第2134話 清水家のカレーライス
今日はカレーライスの作り方を教わるようだ。
☆夕也視点☆
3月25日の日曜日。 今日は希望先生から料理を教えてもらう日だぜ。 今日の夕飯をカレーにするらしいので、それを教えてもらうわけだ。
「カレーかぁ。 遥ちゃんに買い出しに行かせたら、レトルトカレーを人数分買ってきたのを思い出すよ」
「あの時は結局カレードリアにしたんだっけ?」
「それすらも失敗してたよな」
「だねぇ」
「その点夕也くんはちゃんとカレールーを買ってきたね」
「まあな」
「偉いねぇ」
「じゃあ夕方までは自由にしてて良いよぅ」
「おう。 じゃあとりあえずバスケの練習してくるぜめ
「私も行くよぅ。 『皆の家』でしょ?」
「私も行くよ。 マロンとメロンもペットハウスに行きたがってるし」
「お、おう」
◆◇◆◇◆◇
夕方までは「皆の家」でバスケの練習をする事に。 休みという事で宏太も来ているし春人もいるので、練習相手には困らないな。
「おう、宏太。 練習付き合ってくれ」
「おん? 良いぞ。 春人もか?」
「はい」
てなわけで、三人で庭のバスケコートへ。 宏太は相変わらずストバスを続けているらしく、腕は落ちてはいない。 最近はセンター以外のプレーもこなすオールラウンダーになりつつある。 勿体無いな。
「おらっ!」
「このやろ!」
ダンダン!
「宏太、またプレーのキレが増したな!」
「ストバスやってると何かテクニックが磨かれるんだよ。 おらっ!」
「くそ!」
パサッ!
「やはり宏太もプロになりませんか?」
「ならないっつの」
「何度も誘ったがダメだぜ」
「そういうこった」
宏太の意思は固い。 バスケは趣味では続けるが、プロになるつもりは無いという事らしい。 仕方ないが無理強いする事も出来ない為、俺はもう諦めている。
「そんなことより、家事特訓の方はどうなんだ? 順調なのかよ?」
「おう、 まあ、順調な方だと思うぞ。 料理の方も少しずつ覚えているところだ。 今晩はカレーの作り方を教わる予定だ」
「ほう」
「あの夕也が家事を覚えるとは……驚きですね」
「俺だってやりゃ出来るんだよ」
「その意気だぜ。 今後は亜美ちゃんと協力していかなきゃならないんだからな」
「わかってら。 そういうお前は奈々美の家事手伝ってんのか?」
「まあ平日はあまり出来ないが、休みの日は洗濯と掃除ぐらいはやるぞ。 台所は奈々美が譲れないって言うから炊事はあいつに任せてるが」
「ぐ、ぐぬぬ。 宏太の癖に」
「ま、お前もすぐ出来るようになるさ」
何かこいつに言われるとむかつくなー。
◆◇◆◇◆◇
夕方になり自宅へ戻った俺は、シャワーを浴びてから台所に立つ。 今日の先生は希望で、亜美は監視だ。 亜美は未だに俺を信用していないのか、消火器を近くに置いて見守っている。
「さて。 カレーは高校の時にキャンプで作ったよね」
「俺は米研ぎしてただけだぞ」
「はぅ」
「あはは。 そうだったね」
「今日は頑張って作ってね」
「おう」
やる気十分だぜ。
「じゃあいつも通り、野菜とお肉を切って準備からだよぅ。 各種一口サイズ角に切ってね」
「おう」
「包丁は一応使えるようになってきたねぇ。 でも、怪我しないでね」
「話しかけないでくれ。 集中しないとやばい」
「らじゃだよ」
包丁を持っている時は集中しないと本当に怪我しかねないからな。 さて、今日は牛肉だからビーフカレーだな。 カレー用の牛肉を買って来たから、こいつを角切りにしていく。 更にニンジン、玉ねぎ、じゃがいもを切っていく。 希望から切り方教わりながら、ゆっくりと確実に進めていく。
「うん。 オッケーだよぅ」
「ふぅ」
「良いね良いね。 夕ちゃんが成長してるよ」
「まあな」
具の準備は済んだので、次の工程に進む。
「切った牛肉に塩胡椒だよぅ。 これが清水家式」
「ほう」
シャカシャカ……
切った牛肉に塩胡椒をまぶす。 こういうところに家庭の違いがあったりするのか。
「よし。 次だ」
「牛肉から順番に炒めていくよぅ。 まずは鍋にバターを入れて溶かしてから、牛肉を入れてね」
「ラジャー」
バターを入れて溶かしてから牛肉を入れる。
ジューッ!
