第2069話 公開前日
映画公開日前日の麻美。
☆麻美視点☆
12月8日の金曜日。 明日は待ちに待った「時を越えて」の劇場版公開日。 更に、私の愛車の納車日にもなる。 ワクワクドキドキだ。
「なはは。 明日が楽しみー」
劇場版の「時を越えて」は前売り券も飛ぶように売れているらしく、前評判もかなり高い。 既に大ヒットすることが決まってしまっているー!
「明日は皆で見に行くんでしょ?」
「ええ。 劇場もおさえてありますわよ」
「さすが西條先輩ー」
「おほほほ」
「いやいや。 調整が大変だったよ……」
と、亜美姉は何やら苦労した様子。 劇場一つ貸し切るという事は、その時間帯は他のお客さんが入れないって事だからねー。 色々と問題があったのだろう。 亜美姉は苦労人だ。
「亜美ちゃんは有能過ぎますわよー」
「奈央ちゃんがなんでも行き当たりばったりに決めちゃうから、秘書である私が大変なんだよ……」
「おほほ」
「はあ……」
なはは……。
「ワイドショーでも映画の話を取り上げているみたいですね」
マリアがテレビを点けると、ちょうど「時を越えて」の話題になっていた。 特に音羽奏とアサミについての話が話題の中心のようだ。
「二人は前作で合作してますからね。 かなり近しい間柄なんじゃないでしょうか?」
「同じ編集社から出版しているだけでは中々合作とまではならないでしょうからねー」
「貴女達、本当に話題が尽きませんわね」
「ま、まあねぇ」
「なはは」
作家として、亜美姉と同列に語られるまでになれた私。 ようやく目標に近付けた気がするー。
「亜美も麻美も、しばらくは新作書かないの?」
「うーん。 私は来年入ったらかな」
「私は春ぐらいからー」
「ふぅん」
とりあえず大学卒業してからのつもりであるー。 卒業後はVリーグチームの西條アルテミスに所属予定だから忙しくなるとは思うけど、亜美姉だってやっている事だ。 目標としている人物が出来ている事を、私に出来ないなんて言えないー。 亜美姉に追い付くには常に茨の道を進むしかないー。
「ところで、明日の映画は東京組も来るわけ?」
「来るみたいだよ。 可憐ちゃんは実家に預けるみたいだけど……」
「さすがの可憐ちゃんも、映画は無理かー」
「まあ、まだ赤ん坊やしなぁ」
「だねぇ」
明日は可憐ちゃんには会えなさそうであるー。 亜美姉は可憐ちゃんに会えないのが悲しいらしい。 本当に可憐ちゃんが好きだなー。 まあ、皆そうだと思うけどー。
「麻美ちゃん。 明日は映画見た後に車受け取りに行くの?」
「うむー。 その予定ー」
「そかそか。 麻美ちゃんとのドライブ楽しみだよ」
「なはは! 任せたまへー!」
「俺は今から震えてるぞ」
「夕也兄ぃも武者震いしているー!」
「いや、単純に恐怖感やろ……」
何故ー?!
◆◇◆◇◆◇
夕方ー。 家に帰ってきた私は、自分の公式サイトでチャットに参加。 ファンさん達は明日の映画公開をとても楽しみにしてくれているようで、20回は見に行くという人もいるー。
「皆ありがとうー。 私も明日見に行きまーすっと」
カタカタ……
ファンとのこういった交流も、執筆の原動力になるのであるー。 亜美姉はあまりこういうファン交流はしないみたい。 何かミステリアスな感じが音羽奏のウリなんだとかー。 確かにそんな感じはするけどねー。 未だに正体不明の謎の作家。 それが音羽奏なのだ。
「新作はいつ書かれますか?」
「春ぐらいから書き始める予定ですっと」
私の新作を心待ちにしてくれているファンもいるー。 小説作家として、これほど嬉しい事はないー。
「次回作の構想は出来てますか? やはりSF?」
私はこれまでに結構な数のSF作品を書いてきた。 私と言えばSF作品というイメージも出来ているらしいー。
カタカタ……
「今のところ、構想はまだ何も出来てないですっと」
ターン!
という事だー。 今のところは何も出来ていないのである。 ファンタジー的な物でも面白いかもしれないと思ってはいるが、それを書くかはまだわからないー。
「アサミさんと音羽奏さんって仲が良いんでしょうか?」
ふむ。 やはりこういう質問はされるかー。 しかし、私と亜美姉の関係については他言無用ー。
「それに関しては、私からは何も話せませんっとー」
ターン!
ファン達の間では色々な憶測とかが飛び交っているようだ。 今は姉妹説が濃厚なのだとかー。 結構真相に近付いているー!?
「さて。 今日はここで落ちますっと。 明日また来ます!」
ターン!
書き込みを終えて公式ファンサイトを閉じる。 時間的にそろそろ夕飯の時間だ。 今日も夕也兄ぃの家におじゃまするぞー!
◆◇◆◇◆◇
藍沢家で用意した夕飯を手に持って今井家へ突撃ー!
インターホンもノックも無しにいきなりドアを開けて中に入る。 良い子はマネしちゃだめだぞー!
ガチャッ!
「こんばんはー!」
「来たわよー」
「おじゃまします」
「じゃまするぜー」
「にゃごー」
「わふ」
当然ペットの犬猫達も一緒に来ているぞー。 賑やか賑やかー。
「あ、いらっしゃいだよ」
「はぅ。 今日はそっちはハンバーグぅ?」
「えぇ。 そっちはカレーなのね」
「カツカレーだよ」
当然だけど、わざわざ両家で献立の打ち合わせなんかはしていないー。 だからたまに食卓に並ぶ料理がアンバランスになる事がある。 今日はまあマシな方かー?
とりあえずリビングへ行ってテーブルに料理を並べるー。 ちなみに私達は私達が持って来た料理を食べるぞー。 今日はハンバーグとポテトとサラダー。
「んむ。 明日はお昼から映画だねぇ」
「うむー。 車の受け取りはその後ー」
「麻美の車、早く見たいな。 俺は乗りたくないが」
「宏太兄ぃの職場まで送迎してやるぞー」
「いらんわ……」
むぅ。 まだ私のドライビングテクニカルを信じていないようだー。 しかしー、明後日のドライブでそれも晴らされるー!
「んぐんぐ。 麻美ちゃんの運転楽しみだよ」
「亜美は何でそんなに信じられるんだ……」
「免許をちゃんと貰えてるしねぇ」
さすがは亜美姉ー。
「夕也兄ぃも私の運転を見たらわかるー! 覚悟しておくがよいー!」
「覚悟がいるのか……」
「なははー!」
「いきなり高速道路とか入らないでよ?」
「高速も教習でやったからよゆー」
「はあ……」
「まあまあ、最初は近所からだよ麻美ちゃん」
「亜美姉がそう言うならばー!」
「何で亜美の言う事は素直に聞くのよ……はあ……」
◆◇◆◇◆◇
夕飯を食べ少し夕也兄ぃの家でゆっくりと過ごすー。
「向かいの麻美ちゃんの新居もほぼ完成だねぇ」
「来週には終わるって聞いてるー。 実際に住むのは来年入ってからー」
「ちゃんとガレージも作ったんだな」
「うむー。 車は欲しかったからー。 無駄にならなくて良かったー」
色々と同時進行していたものが、この年末で一気に片付いていく。 来年には新しい生活が待っているー。
来年はもっと楽しくなりそうな麻美であった。
「希望です。 麻美ちゃんもどんどん凄くなっていくよぅ」
「元から天才肌なところあるからねぇ」




