第2110話 家事を覚えろ
家事の特訓を始める夕也だが。
☆夕也視点☆
2月20日の火曜日だ。 遂に俺も、洗濯以外の家事をマスターする時が来たようだ。 講師は亜美……ではなく麻美ちゃんと渚ちゃんだ。 亜美はというと、講師ではなく監督として座っているだけのようだ。
「ではまず、皿洗いから始めるぞー」
「洗濯と似たようなもんだな」
「全然ちゃいますよ……」
物を洗うという点ではどちらも同じな気がするが違うのか。 家事、奥深いやつめ。
「夕也兄ぃには、今朝私達が使ったお皿を洗ってもらうー。 枚数は少ないから簡単なはずー。 しかも! プラスチック製の食器にしたから落としても割れないー」
「おお、麻美ちゃんは夕ちゃんの家事音痴を完全に理解してるね。 夕ちゃんなら陶器製の食器は間違いなく割るよ」
「失礼な」
「なはは。 とにかくやってみれ」
「見てろよ」
俺だって皿洗いぐらいは余裕でやってやるぜ。 スポンジに洗剤を付けて、皿をスポンジで……。
ツルッ!
コトンッ!
「ほら、早速だよ。 陶器製だったら割れてるよ」
「バ、バカな……皿が俺の手から逃げる」
「逃げるわけあらへんやないですか……」
「夕也兄ぃ、どうしてそうなるのー?」
ツルッ!
コトンッ!
「二枚目だよ」
「……」
講師の二人は苦笑いを浮かべ「どう教えたら良いか悩む」と、作戦会議を始めてしまう。
「と、とにかくしっかりとさらを掴むようにー」
「お、おう」
パキッ!
「……割れたんだが」
「力入れ過ぎやと思います」
「どこまで家事音痴なの、夕ちゃん」
「こ、こんなはずでは」
まさか、皿洗い一つまともにこなせないとは……自分が情けなくなってくる。
「ま、まあでも、洗濯だって数こなす内に出来るようになっていったし、皿洗いだって慣れれば出来るようになるよ。 しばらくはプラスチック製の食器使うようにするけどね……」
「そうしてくれると助かる……」
◆◇◆◇◆◇
皿洗いを何とか終えた俺は、少し休憩させてもらうことにした。 皿洗いめ、中々疲れるではないか。
「食洗機を買う事を検討するレベルだよ」
「まあまあー。 せっかく覚えたんだから頑張ってもらおー」
「そうだぞ」
「わ、わかったよ」
とりあえず亜美の言う通り、数をこなして慣れていくしかない。 その内出来るようになるだろう。
「この後は掃除だよー。 掃除機がけがメインだけどー」
「掃除機がけぐらいは余裕だろ」
さすがに舐めてもらっては困るな。 あんな物、手に持って動かすだけだぜ。
◆◇◆◇◆◇
ブィーン……
「ぬおー! カーペットが吸い付いてきやがる!」
「ちゃんカーペットを掃除する切り替えスイッチがあるよねぇ?」
「あるー」
「何? これか」
モード切り替えボタンを押すと、フローリングモードやカーペットモードへ切り替える事が出来るようだ。 これで掃除機がけは余裕だな。
「あ、ランプが赤くなりましたよ。 一旦止めて中に貯まったゴミを捨てんとあきません」
「ふむ。 確かにゴミが一杯だな。 ここをこうして」
パカッ!
