第2104話 やはり宏太はイジられ役
誕生日パーティーという名の宴会が始まっているようだ。
☆宏太視点☆
今日は俺の誕生日という事で、わざわざ皆集まって祝ってくれている。 いや、まあただ騒ぎたいだけなんだろが。 とりあえず宴会騒ぎが始まっていて、もはや俺の誕生日は二の次になっている。
「しかし、月島様からいただいたこのリール。 早く試してみたいぜ」
「だはは! そやろそやろ!」
「今度の休みにでも釣りに行くか」
「お、ええな! お供するで」
「釣りに行くなら私も是非」
俺が釣りに行く話をすると、すぐに月島と前田さんが乗ってくる。 さすが釣りバカだぜ。
「ほな来週の火曜日どないや? 車出すで」
「決まりだな」
「はい、決まりです」
「あんたら釣り好き過ぎでしょ」
奈々美が呆れたようにそう口にしたが、その次には「私も行くわよ!」と、自分もついて来る気満々なようだった。
「月島の車は5人乗りだっけか?」
「そやで」
「じゃあ大丈夫ね。 麻美も行けるわよ?」
「おー! 行くー!」
「ええでええで。 釣り仲間は多い方がええ」
奈々美と麻美も釣りを嗜む程度にはやっている。 たまについて来る事もある。
「俺には釣りの良さはわからん……」
「右に同じくだ」
夕也と三山は釣りには無関心だ。 まあ、別に強要はしないがな。 春人は「まあ、釣りは嫌いじゃないです」ぐらいの感じらしい。 こいつはのんびりするのが好きな奴だから、釣りとは相性が良さそうだな。
「にしても、宏ちゃんの誕生日プレゼントに20万円は頑張り過ぎじゃない?」
「ええねんええねん。 まあ、自分のも合わせて40万円やけどな! だははは!」
「え、自分のも買ったの? バカだねぇ」
「いや、誕生日プレゼント選びしてたら自分も欲しなってな」
「でも高過ぎでしょ? 私なら我慢するか宏太には安い物買うわよ」
「なはは。 私は気にしないー」
「お前は金持ってるだろ……」
「なは! だいぶ減ったと思いきや、本の売高とかでまだまだ一杯残ってたー」
「40万円ぐらいで何を騒いでますの? 端金じゃない」
「西條さんはお金の話には入ってこない方が良い気がする」
「何でですの?!」
西條の場合、文字通り桁が違う所為で俺達とは金銭感覚が大きくズレているからな。 当然話にもズレが出る。
「奈央ちゃんにとっては40万円の釣具なんて駄菓子ぐらいの値段でしょ?」
「駄菓子なんてタダじゃない」
ダメだなこりゃ。 皆に話から除外されて不機嫌になった西條は「というか、西條グループの釣具を使いなさいよ」と、文句を言い出すのであった。 俺はライトニング製の釣具が好きなんだよなぁ。
◆◇◆◇◆◇
酒が進んでいるかと思われていたこの宴会だが、数人の女性陣は控えているようだった。
「神崎よ。 今日は飲んで酔って脱がないのか?」
「あー。 ほら、妊娠したっしょ? 今からお酒は控えていこうと思ってね」
「美智香はどれくらいでやめたんやったっけ?」
「私は2ヶ月目ぐらいかなー」
「まあ、早い方が良いよねぇ。 私なんてまだ確定もしてないのに控えてるよ」
「気が早いなぁ」
「こういうのは早い方が良いよ」
ちなみに奈々美も同じく酒は控えているようだ。 うちの女性陣は皆気が早いらしい。
「そうだ美智香っち」
「おー、どうした紗希っち」
いつの間にそんな呼び方し合うようになったんだよこの二人は。
「出産の先輩、育児の先輩として今後とも色々とご指導の程をよろしくお願いします」
「うわはは。 任せたまへ。 わからない事があれば何でも聞いてちょーよ」
「ありがと」
「うーむ。 私も早く結果が知りたいよ」
「そんな簡単に妊娠てするもんなんか?」
月島は構わず酒を飲みながら亜美ちゃんに訊く。
「私達ぐらいの年齢で大体2割から3割と言われているよ」
「そんなもんなんや」
「だね」
そう考えると、亜美ちゃんと奈々美が時期を合わせてってのも中々に難しいのではないか?
