第2168話 アイドルのデートをサポート
作戦会議を始める亜美達。
☆亜美視点☆
バーベキューから「皆の家」へ戻って来た翌日である。 お昼も食べ終えた私達は、リビングに集合していた。 まあ、集まっているのは恋バナ大好き女子のメンバーだけだけど。
「というわけで、今から岬ちゃんと彼氏君のデートをサポートする為の会議を行いますわよ」
「お願いします!」
「岬ちゃん、結構真剣だね」
「本当に、普通に二人でお出かけした事も無いので……」
「大変よねー、アイドルの恋愛事情……お察しするわ」
紗希ちゃんは大きく頷きながら何やらわかった風な反応を見せている。
「事務所的には恋愛OKな事務所なのよね?」
奈々ちゃんが確認すると。それに答えたのは姫百合さんであった。
「うん。 恋人公表してる人はそれなりにいる」
「でも岬ちゃんは公表ダメなんだよね?」
「岬はまだ学生だし、私達はファンとの距離の近いタイプでいわゆる『ガチ恋営業』というやつですので」
「そのガチ恋営業とは何ぞやだよ」
実は私、そういうのあまり詳しく無いんだよね。 私の疑問には紗希ちゃんが答えてくれる。
「ガチ恋営業っていうのは、距離の近いアイドルにファンが恋愛感情を抱くのを利用したアイドル活動の事よん。 ファンが『自分は○○ちゃんの恋人だ!」って思い込むのよ。 そんなアイドルに本当に恋人がいるなんて事になったらどうなるかわかる?」
「暴動が起きるよ……」
「ま、そゆこと。 だから、そういうタイプのアイドルは恋人がいても公表しない、出来ないってわけ」
「な、なるほど……大変な業界なんだね」
「ちなみにゆりりんはどうなんや?」
「私は大丈夫ですよー。 正統派で売ってるので。 ま、相手がいませんけど。 佐々木君にはフラれましたし」
「え、姫百合さんって佐々木先輩が好きだったんですか?」
「そうなのよ。 意外でしょ?」
「佐々木君が姫百合さんより奈々美を選んだのも意外よね」
「まあ、年季の差ってやつよ」
それは多分にあるだろうね。 幼馴染は強しなのである。
「それはそうと、岬ちゃんのデートサポート作戦の話だよね」
「ですわね。 まずは日程だけど、いつが良いですの?」
「すぐじゃなくても大丈夫です。 彼は普通に高校通ってるので夏休みとかでも」
「なるほど、夏休みね」
準備時間は十分にあるね。 エキストラの準備とか大変だし。
「となると、場所は海とかが良いかしらね?」
「そ、そうですね。 デビューしてからは彼とはプールすら行った事無いので」
「うへー……きついわね」
「場所は海が良いと……千葉にある西條グループの海水浴場が使えますわね」
「何回か行ったよね。 プライベートビーチもあるし最適だよ」
「プ、プライベートビーチ?」
「西條グループだから」
「あ、ああ……はい」
とまあ、ここまで話が聞ければ場所とホテルは絞り込めるね。 私はパソコンをカタカタと操作しながらいくつかピックアップ。 その中から、プライベート旅行に使いやすいホテルを選択。
「奈央ちゃん。 ここが良さそうだよ」
「サイジョーシーサイドホテルチバですわね。 岬さん、どうでしょう?」
パソコンを岬ちゃんの方に向けてホテルの内容を確認してもらう。
「西條グループのホテルで、高層階は完全プライベートスペース。 西條グループの海水浴場直結。 西條グループ関係者専用プライベートビーチ有……何か凄くないですか?」
「普通ですわよ」
「ふ、普通……」
岬ちゃんはちょっと顔を青ざめさせているが、ホテルの内容については文句無しとの事。 詳しい日程を決めて予約を取る手筈を整える。
「7月28日ですわねー。 西條奈央の名前で予約を取りましたわ」
「あ、ありがとうございます」
「後は、当日前後の他のお客様の排除だね。 まずは予約客のキャンセルだけど、それっぽい理由を作らないとねぇ」
「何か、やってる事はとんでもなく悪質よね」
「わ、私、本当に良いんでしょうか?」
「問題ありませんわよー」
「これぐらいでどうこうなるような西條グループじゃないよ」
「は、はあ」
「でも、すでに予約してくれてる人達を追い払うのはやり過ぎではないですか?」
マリアちゃんからもそう言われてしまう。 まあ、あまり褒められたやり方とは言えないねぇ。
「じゃあ、エキストラ役を用意するのはやめて、お客様には協力してもらう方向にしよう」
「協力ですの?」
「うん。 まず、プライベートフロアにはアイドルの岬ちゃんが泊まっている事を周知してもらう。 その上で、彼女と連れの人の事は一切口外しない事を誓約してもらい、誓約出来る人は宿泊費を割り引かせてもらうというのはどうだろう?」
「良い案だとは思いますわよ? しかし、それでも全ての人を信用する事は出来ないですわよ?」
「まあ、そこはモラルによるところはあるね。 じゃあ、こうしよう。 ホテルに滞在中は、こちら側が用意した携帯端末を使用してもらい、お客様の端末はチェックアウトの時までフロントでお預かりする。 SNSの使用は制限させてもらう。 端末のデータはチェックイン、アウト時に転送させてもらうけど、カメラデータはこちら側でチェックする」
「何か凄い事に……私のデートって国家機密か何かだったんでしょうか?」
「まあ、それに近しいモノではあるんじゃ?」
「岬ちゃんのスキャンダルを阻止するには色々な策を講じないと」
「なはは! 何か映画みたいになってきたー!」
「岬ちゃん。 大丈夫だよ。 私達西條グループに任せて!」
「は、はい」
何としても、岬ちゃんにデートを楽しんでもらうよ!
◆◇◆◇◆◇
作戦会議も終了し、後は夏を待つばかりだよ。 結局、岬ちゃんの要望により他のお客様への締め付けは緩め、岬ちゃんと彼氏君の方が出来るだけ注意するようにするとの事で話がついた。 ホテル側も出来る限り二人に協力する体制を整えておく事にするよ。
「プライベートフロアに出入りするのは限られた人だけに制限するのが良いよね」
「ですわね。 ルームサービスの運搬ぐらいにした方が良いですわね」
「お風呂は部屋にあるから問題無し。 ホテル内を歩く時は変装するって言ってるし何とかなるかな? ビーチはプライベートだし……うん、大丈夫」
他のお客様に負担を掛けないやり方はやはり大事だねぇ。
「亜美ちゃんもあれやな。 かなり西條グループに染まってきよったな」
「そうよね。 もう立派に奈央の秘書って感じしたわよ」
「まあ、奈央ちゃんの下で働いてるとこうなるよ」
「おほほ。 頼もしい秘書ですわよ」
「亜美ちゃんもその内、奈央ちゃんみたいに土地の買収とかし出すのぅ?」
「さすがにそこまでは染まらないと思うよ……」
「いーや。 ここまでの染まり方を見るに、いつかは良い出すわよん」
うう。 あり得ないと言えないのが苦しいよ。 私もいつか奈央ちゃんみたいになるのかなぁ?
作戦内容が決まり夏を待つばかり。
「奈々美よ。 結局、岬ちゃんがほとんど決めたわね」
「私達のやり方はやり過ぎなんだねぇ」




