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第2145話 だし巻き玉子を作ろう

花見の日の午前中。 台所に呼ばれた夕也だが。


 ☆夕也視点☆


 4月13日の日曜日。 今日は昼から市内にある湖のある公園で、花見をする予定になっている。 デートスポットになっていたり、色々と遊べるし何かとよく行く場所なのだ。 俺も亜美や希望とデートに使った事もあるからな。

 そんな湖のある公園には、奈央ちゃんが買い取った土地があり、そこが桜の一番綺麗な一画となっているのだ。 花見用の土地を買い取ってしまうとはさすが奈央ちゃんだよな。


 さて、先程も言ったように花見は昼からなので、午前中はその準備となる。 特に花見で食べる弁当等の準備に女性陣は大忙しだ。 男性陣は荷物をまとめて、私有バスのトランクに運搬している。

 そんな中俺は、男性陣の手伝いではなく台所へとやって来ている。 何故かというと、週末恒例の料理教室の為だ。 昨日は亜美の誕生日パーティーの準備、今日は花見用の弁当の準備があり、今週は料理教室は休みだとばかり思っていたが、希望が「今日はやるよぅ」と、俺を呼んだのだ。


 バタバタ……


「な、何か皆大変そうだぞ? 俺は邪魔なんじゃないか?」

「大丈夫だよぅ。 夕也くんには、私が担当しているだし巻き玉子を教えるからね」

「ほう、だし巻き玉子」


 今までの親子丼やチャーハン、カレーにオムライス辺りと比べると簡単そうだな。


「あ、今簡単そうだと思った?」

「ギクッ」

「やっぱり」

「しかしな、今まで教えてもらった料理に比べるとだな」

「まあ、それはそうかもしれないけどね。 だし巻き玉子はいかに綺麗に美味しく出来るかが大事なんだよぅ」

「言うて玉子焼きだろ? オムライスも何とかなったし問題無いだろ」

「夕ちゃんが作ったオムライスの玉子はぐちゃぐちゃだったけどねぇ」

「うぐっ」

「あはは……じゃあとりあえず始めよぅ」

「おう」

「まずは調味料や材料の準備だよぅ」

「材料って卵だけだろ?」

「うん。 一巻き大体4つだよぅ」

「結構使うな」

「そぅだね。 あとは調味料。 だし汁、砂糖、みりん、あと醤油はお好みで。 少し塩味が欲しければ醤油を少々、甘いのが良ければ醤油は無くても良いよぅ」

「なるほどな。 俺は醤油入れたい派だぜ」

「じゃあ準備して計量しよぅ」

「了解!」


 てなわけで早速調味料の計量を始めていく。 希望から適量を教えてもらい、その通りに計量していく。


「へぇ、今井君ちゃんと出来てるじゃん」

「ふん。 まあ、俺にかかればこんなもんだ」

「みりん、溢れてるけど」

「ぐぬぬ」


 とりあえず希望に言われた量の調味料を計量し終え、調理に入っていくぞ。


「まずは卵液を作るよぅ」

「卵液とは?」

「きゃはは。 卵と調味料を混ぜた液の事よん。 だし巻き玉子の種みたいなもんね」

「なるほど、サンキュー紗希ちゃん」

「どういたしまして」


 紗希ちゃんはサンドイッチを作りながら俺の話相手になってくれているようだ。 器用だなぁ。


「まずは卵を割ってボウルでよく溶くよぅ。 この時、あまり泡立てないようにするのが綺麗なだし巻きを作るコツだよぅ」

「ふむ。 泡立たないように」

「空気を含まないように、菜箸で軽く左右に切るように混ぜるのよん」

「サンキュー紗希ちゃん」

「はぅ。 私が先生なのに」

「きゃはは。 ごめんちょ」


 とりあえず言われた通りに卵を溶いていく。 なるほど、こうやると空気が混ざりにくいんだな。


「よし、こんなもんか」

「ぅん。 次は調味料を別の容器に入れて混ぜるよぅ」

「卵の中に入れて混ぜないのか?」

