第2190話 愛馬のデビュー
7月に入ったある日。 テレビの前に集まる亜美達。
☆亜美視点☆
早くも7月になりました。 相変わらずじめじめして蒸し暑い日が続いている。 今日は7月4日の土曜日だ。 ギリギリ雨は降らないような天気である。
そんな中、私達はテレビの前に座ってある番組を見ている。
「次は函館第4レース、2歳新馬戦のパドック。 7頭立て、一番人気は3枠3番サイジョーゴールドです」
そう。 今日は遂に奈央ちゃんの持ち馬の一頭であるサイジョーゴールド君のデビュー戦なのである。 あと二頭デビューを控えている2歳馬がおり、サイジョーレディーちゃんは秋口デビュー、もう一頭はサイジョークラウンという男の仔がおり、冬にデビューを予定しているよ。
「一番人気なんだねぇ」
「みたいですわね」
ちなみに新馬戦なんて、強いか弱いかわからないはずなのにどうしてオッズがこんなに偏るのだろう? 宏ちゃんならわかるのかな?
「なはは。 解説が始まったぞー」
パドック解説とやらが始まったよ。 パドック解説とは、パドックを周回しているそれぞれのお馬さん達を、解説の人が評価していく時間だ。
「次は3枠3番サイジョーゴールド。 現在一番人気です」
「そうですねー。 馬体も良い感じにふっくらしてますし、トモの張りも良いですね。 歩様も力強いですし新馬とは思えない落ち着きです。 かなり期待できますよ」
解説の人からもべた褒めされるゴールド君ことネムスケ。 落ち着きって言うよりは生来マイペースなだけらしいよ。
「解説の話を聞くと納得の一番人気というわけですわね」
「だね。 ただ、結果よりまずは無事に帰って来てくれる事を祈るよ。
「ええ」
「競馬はよくわからないが、自分の知り合いの馬が走るとなると緊張すんな」
「よねー。 私もネットで応援馬券っての買っちゃったわよん」
「うんうん。 頑張ってほしいものだね」
パドックでの周回を終えたお馬さん達は、地下馬道と呼ばれる場所を通り本馬場へと向かう。 いわゆる本馬場入場、そして返し馬と呼ばれるものを観客に見せていく。
「一番人気サイジョーゴールドの入場。 どうご覧になりましたか?」
「ジョッキーが促してから返し馬に入るまで少し間がありましたが、返し馬自体はスムーズで良い動きでした。 問題無いでしょう」
「解説の評価も先程からずっと高評価ですわね」
「素人目にはよくわからないけどねぇ」
こういうのはプロの意見を参考にするしかないのである。 ちなみにオッズは今のところ2.4倍で二番人気の仔が4.5倍と少し差があるよ。 とはいえ、人気が全てではない。 結果がどうなるかは走ってみるまでわからないのだ。
返し馬を終えた馬はゲートの後ろの待機所で輪乗りを行いながら、ゲート入りの時を待つ。
「あ、ゲート入り始まったよ」
新馬戦のゲート入りが始まった。 中にはゲートを怖がって入りたがらない仔もいるが、ゴールド君は特にそういった様子もなくすんなりゲート入りして待っている。
「さあ、函館第4レース、2歳新馬戦7頭立て。 ゲート入り完了」
ガシャン!
「スタートしました! 6番、緑の帽子のターフウィンドが遅れました。 その他は揃ったスタートしました。 先頭争いは2番メイジハルカと5番のミスエスケープの2頭。 その後ろから1番ブルーウェーブ、更に外から一番人気のサイジョーゴールド」
4番手を進むゴールド君。 虎視眈々と前を窺っている展開だよ。 実況の人も良い位置だと言っているよ。
「さて、各馬3コーナーから4コーナー。 外からサイジョーゴールドがじわじわと前を捉えていきます」
「おー! 行けゴールド君!」
「最後の直線に入りました! 先頭はここでサイジョーゴールドに変わりました! 内ではメイジハルカ粘っているが、じわじわと差が開いていく。 2馬身、3馬身、サイジョーゴールド先頭! サイジョーゴールド1着!」
サイジョーゴールド君が先頭でゴールを駆け抜けた。 文句無しの勝利である。
「やりましたわね!」
「やったよやったよ!」
サイジョーゴールド君の見事なデビュー勝ち。 そして奈央ちゃんの馬主初勝利をいきなり達成。 仲間の皆も我が事のように喜んでくれている。
「ゴールド君、期待に応えてくれて良かったね」
「ケガも無さそうだし、一安心ですわね」
「うんうん」
秋口には期待の星のサイジョーレディーちゃんもデビュー予定だし、楽しみが増えるよ。
「ここに勝ったら次はどこを走らせる事になるのかしら?」
「うーん。 調教師さんに聞いてみないとわからないね。 要相談だよ」
「わかりましたわ」
競馬のローテーションというのには詳しくないから、そういうの専門家の人にお任せするしかないね。
◆◇◆◇◆◇
翌日。 早速調教師の先生から連絡が入り、いくつかの選択肢を提案されたよ。
「この後このまま函館の重賞である函館2歳ステークスに行くか、少し間を空けて新潟開催に出るか。 はたまたがっつり休んで秋口に走らせるか」
「うーむ。 難しいけどオススメはこのまま函館で走るのが良いみたいだよ」
「輸送も無いですものね。 応援に行けないのは悲しいけど、このまま函館を走ってもらいましょ」
「らじゃだよ」
調教師の先生にもそのように連絡して、ゴールド君の次走は月末の函館のレースに決まったよ。 いきなりグレードレースに出られるとは、何とも幸先の良い事である。
◆◇◆◇◆◇
そして、リアルの競馬で得た知識や感情はそのまま私が執筆している新作小説にも反映される。 やはり、実体験に勝る取材は無いよ。
カタカタ……
「亜美姉、順調に書けてるー?」
「うん。 ノッてるよ」
「おー」
「それはそうと、もうすぐ七夕だけど今年も宴会すんの?」
「ええ。 夏何処にも行かない分は宴会で賄うわよー」
「いぇーい」
「ほ、本当に宴会ばかりするんですね……」
まだまだ新参者の星野さんは、この宴会の多さにびっくりしているようだ。 ちょっと前に井口夫妻の入籍祝いをしたばかりだからねぇ。
「慣れるわよ」
「は、はい」
「東京組には連絡したの?」
「まだですわね。 今からしますわ。 そいっと」
ササッとスマホで七夕の宴会情報を流す奈央ちゃん。 7日は火曜日だし、宏ちゃんと前田さんもお休みだ。 賑やかなになりそうである。
「またあの部屋行くの? なんて言ったかしら?」
「擬似没入型スクリーンの部屋?」
「そうそう」
「そうですわねー。 まだ入った事ない人もいるし、今年も富士山頂から天の川を見ましょう」
「やったー!」
「え? え? 富士山頂から? どういう事です?」
天堂さんと星野さんはたしかにまだ行った事が無い部屋である。 いきなり富士山頂と言われて少し混乱しているようである。
「ふふ。 当日までのお楽しみですわよ」
「ま、また何かとんでもないことをするのでは……」
「ごくり……」
きっと二人もあの星空を見れば感動すること間違い無しである。 私も楽しみだよ。
愛馬のサイジョーゴールドがデビュー戦で初勝利。
「亜美だよ。 ようやくデビューしたねぇ。 これからの活躍に期待だよ」
「レディーのデビューも楽しみですわ」




