第2142話 バックスピンサーブ
2セット目も際どい試合展開。
☆亜美視点☆
クリムフェニックスとのセミファイナルも、2セット目終盤に突入したよ。 セットカウント1-0でリードしている私達アルテミスは、このセットも取ればかなり有利になる。 スコアは現在21-20となって……あ、今21-21になったよ……。 とにかく、ブレイクを取らないとセットを取れないの。 私はこのセットはベンチ待機の為、声を出して応援する事しか出来ない。
「頑張れ皆ー!」
「声出てますわね……」
「清水さん元気ですね」
「まだまだ体力有り余ってるからねぇ! 次のセットも全力で動けるよ!」
「あんまり無理しないようにしてくださいよ、先輩」
「お腹に赤ちゃんいるんですから……」
「あ、あはは」
バレーボールしてるとついつい……。 やっぱり好きなんだなぁ、バレーボール。 辞めなくて良かったよ。
「あ、ブレイク取ったよ! ナイスだよー!」
決めたのは天堂さんだねぇ。 天堂さんも中々やるねぇ。 23-21となって2セット目も大詰め。 相変わらずクリムフェニックスとの試合はこうなるねぇ。 しかし、私達月ノ木メンバーがフルメンバーで揃わなくても戦えてるのは凄いね。 皆、成長してるって事だよ。 天堂さんに高嶺さんは私達がいない時の主軸だねぇ。 もちろん佐伯和香さんも忘れちゃいけない。
「お、セットポイント来たねぇ」
「このセット取ればかなり大きいですわよ」
「だね」
2セット連取出来れば1セットは取られてもまだ気持ちに余裕があるからね。 まあ、1セットも取られるつもりは無いけど。
「おー! 紗希ちゃんが決めたよ! やっぱり紗希ちゃんは凄いよ」
「これで2セット連取ですね。 清水さんと西條さんが抜けてもクリムフェニックスと戦えるというデータが取れました」
「あはは。 来シーズンは奈々ちゃん、紗希ちゃん、遥ちゃんも居ないよ」
「はぅ。 私だけだよぅ」
「Lの雪村さんが残るし、麻美さん、渚さん、海咲さんが加入しますからそこまで戦力ダウンはしないかと」
「ですわね」
私達も安心して出産育児に専念出来るよ。
「ふう。 何とか逃げ切ったわよーん」
「紗希ちゃんナイスだったよ」
「相変わらず真下打ちの決定率は異常ね」
「紗希ちゃんの真下打ちは本当に角度がえぐいからねぇ。 あれを拾うとなると、黛姉みたいに足で拾ったりしないとダメかな」
「あれはサッカーでもやってんのかしら……」
「あはは」
「さて。 次のセットで終わらせましょう! 次のセットは佐伯和香さん、清水さん、高嶺さん、西條さん、マリエルさん、雪村さんで行きます」
「はい!」
天堂さんはここでベンチに下がるんだねぇ。 大活躍してたしこのまま行くのかと思ってたよ。
「和香さん、アップは済んでる?」
「もちろんよ。 さーて、月島弥生を倒すわよ」
和香さん、気合い入ってるねぇ。 和香さんは高校時代に弥生ちゃんとの対戦経験が無かったけど、プロになってからはリーグで対戦している。 アルテミスに来てからは今日が初かな?
