第208話 倦怠期?
どうも最近、態度が冷たいらしい紗希の彼氏。
話を聞くためにお供を連れて緑風にいくことに。
☆紗希視点☆
6月27日の土曜日。
現在今井君の家に来ている。
というのも、今日は裕樹と話し合いをする予定なのだけど、ちょっと不安だからついてきてもらう事になっているからだ。
亜美ちゃんと希望ちゃんも同行してくれると言うので、とても心強い。
去年の夏休みの、裕樹の浮気疑惑の時を思い出す。
「何時ぐらいに行くの?」
「14時に緑風で待ち合わせしてるの」
「緑風!」
亜美ちゃんの目がキラキラと輝き始める。
彼女は緑風のフルーツパフェが大好物だし、しょうがない。
「んじゃ13時半ぐらいに出るか」
「そうだね」
「毎度ごめんねー」
「良いんだよぅ。 私も夕也くんの事で相談に乗ってもらってたんだし」
そういえばそうだったわね。
結局私は何お役にも立てずに、希望ちゃんは今井君に選ばれなかったわけだけど。
申し訳ない。
「それにしても、今更倦怠期なんて来るかな? 紗希ちゃんの誕生日会した時はそんな風には見えなかったよ?」
そうなのだ。 6月の頭にやった誕生日会では割と普通だった。 その前にデートに誘った時は断られたんだけどなぁ……。
付き合い始めたのは中2の夏。 亜美ちゃんの言う通り、倦怠期が来るならもっと早くて良い筈なのよねー。
亜美ちゃん曰く「倦怠期なんかじゃなくて、他に何か理由があるんじゃないか」とのこと。
そう言われても、私には見当もつかないけど。
「とにかく、本人に聞いてみるしかないよね」
希望ちゃんの言う通り、結局はそこに行き着くのよね。
もし、倦怠期なんかじゃなくて私が嫌われただけとか、他にイイ女が出来たとかだったらどうしよう……。
「大丈夫だよ、紗希ちゃん。 柏原君は紗希ちゃん一筋だよ」
「う、うん」
信じるしかないわね。 去年だって、裕樹は浮気なんかしてなかったし。
時間になったので、私達は緑風へと向かう。
どんどん不安になってくる。
別れてくれなんて言われたらどうしよう。
「紗希ちゃん……」
希望ちゃんが心配して手を握ってくれる。
本当について来てもらって良かった。
◆◇◆◇◆◇
緑風にやって来た私達は、裕樹の到着を待っている。
「ちょっと早かったか」
「まぁ、呼び出したほうが先に来てないとねー」
「そうだね」
「そういう細かいところ大事」
と言っても、あいつはそういうところは気にしないのだけど。
少し待っていると、裕樹がやって来たのが見えたので手を振って呼ぶ。
「今日はどうしたの?」
向かいの席に座り、開口一番に訊いてきた。
まあ、呼び出された挙句来てみたら、私以外に3人付き添いがいるのだからそりゃ気になるでしょう。
「その前に、まず注文済ませよ」
「そうだなー。 約1名は目的忘れてパフェ食いに来てるみたいだしな」
「ち、違うもん。 ちゃんと目的は覚えてるもん」
「あ、亜美ちゃん……」
亜美ちゃんはそんな事を言いながらも、目がパフェになっている。
まあでも、いてくれるだけでありがたい。
皆が注文を終えて、一呼吸終えてから本題を切り出す。
「あ、あのねー裕樹。 わ、私、裕樹に嫌われたりするような事した? それか、私に飽きちゃったり?」
「……え?」
目を丸くして驚いたような顔をしている。
「最近さ、ちょっと冷たいというかなんていうか」
「あ……」
どうやら、合点がいったようだ。
思い当たる節があるという表情に変わる。
「柏原君、紗希ちゃんは結構不安がってるんだから、ちゃんと話してあげてね」
「そ、そうだね」
亜美ちゃんが、しっかりとフォローに入ってくれた。
目的はちゃんと覚えていたようだ。
それにしても、裕樹の歯切れが悪い。
さっきの反応から、私に飽きたりしたわけでは無さそうだけど。