「ぅん」

「わかったぜ」


 希望先生が言う通りに作れば何でも上手くいくからな。 疑う必要は無いぜ。


「調味料を入れて混ぜる」


 シャカシャカ……


「ちゃんと混ざったら、卵の方に入れて全体に馴染むようにゆっくり混ぜる」

「おう」


 ゆっくり混ぜる。 ここもやはり泡立たないように気を付けなければならないんだな。


「出来たぞ」

「さて。 ここでもう一手間だよぅ」

「何だ? まだ焼かないのか?」

「まだだよぅ。 次にこの笊で卵液を濾すよぅ。 これをする事によって卵白と黄身が綺麗に混ざって、焼き上がりが綺麗かつ口触りが滑らかなだし巻きになるんだよぅ」

「ほう。 だし巻き玉子作るのにそんな一手間をかけていたんだな」

「そぅだよ」


 という事で、やはり言われた通りに作業をこなしていく。 だし巻き玉子なんてサクッと出来ると思っていたが、案外手が込んでいるんだな。


「これで卵液完成だよぅ。 ここからは焼きに入っていくよぅ」

「ようやくか」

「うん。 さ、玉子焼き用フライパンに油を敷いて、少し熱して卵液の4分の1ぐらいを入れて焼いていくよぅ」

「うむ」


 ジューッ……


「この辺はオムライスの玉子と一緒か」

「そうだよぅ」


 ある程度焼けてきたら玉子を綺麗に巻き、空いた場所にまた卵液を四分の一入れて焼きを繰り返す。


「おおー。 結構綺麗に出来てるじゃん」

「ふん。 俺にかかればこんなもんだ」

「夕也くん、すぐ調子に乗る……」

「まあまあ、良いじゃんー。 こんだけ出来たら調子にも乗るわよ」

「ぐはは!」

「はぅ」


 てなわけでだし巻き玉子が完成した。 白身がほとんど混じっていなくて綺麗な黄色のだし巻き玉子になっている。 これは笊で濾した効果なのか?


「あとは綺麗に切り分けて重箱に盛り付けるだけだね。 一切れ味見してみよぅ」

「うむ。 んむ……美味い!」

「美味しく出来たよぅ」

「私も一口……きゃはは、美味しいじゃーん」


 紗希ちゃんからもお褒めの言葉を頂き大変満足だ。 おさらいしながらもう一巻き作らせてもらい、しっかりとだし巻き玉子を習得する事に成功したのだった。



 ◆◇◆◇◆◇



 昼前には全ての準備を済ませてバスに乗り込み、花見へと出かける。


「良い天気だねぇ」

「ですわね」

「奈央ー。 花見用の土地って手入れはしてあるのん?」

「勿論、管理人に任せてありますわよ」

「さっすが」

「おほほ」


 奈央ちゃんは何にでも全力だなあ。


「可憐、これから皆でお花見よー」

「おーあなーみー」

「そうそう」


 可憐ちゃんはもう言葉をある程度理解し始める時期になってきたらしく、母親の言葉を聞いて真似するようになったらしい。 物を指差して名前を教えてあげると、しっかり覚えるみたいだ。 ただ、車は「ブーブー」だし、マロンやメロンは個体まではまだ認識していないらしく全て「にゃーにゃ」だ。


「人間は見分けつくっぽいけどね」

「まあ、すぐに成長するさ。 なあ、可憐」

「だいくんー」

「あはは。 パパの事を名前で呼ぶようになったんだねぇ」

「私の真似しちゃって」

「可愛いねぇ」


 今ではしっかりと一人歩きするようにもなり、更に目が離せなくなったと宮下さんは言っているが、何よりも我が子の成長が嬉しくて仕方ないとの事。 年末には俺も父親になるわけだし、その気持ちがわかる日が来るのかもしれないな。


 


夕也の料理のレパートリーが増えていく。


「遥だ。 何か私より手際良くないか?」

「あはは、そんな事はないよ」

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