第2140話 2セット目
1セット目はアルテミス優勢で終盤まで進んでいるようだ。
☆奈々美視点☆
高嶺さんの好レシーブから、中盤もリードで終えて現在23ー20。 1セット目ももう少しである。
「逃げ切りますわよー!」
「おー」
コートの方は気合いが入ってるわね。
「奈々美さん、神崎さん。 次セット行けますか?」
「もちろんよ」
「おりょ? 当然っしょ」
「お願いします。 あとは眞鍋さん」
「ウチどすか? もちろん行けますえ」
2セット目は私、紗希、天堂さん、眞鍋さん、マリエルさん、希望になるみたいね。 頑張っている高嶺さんは一旦下げるのね。 3セット目に期待かしら?
パァンッ!
「奈々美さん、神崎さんもあまり無茶なプレーはしないで下さいね? 特に神崎さんは皆さんより早く妊娠されてますし」
「わかってるわ」
「りょ!」
パァンッ!
あら。 1セット目が終わったわね。 何とかアルテミスが1セット先取したわね。 弥生ったらまた亜美に負けて悔しそうな顔してるわ。 まあ、この試合まだ亜美の出番はあるかもしれないけど。
「ふぅ。 何とか逃げ切れたよ」
「中盤の高嶺さん、良いプレーだったわよね」
「ありがとうございます!」
「ま、次のセットはベンチで見ててもらうけどさー」
「そ、そうなんですか監督?!」
「う、うむ。 その予定でラインナップシートも提出してある」
「そんなあ」
「3セット目にはまた出てもらいますから、それまでゆっくりしていて下さい」
「よーし」
高嶺さん、かなりやる気ね。 まあ、今日はかなり動きも良いしスパイクも決まってるものね。
「2セット目のメンバーは奈々美さん、神崎さん、天堂さん、眞鍋さん、マリエルさん、雪村さんでいきます。 ここ、連取して3セット目へいきましょう。 妊婦さん達に長期戦はさせられませんから」
「おー!」
◆◇◆◇◆◇
さて、2セット目開始よ。
「お、今度は藍沢さんと紗希かいな。 亜美ちゃんにはやられたけど、あんさんらには勝たせてもらうで」
「私達を舐めない事ね」
「きゃはー! 妊婦パワー見せたるわよーん」
「いやいや、妊婦さんは大人しくしてなはれや……」
それはそうなのよね。 まあ、今日明日で今シーズンは終わりだから頑張るつもりだけど。
「藍沢さんもライバルー!」
「私からしたら宮下さんはかなり遠い背中なんだけど……」
はっきり言って宮下さんの方がかなり上だと思うわ。 私なんか結局パワーだけの選手だし。 しかし、そんな私に宮下さんは「いやいや! タイプこそ違えど高校時代はエースとして公式戦で一度も勝ててないし! やっぱライバル」と言うのだった。
ピッ!
サーブの指示が出て、眞鍋さんのサーブで開始よ。 今回奈央がSじゃないから時間差高速連携は使えない。 眞鍋さんが可能なのは同時高速連携までね。 それも奈央に比べるとちょっと正確さが劣る。
パァンッ!
そこを補う為に、パワーで押し込む私と決定率の出る紗希を起用したってところかしらね。 前田さんはさすがによく考えているわ。
「拾います!」
並のサーブは新田さんに簡単に拾われてしまわ。 それは眞鍋さんも織り込み済みみたいね。 気にした様子もなくセットポジションへ向かっているわ。
「キャミィさん頼む!」
「まかせろヤー! オリャ!」
パァンッ!
相変わらずとんでもないパワースパイクを打ってくるわね。 マリエルさんのブロックを真正面から打ち抜いてきたわよ。 けど、おかげでスパイクの威力はかなり減衰したわ。 あれなら希望が拾ってくれる。
「はぅっと!」
パァンッ!
「ワハハ! さすがやナー!」
キャミィさんも希望を称賛する。 マリエルさんのブロックも褒められて良いレベルだと思うけど。
さて、眞鍋さんから特に合図無し。 通常の攻撃って事ね。 私と天堂さんでタイミングをズラして助走開始。 更に遅れて紗希も動く。
「藍沢さんにブロック二枚!」
「はいよ!」
どうやら私を警戒してるみたいね。 それは間違ってはいないけど、アルテミスには私以外にも怖いアタッカーがいるわよ。
「神崎はん!」
「りょー!」
時間差のバックアタックを紗希が放つ。 お得意の真下打ちで完璧に決めて見せる紗希。 さすがの決定率ね。 あの真下打ちは中々返せないわよ。
「よっし! 紗希ちゃん今日も絶好調ー!」
「ほんまに妊婦かいな……あまり無理せんときや?」
「きゃはは。 心配してくれてありがちょ。 そう思うならサクッと負けてくれると助かるわ」
「それとこれは話が別や。 勝負の手は抜かへんよ」
そこはさすがに勝負師の弥生。 どんな理由であれ手を抜くという事はしない。 これは骨が折れそうだわ。
「1ブレイクー。 もう一本集中!」
一応エースとしては声出しもしていくわ。 2セット目はブレイクでスタートして幸先良し。 このまま亜美と奈央無しでもやれるってとこ見せてやるわよ。
◆◇◆◇◆◇
パァンッ!
ピッ!
「きゃはは。 とりあえずはリードで序盤を終えたけど、希望ちゃんがコートから抜けると途端にブレイク出来なくなるわね」
「そうね。 今までどんだけ希望と亜美に頼ってたのかよくわかるわ……。
普段は希望がコートから抜けると亜美が希望の代わりにボールを拾ってくれていたんだけど、それが無くなると本当にレシーブ力ダウンね。
8-7で序盤を終えて一旦ベンチへ。
「お疲れ様だよ。 今のところ良い感じだねぇ」
「ギリギリ耐えてる感じね。 正直言ってレシーブがダメだわ」
「きゃはは。 希望ちゃん任せよん」
「はぅ」
「天堂さんもそこそこのレシーブ力はあるはずだよ」
「いえ……あちらのアタッカーがどの方もヤバくて」
「そりゃあ、あの三人は世界トップクラスの選手だし。 並のレベルじゃないわよ」
あれが並の選手のスパイクなら、私や紗希でも何とか出来るって話よ。
「とにかく! 希望ちゃんがいる時にきっちりブレイクしていきましょ!」
「はい!」
「さ! 中盤戦開始開始!」
とりあえず今は希望がコートにいるタイミング。 ただ、ここで相手にサーブが渡ると次のローテーションで希望はまたコートを抜けることになる。 狙うならこの1プレーね。
「ここ集中よ!」
「おー!」
サーブは天堂さん。 サーブミスだけは許されないということで、慎重にサーブを入れていく。 当然、新田さんには軽く拾われて繋げられる。 あちらもここは決めたいところである為、一番巧い宮下さんを使ってくる。
「おりゃ!」
パァンッ!
マリエルさんと私でブロックを作るも、狭いストレートを綺麗に抜かれてしまい、希望も何とか反応して飛び込んだが僅かに届かず。 残念ながらブレイクとはならず8-8の同点に。
「あのコースに決められちゃあお手上げね」
「そねー」
「ミヤシタ、スバラシイ」
さすがに世界一の技巧派OH。 簡単には止められないか。 ブレイクチャンスはまた少し先になりそうね。
2セット目はメンバーを入れ替えてのスタート。
「遥だ。 しかし、高嶺もかなり成長したね」
「だねぇ。 若い世代の台頭は嬉しいね」




