第2119話 今月中には
「皆の家」のリビングでは奥様方の井戸端会議が行われていた。
☆亜美視点☆
3月11日の日曜日だよ。 今日もお昼は夕ちゃんが希望ちゃんから教えてもらって、野菜たっぷりチューシューチャーハンに挑戦していた。 最初は心配したけど、2つ目以降はちゃんと美味しく出来ていて、さすがの私もちょっと見直したよ。
「へえ、あの今井君が料理をねー。 きゃはは、羨ましいわねー」
「まともな料理、出て来ますの?」
「今のところはそこまで難しい献立じゃないから、まともな料理出て来てるよ。 言ってもまだ二回目だけど」
「いやいや、十分っしょ? 簡単な料理でも作れるなら助かるじゃん。 私も裕樹に教えよっかなー。 掃除とか洗濯は結構やったりしてくれるけど、ご飯はまだ作れないのよねー」
「うちの太一さんは一通り出来て助かってるぜ」
「おー、遥ちゃんの旦那さん凄いねぇ」
と、『皆の家』のリビングでは井戸端会議が行われている。 話題はパートナーの家事貢献度に関してである。
「家事は侍女やシェフがが全部やっちゃうから、春人君は特に何もしないわね」
「西條家はそうなるわよね。 うちは宏太には掃除はしてもらったりしてるけど、台所は任せたくないわね」
「宏ちゃん、一応簡単な物は作れるよねぇ?」
「そうね。 あいつ、両親が多忙だったから割と自炊は出来る方ね。 でもやっぱり嫌」
「なはは」
とまあ、各家庭のやり方は様々なようだ。 ただ、これからお腹の子が大きくなってくるにつれて、パートナーの協力は必要不可欠になってくるはずである。 今の内にパートナーの家事スキルを磨いておいてもらうに越したことはない。
「紗希は産休や育休は取らないんだよな?」
「ええ。 私の仕事はまあ自宅でも出来るし」
「うちは交替で取るつもりだぜ」
「遥ちゃんの旦那さんはかなり協力的だよね」
「良い旦那よね。 宏太は仕事休む気は無いらしいわ」
「あはは。 宏ちゃんらしいよ」
「紗希の旦那は?」
「私が休むなって言ってあるわ」
「紗希ちゃん一人で大丈夫なの?」
「まあ、困ったらその時考えるわ」
こちらも紗希ちゃんらしい考え方だね。 私のところは夕ちゃんが割りかし融通が利きそうなので、協力してもらえる事は多いだろう。 希望ちゃんもいるので結構余裕がありそうではある。
「皆さん、これから大変ですね」
「前田さんは彼氏とか作らないの?」
「私の彼氏はこのライ君です」
「わうん」
と、愛犬ゴールデンレトリバーのライ君を抱き寄せる前田さんであった。
男性陣が「皆の家」にやって来たので、奥様方による井戸端会議は終了。
「ふん。 親子丼なら任せろ」
「親子丼が作れるようになったぐらいで無茶苦茶偉そうだな」
夕ちゃんは親子丼が作れるようになった事を、宏ちゃんに自慢している。 ちなみに、それぐらいなら宏ちゃんも作れるとの事。 意外に料理スキルがあるのである。
「今度、どっちの親子丼が美味いか勝負だな」
「そんなしょうもない勝負しねぇって」
「逃げるのか宏太? 俺の親子丼が恐ろしいか?」
「へいへい。 恐ろしい恐ろしい」
と、宏ちゃんは慣れた様子で軽くあしらう。 しかし、そんな宏ちゃんに対して希望ちゃんが「ふんす」と、怒りを露わにする。 もちろん全然怖くはない。
「すぐに夕也くんを立派な料理人に育て上げるよぅ!」
「え、今井君料理人になりますの?」
「いや、別にそこまでは」
「ふんすふんす」
