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第207話 亜美VS奈央

修学旅行から帰ってきてすぐに体育祭。

今年は亜美と奈央が別のクラスになったので……。

 ☆亜美視点☆


 さて、本日は修学旅行から帰ってきた翌週の水曜日。

 もう少しゆっくり休ませてほしいものだけど、体育祭である。

 大会ルール等は去年と同じ。

 学年別とチーム別2つで競うよ。

 

「にしてもさー」


 Bチームテントに座りながら、紗希ちゃんが何かを話し始める。


「奈央ったら、亜美ちゃんが出る種目全部に出るんだって?」


 そうなのである。 少し前に、体育祭の出場種目を訊かれたので答えたらそうなってしまったのだ。

 奈央ちゃんは何が何でも私を倒したいらしい。


「奈央ちゃんは最初から本気で来そうだね。 私も応えないと」

「亜美ちゃんと奈央ちゃんの本気の勝負……なんだか凄そう」

「あはは……」


 多分、奈央ちゃんは最初から本気で向かって来るはず。

 最初は1番目の種目……。


「100m走に参加する生徒は、ゲート前に集合して下さい」


 そう、100m走だ。

 女子の部には私と紗希ちゃんが参加予定。

 男子は夕ちゃんが出る。

 私は立ち上がり、身体をほぐす。


「頑張ってね、皆」


 希望ちゃんが応援してくれる。

 今年は私達はチアコスを回避する事に成功している。

 可愛かったから別に良いんだけど。


「じゃあ行こっか」

「ほいほい」

「おう」


 3人でゲート前へ向かう。

 ゲートの前では既に、奈央ちゃんと奈々ちゃんが来ていた。

 奈央ちゃんは、無言で私を見つめてくる。


「……」


 凄い気迫だよ。 ピリピリする。

 髪も、本気モードの時にするお団子にしてあって、やる気十分。


「奈央、私が譲ってあげたんだから、何か1種目ぐらいは勝ちなさいよ?」


 隣に立つ奈々ちゃんが、奈央ちゃんに声を掛ける。

 譲ったって事は、奈々ちゃんも本当は私と勝負したかったって事だよね。


「わかってますわよ」


 私だって、簡単に負けるつもりは無い。

 奈央ちゃんが本気を出してくれるなら、私だって本気を出すよ。


「んで、私の相手は紗希ね」

「そうねー。 去年の学年別クラス対抗リレーではやられたけど、今年は勝たせてもらうわよ」


 こっちはこっちで火花を散らしている。

 好敵手って感じだね。


 競技の準備が整って、ゲートを潜る。

 1年女子から順番にスタートしていくよ。


 お、麻美ちゃんが出てる。

 たしか、麻美ちゃんも足速かったっけ?


