第2071話 麻美とドライブ
今日は麻美との初ドライブ。 少々不安な夕也だが。
☆夕也視点☆
12月11日の月曜日。 遂にこの日が来てしまったか。
「なはは! 絶好のドライブ日和だー!」
「いい天気だねぇ」
そう麻美ちゃんの車に乗っての初ドライブだ。 俺以外には亜美、奈々美、宮下さんと可憐ちゃんが参加している。 亜美は「心配無い」と言っているが、あの麻美ちゃんの運転だからなぁ。 スリル満点の可能性もあるぞ。 奈々美も「本当に大丈夫なのかしら?」と、少々心配しているようだ。
俺達は一度「皆の家」へ向かう。 麻美ちゃんの新居はまだ完成してないない為、今は「皆の家」のガレージに停めてあるのだ。
「なは! 遂に皆を乗せて初ドライブだー!」
「いえー!」
「ばぁー!」
ノリノリの反応を見せているのは宮下さんとその娘の可憐ちゃんだけだった。 可憐ちゃんはチャイルドシートではしゃいでいる。 車に慣れているのだろうか?
「さあそれでは出発ー!」
「いえー!」
「ぶーぶー!」
やはりノリノリなのは例の2人だけのようだ。 亜美はまあ普通にしているだけであるが、俺と奈々美はもう心配で心配で乗り気になれないのである。
麻美ちゃんはカカッとシフトレバーを動かして車を発進させる。 ちなみに目的地は市内のショッピングモールである。 亜美から「最初はその辺で様子を見よう」と言われたらしい。 まあ、そこまでなら大丈夫か……。
ブロロロォ!
「あ、麻美。 ちょっと速度出し過ぎてない?」
「なはは? あ、本当だ」
「麻美ちゃんダメだよ。 速度超過は違反なんだよ」
「はいっ! 教官っ!」
ああ、これは教習中にもやった事があるんだろうなぁ。 良く免許取れたなこれ……。
ブロロロ……
注意されてからは速度超過は無くなり、安全運転を心掛けるようになった麻美ちゃんだが……。
「麻美ちゃん。 右折レーンに車線変更だよ!」
「なはは! 忘れてたー!」
車線変更を忘れて直進したりするミスをしては亜美に注意されていた。
◆◇◆◇◆◇
ブロロロ……
「到着ー!」
「お、おう」
「思ったより時間が掛かったわね……」
「右折出来なくて遠回りになったからねぇ」
「うわはは! 素晴らしい運転であったぞ、麻美っち!」
「なはは! やはり! 私は天才ドライバーなのだー!」
と、宮下さんに持ち上げられるとすぐに調子に乗ってしまうのであった。 麻美ちゃんの悪い癖だな。 とりあえずはショッピングモールに入り、フードコートで休憩をしようという事になった。
フードコートで休憩しながら、この後はどうするかの作戦会議に入る。 まだドライブを続けるつもりなのだろうか?
「ここまでの運転を見て、とりあえずもうちょっと足を伸ばしも大丈夫だと判断したよ」
「嘘でしょ……」
「車線変更忘れてたじゃないか」
「些細なミスだよ。 大丈夫大丈夫。 そうだねぇ、私がナビするから、海岸沿いまで出てみようか」
「おー!」
「うわはは、麻美っち頑張れー」
「ばえー!」
と、ドライブ延長が決まった。 亜美の奴あんな事言ってるが、本当に大丈夫なんだろうなぁ?
◆◇◆◇◆◇
休憩を終えた俺達は、再び麻美ちゃんの車に乗り込む事に。 ナビをするという亜美が助手席に座り、俺は後ろの席へ移動。 隣には奈々美が座り、更に後ろの席に宮下さんと可憐ちゃんが座る。
「ではでは、海岸沿い道路まで出発ー!」
「いえー!」
「ぶーぶー!」
「ゴー!」
今度は亜美もノリノリだ。 さて、今から向かうのは東京湾の方らしい。 真冬の海外沿いは寒いと思われるが、それでも亜美がそこを選んだのには何かわけがあるのだろうか?
