第2131話 マリアと後輩
露天風呂に来ると前田、マリア、冴木が先にいたようだ。
☆亜美視点☆
さて。 露天風呂にやって来たよ。 ここには冴木さんと前田さん、マリアちゃんもいるようだ。
「やほほ」
「清水先輩……」
「皆さんも露天風呂ですか? この露天風呂はデータによると美肌に効果があるようですよ」
「そこに書いてあるわよ……」
割りかし浅いデータであった。
「先輩方は結構回られたんですか?」
冴木さんが頭にタオルを乗せながらそんな質問を投げかけて来た。
「うん。 内湯に岩盤浴、打たせ湯にリラクゼーションルームにも行ったよ」
「釜茹で風呂には行きましたか?」
今度はマリアちゃんが質問をしてくる。 釜茹で風呂はこの施設でも人気のあるお風呂である。 いわゆる五右衛門風呂に近い物で、温度が高めの一人用風呂となっている。 ジャグジーも付いており、ぶくぶくと泡立つそのお風呂は正に煮えたぎる熱湯に見えるのである。
「まだだねぇ。 それは次に行くよ」
「釜茹でにされるのぅ?」
「例えだよ」
「なはは」
さて。 露天風呂を堪能させてもらうよ。
「廣瀬先輩は確か長野県出身でしたよね?」
「はい。 それがどうかしましたか?」
天堂さんがマリアちゃんに話しかけている。 天堂さんはマリアちゃんの直接の後輩に当たるから、割と話しかけやすいのかもしれないね。
「いえ、またどうして千葉の月ノ木学園へ来たのかと……それに、大学も千葉の白山ですよね?」
「千葉へ来たのは清水先輩が居たからです」
「あー、憧れてって事ですか?」
「いえ、倒す為です」
「えー……」
「なはは! マリアは最初の頃は亜美姉に対して当たりがキツかったー」
「そ、そうだったんですか?」
「普通です」
「いやいや?! キツかったよ?! いきなり勝負を挑まれたよ?!」
本当にいきなりだったからねぇ。 たしか、ランニングで先着出来たら勝負してくれとか言われたんだっけ?
「あの時はマリアも尖ってたわよね」
「普通です」
「いやいや?! 尖ってたよね?!」
マリアちゃんは無表情ながらもとぼけたような仕草を見せる。
「廣瀬先輩って、凄く近付き難い感じありましたよね?」
「そうそう」
星野さんと天堂さんは、自分達がバレー部に入部した頃の話をしてくれた。
天堂さんはマリアちゃんの一年後輩で、星野さんはニ年後輩である。 まずは天堂さんの話からだよ。
「入部して最初の練習の時ですかね。 OHの練習に合流した時に話しかけようとしたら『邪魔です』とか言われまして」
「なはは! あったあったー! おがおがも後輩達から相談されてたー」
「……覚えてませんね」
「ひ、ひどいですよー!」
「あはは! マリアちゃんは基本的に無口で何考えてるかわからないからねぇ。 私も苦労したよ」
「そうなんですか?」
「うん」
特に最初の頃はかなり気を遣って接したよ。 私は嫌われてると思っていたからねぇ。
「マリアはもうちょっと表情柔らかくなったり出来ないわけ?」
「ダメですよ。 この子はずっとこんな感じです。 卒業アルバムの写真も全部無表情ですよ」
「写真の撮り甲斐無さそう……」
前田さんもさすがに苦笑いしている。 まあ、卒アルの写真が全部無表情なのはちょっとねぇ。
「でも、可憐ちゃんを見てる時はちょっと柔らかい表情してるよぅ」
「可憐ちゃんを見れば皆そうなるよ」
「ですね」
「常に可憐ちゃんの写真持ち歩いていればいつでもニッコリマリアになれるぞー」
「そこまでしなくても良いのでは……」
「いやいや。 マリアちゃんは凄く美人さんだし、笑顔が増えればもっとモテるよ」