「おお。 早くも良い匂いがしてきたぞ」
「このまま牛肉だけを食べても美味しいんだよ」
「なるほど」
「玉ねぎ、じゃがいも、ニンジンを入れて炒めていくよぅ」
「おうおう」
具材を順番に入れていく。 カレーってこんなに簡単なのか。 ふん。 楽勝だな。 炒めるだけなら俺でも出来るぜ。
「ある程度炒めたら水を投入だよぅ」
「うむ。 水を投入!」
計量カップでしっかり計量しながら、ミネラルウォーターを入れていく。 西條グループ印のミネラルウォーターだ。 料理に飲用になんでもござれの優れものらしい。
「後は灰汁を取りながら煮ていくよぅ」
「うむ」
灰汁を取りながら煮るぜ。
「灰汁って何だ?」
「はぅ。 亜美ちゃん?」
「灰汁っていうのはお肉や魚の臭み成分や、お野菜の渋み成分が染み出してきた汁の事だよ。 これをしっかり取らないと、出来上がった料理に臭味や渋味が残っちゃうから、灰汁取りは大事な工程なんだよ」
「ふむ。 なるほど」
亜美の説明を聞いて大事な事だとわかったので、しっかりと灰汁を取る。
「じゃがいもやニンジンが柔らかくなったら、カレールーを入れて溶いていくよぅ」
「いよいよだな」
カレールーを適量入れて、弱火でグツグツと煮込んでいく。 とろみがついたら最後に赤ワインん少々。
「完成だよぅ」
「おう! やったぜ」
「パチパチだよ」
カレーをマスターしたぞ。 どんどん新しい料理をマスターしていくな! 自分の才能が恐ろしくなる。
ピンポーン
ガチャ!
バタバタ!
インターホンからの最速開扉、そしてこの騒がしさは……麻美ちゃんだな。
「なはは! カレーの良い匂いがするぞー!」
「こんばんはだよ麻美ちゃん」
「こんばんはー! カレーは夕也兄ぃが作ったのー?」
「ふん、どうだ。 美味そうだろ?」
「うむー! 一口食べたいー!」
「良いだろう。 味見係を命じる」
「ありがたき幸せー!」
麻美ちゃんはスプーンを使って鍋からカレーを掬い、一口口にする。
「んむっ……うむ! 市販のカレーの味! 美味しいぞー!」
「まあ、市販のカレールーだからな。 しかし、失敗しない辺りさすがは俺だな! はははっ!」
「すぐ調子に乗るんだから……」
◆◇◆◇◆◇
夕飯はいつも通り、麻美ちゃん、渚ちゃんと佐々木夫妻がやって来て七人で食べる。 亜美、希望からも合格を貰えた。
「まあ、カレーを不味く作る方が難しいわよね」
「奈々美、お前なぁ」
「ごめんてば」
「たしかに、そんな難しくなかったしな。 結局最後は市販のルーが味の決め手になるわけだし」
「とはいえ、丁寧に作らないとやっぱり味は悪くなるよ」
「なはは。 夕也兄ぃはこれで、カレーだけじゃなくてシチューも作れるねー」
「そうなのか?」
「似たようなものだからね」
「なるほど」
俺は知らない内にシチューもマスターしたらしい。
カレーとシチューは俺に任せろ!
どうやら料理はマシなようだ。 夕也にも意外な能力が?
「亜美だよ。 夕ちゃん結構やるねぇ。 びっくりだよ」
「そぅだよね」