ファサー……
勢いよく開けてしまった所為で、中のゴミを撒き散らしてしまい周りが埃だらけになってしまった。
「どうして掃除したのにすぐ元通りになるのかな?」
「夕也兄ぃ、掃除やり直しー」
「何でや……何でこうなるんや?」
渚ちゃん……俺もそれが知りたい。
とりあえず散らばった埃を掃除機で吸い直し、今度は慎重にダストボックスを開けてゴミを捨てる。 なるほど、やれば出来るじゃないか。
「ふははは! 掃除機がけマスターだな!」
「リビング終わったら次は台所ー。 その次は和室でその後は……」
「寝室は私らが自分でやったらええやん」
「それはそうー」
「じゃあ台所と和室を掃除機がけだな」
「うむー」
◆◇◆◇◆◇
掃除機がけ終了。
「ふん。 まあこんなもんだな」
「やけに偉そうだねぇ……」
「悪戦苦闘してたー」
「今井先輩、ちょっと家事音痴とかいうレベルやないですよ……」
「まあまあ、とりあえずは掃除機がけも終わったし次は?」
「洗濯ー……は、別に教えなくていっかー」
「ふん。 洗濯は任せろ」
洗濯だけは完璧にマスターしているからな!
「買い出し……も、メモさえあれば出来るよね?」
「おう」
「ご飯を炊くとかは?」
「やった事ないな」
「じゃあご飯を炊いてみよー」
「おう」
◆◇◆◇◆◇
炊飯を教えてもらう為、台所へと戻って来た俺達。 まずは炊飯器内に残っている白米を全ておにぎりにしてしまう。 まあ、それは亜美と麻美ちゃんが手早く済ませてくれた。
「まずは釜を取り出して綺麗に洗うー」
「おう」
食器洗いの要領で釜を洗っていく。
「うむ。 綺麗になったら米櫃からお米を計量して釜に入れていくー。 とりあえず3合ー」
「このボタンを押したら1回1合計量出来るんで、3回押してください」
「なるほど。 便利だな!」
言われたボタンを3回押した後、計量カップから釜の方へ米を移す。
「で、洗米ー。 水を入れて手でかき混ぜる」
「おう」
シャッシャッ……
「ふん。 簡単だな」
「これに苦戦したらさすがにおかしいよ……」
「そやけど今井先輩やしなぁ」
「ご飯を炊くぐらい余裕だ」
「研ぎ汁を流して新しい水を入れて洗米を繰り返しー」
「おう」
研ぎ汁を捨てる。
ジャー……
「……あの、お米も一緒に流れてるよ?」
「3合が1.5合ぐらいになったー」
「やっぱり今井先輩は油断ならへんな……」
「バカな……」
「仕方ないから拾えるだけ拾って別の容器に入れといてー」
「お、おう」
溢れた米粒を拾えるだけ拾い、それは別容器に入れておく。 減った分の米を足して、再び洗米を繰り返す。 今回は研ぎ汁と一緒に米まで流さないように注意しながら。
「オッケー。 洗米は終わりー。 後は炊飯器にセットして炊飯ボタンを押したら自動で炊けるぞー」
「よし。 ポチッとな」
ピッ!
「何とか炊飯まで漕ぎ着けたねぇ」
「まさか失敗しはるとは……」
「夕也兄ぃは何かやらかさないと気が済まないのかー?」
「ぐぬぬ」
おのれ家事め……必ず我が物してやるぞ。
「とりあえずお昼は食べられそー」
「料理も教えてくれるのか?」
「あ、料理は希望ちゃんと私が担当するつもりだから、夕ちゃんはやらなくて良いよ」
「夕也兄ぃが火を使ったら家が無くなるー」
「ありそうやな……」
「さすがにそこまで酷い事にはならないだろ……」
しかしそれを聞いた三人は、凄いジト目でこちらを見つめてくるのだった。
俺の評価ってそんなに低いのか……。
「後はゴミ出しとかも覚えてねぇ」
「おう」
「夕也兄ぃの事だから、ゴミ出しでもゴミを撒き散らしそうー」
「絶対にそうなるやろなぁ……」
ゴミ出しぐらいは普通に出来ると思いたいが……。 三人は遠い目をしながら、俺がゴミを撒き散らすシーンを想像して苦笑いを浮かべるのだった。
何をやってもまずは失敗する夕也であった。
「亜美だよ。 夕ちゃんが想像以上に家事音痴で笑ったよ」
「はぅ」