「頑張ってー、麻美ちゃーん」

「おおー! 頑張る!」


 声援を送ると、元気な返事が返ってくる。

 すると奈々ちゃんが……。


「あの子Cチームだけど?」

「か、関係無いよー。 麻美ちゃん個人を応援してるんだから」

「はいはい」


 ということで、100m走が始まった。

 まず麻美ちゃんのグループがスタートを切る。

 他の子達の速さは知らないけど、見るからに麻美ちゃんが抜け出ているのがわかる。


「速いね!」

「そうね。 まあ、私のが速いけど」


 と、奈々ちゃん。

 たしかに奈々ちゃんもかなり速い。

 私は負けたこと無いけどね。


 競技は順調に進み、いよいよ2年生女子の番。


「やっとですわね」

「うん?」

「やっと、本気モードで勝負出来るんですわよね?」

「うん。 本気だよ」

「燃えてきますわ」


 私も、なんだかんだ言って燃えている。

 いつかは奈央ちゃんと、本気でぶつかりたいと思っていたから。

 去年の体育祭で、奈央ちゃんの本気を見た時は本当にそう思った。


 私と奈央ちゃんは、スタートラインに立つ。

 もうお互いに視線を交わす事はない。

 ギャラリーも静まり返ってしまう。

 皆が知っているのだ。

 私と奈央ちゃんが、宿敵同士だという事を。

 中学に上がった時の事を思い出す。



 ◆◇◆◇◆◇



 中学1年の春──。


「おはようございます」

「?」


 誰だろう、この小さな女の子。

 私も身長は低い方だけど、その私より更に低い。

 でも、凄く整った顔立ちと、どこか他の生徒達とは違う気品のような物が漂っている。


「貴女、清水さんで間違いありませんわよね?」

「う、うん。 間違いないですけど……」

「あなたが噂の天才少女ですね!?」

「て、天才って……」

「中間試験の結果で私と勝負しなさい! どちらが真の天才少女か教えて差し上げるわ! あ、5教科の合計で良いですわよ!」

「えぇ……」


 ◆◇◆◇◆◇


「私は498でしたわよ!」

「凄いね、西條さん!」

「当然ですわ。 それで、清水さんの成績は?」

「500点だよ」

「……はい?」

「だから500点。 全部満点だよ」

「こ、今回は調子が悪かっただけですわ!」

「そっかー。 じゃあ次も勝負する?」

「もちろんです!」


 ◆◇◆◇◆◇


「ど、どうして……この私が何をやっても、まるで敵わないなんて……」

「あの、西條さん?」

「弱点を見つけてやりますわ! 貴女、バレー部でしたわよね? 私も入部します!」

「わ、私に言われても……」

「必ず弱点を暴き出してギャフンと言わせて差し上げますわ!」

「あ、あはは……」


 ◆◇◆◇◆◇


 

 今となっては懐かしい。

 いつの間にか仲良くなってて、大事な仲間で、大事な友人になっていた。

 私が本気を出しても良いと思える、数少ない相手。

 腰を下ろして、クラウチングスタートの態勢を取る。

 それに対して奈央ちゃんは、ロケットスタート。


「位置について」


 腰を上げて、ピストルの音に集中する。


 パンッ!


 その合図と共に地面を蹴り、スタートを決める。

 前傾姿勢から身体を起こし加速する……のが基本だけど、私は前傾姿勢のままでストライドを大きく取り加速を開始した。

 去年のリレーで見せたネコ科の動物の様な走りだ。

 チラッと前を見る。

 既に身体2つ分ほど、奈央ちゃんにリードを許している。

 私はどちらかというかと、スロースターター。

 中盤から終盤の加速力で勝負するタイプだ。

 一方の奈央ちゃんは、ロケットスタートから最高速に持っていく早さが尋常ではない。

 ブースターでも付いているのかと思うほど、スタート直後の加速力が凄いのだ。

 なので、スタート直後のこの差は想定の範囲内。

 大体中間ぐらいの位置で、私は姿勢を起こす。

 私も最高速度までは持って行けたので、徐々に差を詰めていく。


「(それにしても速い……奈央ちゃん、やっぱり凄いよ!)」


 本気の私でも、少しずつしか詰められない。

 もう余り距離も残ってない。

 このままじゃ逃げ切られてしまう。


「っ! 負けたくないっ!」


 心の底からそう思った。

 私は、限界まで足を回し、ストライドを拡げる。

 まだまだ……。 まだ加速出来るじゃない。

 まだ限界じゃないっ!

 全力中の全力を出して、奈央ちゃんに並びかける。

 ゴールテープは目の前だ。

 私は両手を横に広げて、胸を反らしてゴールテープに突っ込んだ。


「どっちですの?!」


 私達は同時にテープ係を振り向いた。

 最後はかなり際どい勝負だった筈だ。

 テープ係の人も判断出来ないのか、かなり悩んでいるようだ。


「……」

「写真判定でもあればねぇ」


 我が学園の体育祭は、そこまで手の込んだ事はしていない。

 計測係とテープ係の2人、計3人が相談した結果。


「同着1位!」

「ど、同着?!」

「うーっ! また勝てませんでしたわ!」


 結局、私と奈央ちゃんの100m走は同着で、決着は付かず。

 とはいえ、初めて女子相手に勝てなかったよ。

 私と奈央ちゃんは、仲良く1と書かれた旗の列に並ぶ。


「あとちょっとでしたのに」

「あはは……正直逃げ切られると思ったよ」

「まったく……追いつかれた時点で負けた気しかしませんわ」

「でも、タイムは同じで女子の学園記録みたいだよ?」

「みたいですわね」


 どうやら、私達のタイムはかなりやばいらしい。

 また陸上部から誘われたりしそうだよ。


 その後の競技はも順調に進み、奈央ちゃんと激戦を繰り広げ、結果的には勝ったり負けたりして、引き分けという事に落ち着いた。

 学年別クラス優勝は私達2ーBが手にしたものの、チーム優勝はAチームが手にし、今年の体育祭は幕を閉じた。

 本気で勝負出来て、最高に楽しかった。


「ありがとう、奈央ちゃん」

「?」

奈央との本気の勝負は決着つかずという結果に。

亜美も最高の勝負が出来て満足満足。


「の、希望です。 2人の競走だけど、応援席から見てると凄く白熱してたよ。 途中までは本気の亜美ちゃんが負けちゃうかもって思うぐらい奈央ちゃんも凄かったし! 私脚は遅いから羨ましいよぅ」

「あの2人がおかしいだけよ」

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