやろうしなぁ」
「頑張って倒すぞー」
「そやな。 やる前から負けること考えるんは良うない」
もっと練習して強くなるー。
「クイックの練習頑張るぞー」
◆◇◆◇◆◇
夕飯も食べ終えてのんびりタイムー。 ネットでスパイクの基礎を勉強中ー。
「ふむー」
「麻美ちゃん、何してるの?」
「スパイクの基礎を勉強中ー」
「スパイクの基礎?」
「うむー」
「麻美ちゃん、スパイクは上手い方だと思うけどねぇ? 私、中学時代はOHにするつもりだったぐらいだし」
「なはは。 でも前田さんからは『フォームがバラバラ』って言われたー」
「それはブロックもだろ」
横から蒼井先輩に言われてしまうー。 私、ブロックのフォームもバラバラなのかー。
「麻美ちゃんはあれで良いと思うけどねぇ。 変に型にハマらない方がらしいよ」
「そうなのー?」
「私もそう思うな。 下手に矯正しない方が良いと思うぜ」
「じゃあ、今のままスパイクも極めるー! ちょいさ! ちょいさ!」
「あ、あはは」
私らしいプレーをしている方が強いという事らしいー。 そーいえば前田さんもフォームがバラバラだと指摘はしてきたけど、「直せ」とは言ってなかったなー。 前田さんも私らしいプレーでスパイクをマスターしろと言っていたのかなー?
「麻美ちゃんのクイックがバンバン決まるところ、早く見せてねぇ」
「おー! 任せろー!」
どんどん練習するぞー、
麻美はスパイクの練習を頑張るようだ。
「遥だ。 麻美は何だかんだ言って凄い奴だから」
「だよね」