「ただでさえモテてましたからね、廣瀬先輩」
「モテなくて良いです」
「なはは!」
マリアちゃんはそういうタイプだよねぇ。 あまり恋愛に興味とか無いらしいよ。
「お見合いの話とかもあったらしいですよ」
と、前田さんが新情報を教えてくれた。 そういうデータをもっと欲しいよ。
「全部お断りしてます」
「うわわ……」
「全部って、何回お見合いしたの?」
「四回ですね」
「四回?!」
いつの間に……同居している前田さんには話していたという事か。
「良い人がいなかったのぅ?」
「そんなことはないです。 ただ、今のところ結婚願望は無いので。 バレーボール以外の事にかまけていては、清水先輩を超える事は出来ませんから」
「あ、あはは……」
「つまり、マリアが恋愛や結婚出来ないのは亜美の所為って事ね」
「えーっ?! 私の所為?!」
「いえ、そもそも恋愛や結婚に興味がありませんから」
「ほっ」
「しかし、やはり清水先輩を超える事ができたら考えても良いですね」
「早く超えてね!」
「なはは」
「多分一生無理ね……」
◆◇◆◇◆◇
さて、露天風呂の次は釜茹で風呂へ。 マリアちゃん達もまだだったらしく、一緒に移動して来たよ。
ブクブク……
「うわわ。 これは想像以上に茹ってるように見えるよ」
「はぅぅ」
「データによると46℃のようです」
「そこに書いてあるわよ」
「かなりの高温浴だね」
「家では41℃ぐらいにしてるぞー」
「それよりも熱いわけですね」
「とりあえず入るよ」
とりあえず温度を確かめながらゆっくりと足を浸けていく。 さすがに46℃は熱いね。 足に何かが刺さるような、ちょっとした痛みを感じるよ。
「ふぅ。 こりゃ中々の熱さね」
「はぅ……はぅ……茹で上がるよぅ。 茹でのんちゃんになっちゃうよぅ」
「なはは!」
「無理だと思ったらすぐに上がるんだよ」
「ぅん」
ブクブク……
「星野さんが入部した頃のマリアちゃんはどんな感じだったの?」
「天堂先輩の時よりはマシだったと思うんですけど」
「……」
「話しかけようとしたら『後にして下さい』って言われてそのまましばらく話もしてくれませんでした」
「なはは!」
「マリアちゃん、コミュ障じゃないよね?」
「違うと思います」
「別に一人でいるのが好きってわけでもないんでしょ?」
奈々ちゃんの質問には「そうですね」と、頷いて答える。 孤独が好きというなら私達と一緒にいないだろうからねぇ。
「バレーボールしてる時はバレーボールに集中したいだけです」
「なるほど」
「マリアはバレーボールバカなのかー」
「そうかもしれません」
弥生ちゃんもバレーボールバカではあるけど、タイプはだいぶ違うようだ。 色々なタイプの人がいるもんだねぇ。
「マリアが先輩方とこうやって交流していると聞いた時は、ちょっと驚きましたよ」
マリアちゃんの同期の冴木さんがそう言う。 マリアちゃんはクラスの中でも一人でいる事が多くて、ほとんどクラスメイトと連まなかったらしい。
「どんだけよ……」
「……」
「近付くなオーラが常に出てたし」
「そうなんですか?」
「そうそう。 でも、今はかなり丸くなったよ」
冴木さんが言うなら多分そうなんだろう。 私達と過ごす事でそうなったんだとしたら、それは嬉しい事だよね。
さて、そろそろ集合時間だし、フロントに戻る準備をしないとね。 草津旅行はこれにて終了。 ゴールデンウィークや夏は旅行の予定が無いので、しばらくはお預けである。
千葉に戻ったらまた日常が始まるよ。
マリアは後輩にも変わらない感じだったようだ。
「奈々美よ。 マリアはあれでこそマリアなのよ」
「それもそうだねぇ」