「立ち回りは1セット目と同じ感じで良いと思います。 清水さん、西條さんは変わらず無理はしないように。 少しでも体調が悪いと感じたらすぐに言ってください」
「らじゃだよ」
「了解ですわ」
「さて! じゃあサクッと勝ってファイナル行くわよ!」
「おー!」
和香さんが仕切ってるけど、まあ気にしないようにしよう。
◆◇◆◇◆◇
「お、亜美ちゃんと西條さん戻って来たんか。 ぶっ倒したる!」
「うわはは! リベンジじゃー!」
「ワハハ」
「相変わらず目の敵にされてるわね、清水さん」
「もう慣れたよ……」
特に弥生ちゃんと奈央ちゃんのはね。
「佐伯さんもプロのコートで会うんは久しぶりかいな? 代表の時はチームメイトやったし」
「そうね。 アルテミスに来る前には何度か対戦したけど」
「そやな」
「このセットで試合を終わらせてもらいますわよ」
「そうはいかないわよー」
「ソヤデ」
クリムフェニックス側は後が無いから必死だと思うよ。 私達としてもあまり長引かせたくはないから、このセットは集中していきたいと思うよ。
◆◇◆◇◆◇
最初のクリムフェニックスのサーブから始まるラリーを私が決めて、0-1スタート。 サーブが一番こちらに回ってくるよ。
ピーッ!
「サーブの合図だよ、奈央ちゃん頼むねぇ」
「お任せあれですわ」
奈央ちゃんはサーブで点が取れる貴重なビッグサーバーだ。 あの変幻自在のサーブに対応するのはかなり難しいだろう。 私も自信無いなぁ。
パァンッ!
奈央ちゃんのサーブのインパクト音が聞こえ、すぐにネットの向こう側に飛んでいく。 あれは逆回転しているね宮下さんに拾わせようとしてるようだ。 実は宮下さん、レシーブの技術もそれなりにはあったりするんだけど、奈央ちゃんのサーブを拾うのは本職リベロでも難しい。 さあ、どうなる?
「うわはは! 私の方に曲がって来たんですけどっ?!」
パァンッ!
「うわはは! どうだ!」
「うわわ!? 拾ってきたよ!?」
「やりますわね!」
宮下さんを侮っていたわけじゃないけど、まさか奈央ちゃんのサーブを拾ってくるとはだよ。
「宮下さんやるじゃない!」
しかも何とかBパスの範囲に収まっているのがまた何とも。 奈々ちゃんには見習ってほしいものである。
「月島さん、頼んだ!」
「アミ、ツキシマをブロックデス!」
「らじゃだよ!」
すぐに弥生ちゃんの前に移動してブロックに跳ぶ。 ストレートのコースを完全に閉めてクロスに誘導する。 クロスには希望ちゃんが待ち構えているので、簡単には決められないはずだ。
「うおりゃ! ナックルスパイクや!」
「何それぇ?!」
パァンッ!
ナックルサーブを応用したスパイクであろう。 希望ちゃんはいきなりでこれに対応出来るだろうか?
「むっ! こっち!」
パァンッ!
「嘘やん!?」
「おほほ、さすが希望ちゃんですわね! 皆、時間差!」
「おー!」
希望ちゃんはいきなりでもあのランダム変化するスパイクを、いとも簡単に拾って見せた。 私達はそんな希望ちゃんの頑張りに応えないとね。
「佐伯さん!」
「よし来た! どりゃあ!」
パァンッ!
「くっ!」
新田さんも反応はしていたが、ギリギリ届かず。 幸先良くブレイク出来、流れを掴んでいく。 そして、また奈央ちゃんのサーブはまた奈央ちゃんだ。 サービスエースが狙えるので、上手くいけばかなり有利なスタートを切れるよ。
「奈央ちゃん、頼むよぉ」
「了解。 今まで見せてこなかった回転のサーブを打ちますわよ」
「ん?」
そんなのあるんだ?
「そい!」
パァンッ!
おお、バックスピンしてるよ。 という事は、あれをレシーブすると前方向に跳ねるわけだ。 狙いはキャミィさんのようだ。
「ワハハ!」
パァンッ!
キャミィさんは気にした様子も無く普通にレシーブするも、やはり前方向に跳ねたボールは宮下さんの頭に当たり落ちる。
「痛い……」
「ワハハ! スマンー!」
サ、サービスエースだよ。 にしてもあんな風に前に跳ねるって、どんな回転数してるんだろう……。 奈央ちゃんのサーブも謎である。
奈央のサーブは七色のサーブ。
「希望です。 はぅ、バックスピン……」
「色々やるよねぇ」




