第2182話 弥生と武下
週末には弥生とキャミィの家に夕飯を食べに来ているらしい武下。
☆弥生視点☆
6月7日の土曜日や。 週末になると武下君を家に読んで夕飯を一緒に食べる習慣が出来とる。 今日も夕飯時には家に来よる。
「ヤヨイ。 きょうはナニつくるんヤ?」
「そやな。 今日は簡単に手巻き寿司でもしよか」
「てまきずしカ」
「そや。 酢飯だけ作ってあとは市販の海苔やら具材を準備するだけや」
「なんや、てぬきやナ」
「たまにはええやろ」
「ワハハ」
ちゅうわけでまずはスーパーで必要なもんを買ってくるで。
◆◇◆◇◆◇
帰って来たで。 具材は色々買ってきたでー。
「きゅうりに納豆にシーチキンに、サーモン、赤身マグロ、いくらにウニに……」
「かいすぎやロ」?
「まあ、食えるやろ」
「テキトーやナ」
「やかましわい。 さっさと酢飯作るで」
「ガッテンショウチノスケ!」
承知の助が誰か知らんけどサクッと終わらせるで。
炊けたご飯を底の浅い容器に移し、酢を掛けて団扇で仰ぎながらしゃもじで切るように混ぜる。
シャッシャッ……
「すっぱいニオイやナ」
「お酢やからな。 寿司とか食った事あるんやからわかるやろ」
「あれスメシなんか?!」
「ほんまかいな……」
キャミィの奴、知らんと食ってたんか。 曰く「ナンヤちょっとすっぱいナ」とは思ってたらしい。
「まあ、そういうこっちゃ。 ほれ、ちょっと食うてみ」
「おう。 はむ……オウ! スシたべたときにかんじるあじヤ!」
「そらそやろ。 同じもんやからな。 さて、あとは蓋して置いとくか。 じきに武下君も来るやろ」
「……なあヤヨイ」
「何や?」
「いつまで『タケシタ』なんヤ?」
「は? どういう意味や?」
「よびかたヤ。 いつまで『タケシタ』よびなんヤ?」
キャミィが珍しく真剣な顔をしながらそないな事を言い出した。 こういう時はほんまに大人の顔になりよるんよな。
「まあ、付き合い始めて結構経つもんな」
「せやデ」
「そやな。 そろそろ下の名前で呼んでもええかもしれんな……」
「ほな、きょうさっそくやナ!」
「ま、また急にやな……」
「ぜんはいそげヤ」
はあ。 しゃあないなぁ。 たしか下の名前は聖也やったか。 また似合わん名前しとんな。
◆◇◆◇◆◇
夕飯の前に武下君が我が家へやって来た。
「タケシタようきたナ」
「いやいや。 いつも夕飯に呼ばれて助かってるよ」
「おう、来たな聖也君」
「……ん?」
「ワハハ」
「何や不思議そうな顔して。 ウチら付き合い始めて結構経つやろ? 別に名前呼びしたかておかしあらへんやん」
「いや、急だったからびっくりして」
「ワハハ! ウチがシテキしたんヤ」
「ま、まあ、そうなんやけど」
「な、なるほど。 じゃあ僕もや、弥生さんって呼ぼうかな」
「好きな方でええよ」
「わ、わかった。 ところで今日の晩ご飯は何だろう?」
「手巻き寿司や。 簡単でええやろ」
「たしかに」
「海苔に酢飯敷いて、好きな具乗せて巻いてや」
「ガッテン!」
「いただきます」
ってなわけでなくウチも早速いただこか。 まずはサーモン巻きにしてやな。
「んむっ。 うむ、美味い!」
「そうだね」
「そやけど、ナオといっしょやったらもっとうまいデ」
「食材が最高級品になりよるからな」
「たしかに……」
「どないや? たけし……聖也君はあの連中と連むんは慣れたか?」
「結構慣れた方だとは思う。 まだ驚く事も多いけどさ」
「さよか。 そら良かった」