希望ちゃんのやる気は空回りしているようだ。 夕ちゃんにはそこまでは求めてないんだよねぇ。 しかし希望は「いずれは和洋中、何でも作れるようになってもらうよぅ」と、無茶苦茶な事を宣うのだった。
◆◇◆◇◆◇
夕飯の支度があるので自宅へと戻ってきた私達。 夕飯はまだ教えるのは早いという事で、私と希望ちゃんでササッとやってしまうよ。
「夕ちゃん、何してるの?」
私と希望ちゃんが台所で作業を始めると、夕ちゃんが後ろでじっと立ってこちらを見ていた。 な、何かやりにくい。
「見て盗もうと思ってな」
「はぅ」
「別にそこまでしなくても良いと思うけどねぇ」
「まあ、気にせずやってくれ」
「凄く気になるよ……」
「ぅん」
とはいえ進めないといけないので、サッといくよ。
「今日の夕飯は唐揚げだよ」
「だよぅ」
「唐揚げか。 盗むぜ」
「……やっぱり気になる」
「あはは……」
とにかく唐揚げだよ。
「さて。 まずは冷蔵庫から漬け込んでおいた鶏もも肉を取り出すよ」
「いつの間に漬けたんだ?」
「お昼前だよ」
夕ちゃんは「気付かなかった」と、小さく呟く。
「後は順番に衣を着けていって、油で揚げるよ」
ジュワー!
「それだけか?」
「それだけだよ」
「簡単だな!」
「そだねぇ。 だけど夕ちゃんにはまだやらせないよ?」
「何でだ?」
「揚げものは一杯油を使うからね。 危険なんだよ」
「火災の原因としても結構多いんだよぅ」
「なるほど。 俺にはまだ早いという事か」
「うんうん。 希望ちゃんが良いと思うまで、揚げものは禁止だよ」
「おう」
中々聞き分けは良いのである。
◆◇◆◇◆◇
唐揚げの他にサラダを作り、夕飯は完成。 佐々木家と麻美ちゃん、渚ちゃんも当然のように今井家にやって来て、皆で食卓を囲む。
「これは夕也が?」
「違うよ。 これは私と希望ちゃんが作ったんだよ」
「揚げものはまだ早いと言われた」
「なはは。 確かに危ないー」
「今井先輩がやったら高確率で火事になりそうや」
「……渚ちゃん、最近俺にきつくないか?」
「そ、そうやろか?」
「なはは。 私もそう思うー」
渚ちゃんは「お姉ちゃんに似てきたんやろか?」と、首を傾げる。 弥生ちゃんはもっときついと思うんだけどね。
「私みたい手が出ないだけマシよ」
「自覚あるなら治してくれねぇかなぁ」
「中々難しいわね」
「何でだよ……」
「あはは! 夫婦漫才が様になってるねぇ!」
「漫才じゃないんだが?」
宏ちゃんは結構真面目に困っているらしいねぇ。 まあ、奈々ちゃんに叩かれたら相当痛いからね。 私も結構やられるけど、その度に命の危険を感じるよ。
「そういえば、夕也は他の家事はどうなの?」
「んむんむ。 結構マシなってきたぞー!」
「そやけどまだ、陶器の食器やら花瓶は触らせられへんよなぁ」
「まだ早いねぇ」
割られたら大変だから、もう少し様子を見る事になっているよ。 夕ちゃんも自覚してはいるようで、早くマスターしたいと言っているよ。 私としては、そこまで焦ってやらなくても良いと思ってるんだけどね。
「ま、頑張りなさいよね」
「おう」
夕ちゃんは「今月中には完璧になるからな! 見てろよ!」と、無駄に息巻いていた。
麻美ちゃんは麻美ちゃんで「スパルタ教育でいくぞー」と、気合いを入れていた。 任せておいて大丈夫かなぁ?
夕也と麻美もやる気十分。
「紗希よ。 今井君頑張ってんね!」
「うん。 無理過ぎなきゃ良いけど」