「はぁ……実はね、ちょっと成績が落ちて学校とか親から色々言われてて、ストレスが溜まってるんだよね」
「せ、成績落ちたの?」
「まあ、ちょっと……遊んでばかりいないで勉強の時間増やせとかさ。 今日も出てくるのが大変で」
裕樹の通っている学校は、この辺でも1番の進学校。
成績が全てと言っても過言では無いらしい。
「そんなにうるさいの?」
亜美ちゃんが訊くと、裕樹は小さく頷く。
「行かなくて良かったよ」
「亜美ちゃんの場合、成績落とすとか心配しなくて良いよ」
「俺もそう思う」
「清水さん、中学でも毎回トップだったからね。 僕は大体3位だった」
上位2人がおかしいだけだった気もするわね。
「でも、倦怠期とかじゃなくて良かったね」
希望ちゃんの言う通り、嫌われたりしたわけでは無かったので、それは良かった。
良かったんだけど……。
「でも、裕樹の成績が落ちたりしたのは私の所為よね。 夜遅くまで電話したり、休みの日にデートばかり誘ったりして勉強時間取れなかったでしょ?」
「……」
裕樹は黙り込んでしまう。
やっぱりそうなんだ。
「柏原君、男の子はこういう時『そんな事ないよ』って言ってあげなきゃダメだよ」
「亜美ちゃん……」
「そうだね。 紗希の所為なんかじゃない。 自分の努力が足りなかっただけだ」
「裕樹……」
悔しい。
私じゃ、裕樹に勉強を教えたりする事は、とてもじゃないけど無理だ。
結局のところ、私に出来る事は裕樹の邪魔にならないようにする事ぐらい。
「ただ、期末の間は少し勉強に集中させてほしい」
「うん。 わかってるわ」
ここは私が我慢しなければならない。
「実はね、期末で成績が戻らない様なら、紗希と別れろなんて言われてるんだ」
「それってご両親から?」
裕樹は頷く。
別れるって……。
「それは嫌よ?!」
「わかってる。 僕も反論したよ。 でも、結果を出さない事には納得してもらえないみたいでね」
そんな……もし、裕樹が期末で成績を落としたら、私達は。
「っ……私がもっと早く気付いてたらっ」
「だから、紗希は悪くないって」
「そうだぞ。 それにまだ別れなきゃならないと決まったわけじゃないだろ」
「うん」
裕樹と今井君が元気付けてくれる。
今は私に出来る事をしよう。
言っても、信じて待つしかないけど。
「そうだ! 亜美ちゃん、今度勉強会しよー!」
「え? 良いけど」
亜美ちゃんなら、裕樹にだって勉強を教えられる。
私も裕樹と一緒に勉強出来るし一石二鳥だ。
我ながら良い考えだわ。
「じゃあ、今度皆で集まる?」
「うん!」
「ありがとう、僕達の為に」
「いえいえ。 困ってる友達を助ける為だからね」
亜美ちゃん、凄く頼りになる。
今度何かお返ししなきゃ。
「よし! じゃあ今日のところは食べるもの食べたら解散! 裕樹は帰って勉強する!」
「せ、忙しないなー」
「だって、私達の未来がかかってるのよ?」
「大袈裟だなぁ」
裕樹ってばわかってないわね。
私がどれだけ裕樹に依存して生きているか。
もし別れるなんて事になったら、私は……。
「んむんむ……勉強会は……んむんむ……いつやる?」
マイペースな亜美ちゃんは、パフェを頬張りながらそう訊いてくる。
「じゃあ、明日お願い出来るかな?」
「んむ、らじゃだよ!」
頼りになるのかしら……いやいや、亜美ちゃんだもの。 心配いらないわ。
「亜美はパフェ食ってる時は本当に幸せそうだな」
「だよね」
「んむんむ」
心配いらないわよね?
裕樹の成績が落ちたことが原因だったようだが、状況はあまり良くないようだ。
「奈々美よ。 なんだか大変なことになってるみたいね? いい学校行くとそういうのが付きまとうから面倒そう。 ま、日々適当に過ごしてる私からしたら想像もできないわよ? プレッシャーとかあると思うけどね」
「私は常に満点を取り続けなければいけないプレッシャーが……」