「お母さんに聞いたけど、私と奈々ちゃんも本当は同じ月に出産を狙ってたらしいけど、結局5ヶ月もズレたって言ってたよ」
「らしいわね。 お父さん、毎月大変だったらしいわ」
その話を聞いて、俺と夕也は顔が青くなるのだった。 あの食生活が毎月だと……死ねるな。
「私達なら大丈夫だよ。 大丈夫なんだよ」
「根拠は無いけどね」
「そうだな。 その方が俺達としてもありがたい」
「だな」
◆◇◆◇◆◇
宴会もそこそこにして終了。 そりゃまあ、明日も仕事の奴ばかりだからな。 三山夫妻は月島の車で先に帰っている。
「新田さん達はどぅするの?」
「私は泊まっていきます」
「私もでス」
「ウチもやナ」
残っている東京組三名はここに泊まるらしい。 まあ、この三名は仕事はしていないからな。
「私はお片付けしたら帰るよ。 ね、希望ちゃんに夕ちゃん」
「ぅん。 明日も幼稚園だよぅ」
「俺は特に無いが」
俺も明日は仕事だしなぁ。 さっさと帰って風呂入って寝るか。 奈々美も帰るらしいし。
「麻美と渚はどうするの?」
「むー。 私は泊まっていくー」
「ほな私もや」
どうやら「皆の家」に泊まっていく千葉組もいるらしい。 他にも蒼井と西條夫妻がここに残るそうだ。 さて、たんまりと誕生日プレゼントももらい盛大に祝ってもらったし、ここは感謝の言葉の一つでも述べておくかね。
「おう皆。 わざわざ俺の誕生日を祝う為に、パーティー開いてくれたりプレゼントくれたりサンキューな」
「何を言ってますのやら」
「そうだよ」
「きゃはは。 佐々木君はわかってないなー」
「だなぁ」
「だって私達はねぇ」
と、皆が顔を見合わせて……。
「皆で集まって宴会するのが好きだから」
口を揃えてそう言うのだった。
「……あ、そうか。 知ってた」
感謝した俺がバカみたいだった。
◆◇◆◇◆◇
家に帰って来て風呂が沸くまでの間はリンと遊びながら時間を潰す。 くぅやタマも今月はこっちの家に来ていてかなり賑やかな感じだ。
「リン。 俺の誕生日を祝ってくれるか?」
「はふはふ」
リンは俺の顔を見たあと、ペロっとひと舐めする。 こいつの愛情表現のようだ。
「お前だけたぜ……」
「何バカな事言ってんのよバカ。 バカだから仕方ないけど」
「バカバカうるさいなぁ」
奈々美はそんな俺を見てバカバカと言ってきてうるさい。
「いくら私達が宴会騒ぎが好きだからって、平日の仕事の後に集まってまでわざわざやらないわよ」
「つまり何だ?」
「ちゃんとあんたの誕生日を祝う為に集まってたに決まってんでしょうが。 あんたにはああいう扱いするのが私達の中では定番なの。 わかってんでしょ?」
「いや、わかってはいるがだな……。 俺が素直に感謝した時ぐらいは皆も真面目に返してくれねぇかなぁ」
「まあ、たしかにそれもあるわね。 来年の参考にするわ」
奈々美はそう笑いながら「お風呂沸いたら私先に入るわよ」と、一番風呂をさりげなく主張してくるのだった。 お、俺の誕生日なんだけどなぁ!
いつまで経っても宏太の扱いはこんな感じ。
「亜美だよ。 宏ちゃんは反応も面白いからね」
「叩き甲斐があるわよね!」