こやつは忙しい奴やから、皆と絡む機会はさほど多くはあらへんけど、まあそれでも多少は慣れたみたいで良かったで。
「清水さん達、お腹の子供は順調?」
「順調みたいやで。 皆、母体も健康やし胎児もすくすく育ってるやて」
「たのしみやナ」
「そうだね。 一気に赤ちゃんが増えるのか……」
「そやな。 騒がしなるで」
ただでさえ騒がしいあの屋敷が、今より騒がしなるて考えたら恐ろしい話やで。
ちなみに、亜美ちゃんと藍沢さん、紗希のとこの双子が女の子で、西條さんと蒼井さんとこの子が男の子らしい。
「ヤヨイとタケシタはいつつくるんヤ?」
「ぶふっ!」
「ゴホッゴホッ!」
「ワハハ」
ほ、ほんまにこいつはいきなりぶっ込んで来よるやっちゃな。 無茶苦茶やで。
「あのな、さすがに結婚もしてへんうちからそないな事は考えへんで」
「そうなんカ? ミチカはケッコンまえにできたデ?」
「あれはもう結婚も決まってたんや。 前後しただけや」
「ほな、ヤヨイとタケシタもケッコンきめたらええやン」
「あ、あはは」
「キャミィあのな。 人にはそれぞれペースってもんがあんねん。 ウチはまだ今のままでええと思うとる。 まあ、聖也君がウチと同じかは知らんけどやな」
「僕もまだ今のままで良いと思う」
「そ、そうなんカ?」
「そや。 時が来て、結婚したいと思うようになったらその時は結婚もするし、子供かて作るかもしれん」
「ほんまカ?」
「ほんまや。 だからキャミィは見守ってくれてるだけでええ」
諭すように言うとキャミィは「それがキケたらあんしんヤ」と、納得してくれたみたいや。 キャミィはキャミィなりに、ウチらの仲を心配してくれてるんやろう。
見てる側からしたら、全然進まんしヤキモキするんやろな。
「まあ、なるようになるよ」
「ウチはヤヨイにはシアワセになってほしいんヤ。 タケシタ、たのむデ」
「ははは、頑張るよ」
聖也君も忙しい身ながら、こうやってちょいちょい我が家に来てくれよるし、全然関係が進展せんでも文句も言いよらへんし。 ウチもちょっと甘え過ぎなんかもしれんな。
◆◇◆◇◆◇
晩ご飯を食べてしばらく談笑したウチら。 今日も聖也君を家まで送ろうと思い立ち上がると。
「タケシタ、あしたやすみやロ? とまっていったらええやン」
「え?」
「は?」
キャミィがニコニコしながらそないな事をを言い出した。 まあ、たしかに明日は日曜日か。
「どないする?」
「え? 良いの?」
「別に構わんよ? どうせ明日の晩も食べに来るんやろ?」
「そうだけど」
「きまりやナ」
「そやな」
と、あっさりと決まり、聖也君は「えぇ……」と、ちょっと困ったような顔を見せる。
「何や? 明日何かあるんか?」
「いや、無いけど。 いきなり彼女の家に泊まる事になって困惑してるというか」
「そない緊張せんでもええがな」
「そヤ。 じぶんのいえやとおもっテくつろいでヤ」
「わ、わかったよ」
まだ何処か緊張しとるみたいやな。 まあ、その内いつも通りになるやろ。
「風呂沸かすさかい先入ったってや。 ウチ、洗い物してから入るさかいな」
「わかった」
「ワハハ! ウチとはいるカー?」
「えぇっ?!」
「ワハハ! アメリカンジョークってやつヤ」
「は、はあ」
キャミィにおちょくられとるな。 さて、ウチは皿洗い済ませてからゆっくりと浸かるとしよか。 にしても、家に男を泊める日が来るとはなぁ。
二人の関係は中々進まない。
「奈央ですわよ。 人それぞれとは言えさすがにねー」
「牛歩過ぎるよねぇ」