「パフェが食べられる良いお店があるんだよ」
「あー、なるほど」
ただの私欲の為にドライブを延長し、行き先を海岸沿いにしたらしい。 こんな時でもパフェの事を考えているとは、さすが亜美だ。
ブロロロ……
ショッピングモールの駐車場を出た麻美ちゃんは、亜美のナビに従って車を走らせる。 ちなみに、助手席に座っていた時に麻美ちゃんの顔をチラッと見たところ、運転中はさすがに真剣な表情をしている事がわかった。 ただ、信号待ち等している時は、いつものニコニコ顔に戻る。 忙しい子だ。
「ここを左折してねぇ」
「了解ー! 周囲安全確認ヨシ! 左折しまーす!」
ふむ。 最初に比べると随分とマシな運転になったようだ。 これなら安心して乗っていられるな。
「あ、信号が変わりそー! 急げー!」
ブロロロォ!
「うわわ?!」
「ちょっと?!」
「麻美ちゃん?!」
目の前の信号が変わりそうになったからか、急に加速して通過した麻美ちゃん。 あ、危ないな。
「麻美ちゃん。 今のはダメだよ! 信号が変わりそうになったら徐行して、ちゃんと停止しないといけないよ」
「はいっ! 教官っ!」
あー、これも教習中に注意された事があるんだなぁ……。 本当によく免許取れたな……。
「麻美ちゃんはしばらく、私が同乗して追試験しないとねぇ。 たまに無茶な運転してるよ」
「り、りょーかーい」
◆◇◆◇◆◇
ブロロロ……
「おー、海よ可憐ー」
「うーみー」
「賢いねぇ、可憐ちゃんは」
亜美のナビ通りに走った車は、ちゃんと海岸沿い道路に出た。 後は亜美が食べたいと言っているパフェが食べられる店を目指すだけだ。
「海岸沿いを真っ直ぐだよ。 ここから約4キロ地点にある喫茶店だよ」
「何でそんな店を知ってるんだ?」
「むふふ。 美味しいパフェがあるお店はプロファイルしてあるんだよ」
「さ、さすが亜美ね」
「うわはは! 亜美っちはパフェに命が賭けてるわねー」
「パフェは人生だよ」
大袈裟に聞こえるかもしれないが、亜美にとってパフェはそれぐらい重要なもののようだ。 小さな頃からパフェを食べて生きてきているからなぁ。 主食みたいな物なんだろう。
ブロロロ……
「お、あったよ。 あの喫茶店に入ってねぇ」
「りょーかーい」
麻美ちゃんはウィンカーを出して喫茶店に入っていく。 うむ。 だいぶ安心して乗れるようになったな。 亜美も満足なのかパフェが楽しみなのかは知らないが、ニコニコしている。
◆◇◆◇◆◇
「んむんむ。 美味しいねぇ」
「こんな寒い日に海の近くでよくまあパフェなんか食えるなぁ」
「わかってないねぇ夕ちゃん。 冬にアイスクリームを食べるのが美味しいように、冬にパフェを食べるのもまた美味しいんだよ」
「うわはは。 わかるけど私は今日はホットコーヒーで良いわ」
「私も……」
ちなみに麻美ちゃんはパンケーキを頬張っている。 可憐ちゃんは可憐ちゃんで、ジュースを貰って飲んでいる。
「さあ、休んだら帰るよぉ。 帰りも厳しくチェックしていくからねぇ」
「なはは。 お願いしますっ! 教官っ!」
いつの間にか亜美が教官という事になってしまったらしい。
帰りは亜美の監視とナビの下、特に問題も無く運転をこなした麻美ちゃん。 真面目にやれば普通に運転出来るようだ。 これからは怖がらずに乗ってやるとするか。
亜美教官のおかげで少しマシにはなった麻美であった。
「奈央ですわ。 さすがにまだちょっと乗りたくないですわね」
「大丈夫だよ。 うん、大丈夫なんだよ」




