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第2051話 次こそは

奈央のサーブが回ってきた。

 ☆亜美視点☆


 クリムフェニックスとの試合は最終セットの終盤に入る。 4-7とリードで迎えた奈央ちゃんのサーブ。 ここでサービスエースを決めれば一気に有利になる事間違い無し。 奈央ちゃんもそれは十分に理解しているはずである。 狙いはやはり宮下さんだろうか?


「いきますわよ! そぉいっ!」


 パァンッ!


 奈央ちゃんはやはり宮下さんの方へサーブを放つ。 一気に勝負を決めにいく。 しかし、その宮下さん狙いを看破していたのであろう弥生ちゃんがカバーに入った。


「読めとるわ! 退きや美智香!」


 ギュイッ!


「な、何やて?!」

「おほほ! 貴女がそう出ることも読めてましたわよー」


 奈央ちゃんはその行動までも読み、ボールに回転を掛けていたようだ。 ボールは宮下さんの方に飛んでいくかと思われたが、そこから大きく軌道を変えて弥生ちゃんが最初に立っていた場所へと向かう。 そこは当然無人のスペースとなっている。


「くっ!? やられた!」


 ピッ!


 奈央ちゃんの方が一枚上手だった。 弥生ちゃんの読みの更に上へ行った結果のサービスエースだ。 4-8となりコートチェンジとなる。 5セット目はどちらかが最初に8点目を取ると、コートチェンジが行われる。 大昔は屋外でやる事もあり、コートの向きにより有利不利があったらしく、その名残として今も残っているのだとか。


「おほほ。 これでこの試合はかなり有利になりますわよ」

「だねぇ。 まだ奈央ちゃんのサーブが続くしね」


 ここまで来てスコアに差がつき始めたのは、やはり前田さんという強力なマネージャーの存在が大きいだろう。 弥生ちゃんのサーブを封殺する為に希望ちゃんとぶつける。 良く考えられた作戦だと思う。


「そちらはまだ諦めてはいませんのね?」

「当たり前や。 試合が終わるまでは何がどうなるやわからんのやで?」

「バレーボールに一発逆転は無いですわよ」

「一本ずつ返していけばええ。 連続ブレイクとサービスエースで逆転や」

「おほほ。 頑張ってちょうだい」


 最終セットの終盤まで来てこのスコアは割と厳しいと思うけど、クリムフェニックスからはまだ諦めの色が見えない。 凄い精神力だよ。


「それなら、諦めるまでサービスエースを決めてやりますわよ」


 と、こちらの奈央ちゃんもやる気十分。 ここで試合を決めてしまうつもりでいるようだ。 このまま先に二桁得点になってしまえばほぼ試合は決まるだろう。


「さて。 次、いきますわよ! そいっ!」


 パァンッ!


 奈央ちゃんの今回のサーブも軌道は宮下さん狙いとなっているが、さっきの事もあり弥生ちゃんも自分のポジションから動けずにいる。 奈央ちゃんはここまで先を読んでさっきのサーブを打っていたのだろう。


「私だってその気になれば!」


 自分が狙われているとわかっていた宮下さんは、奈央ちゃんのサーブを拾うべく構える。 肝が据わっているというか。


「うおーっ! どりゃー!」


 パァンッ!


 物凄い気合いを入れてレシーブを上げる宮下さん。 上手くはなかったが、それでも何とかCパスで上げている。


「ま、まあ良いでしょう!」


 Cパスとなったボールを追いかけるのは浜中さん。 このセットアップは二段トス……ハイセットになるので守備側はアタッカーを絞りやすい。 浜中さんはとにかく高く、ネット近くに上がるようにボールを上げた。 アタッカーの事を考慮したタイミングや高さのトスではない為、攻撃に繋ぐのも難しいトスである。


「ウチが決めたる!」


 弥生ちゃんがそのトスに対して跳ぶが、私達は既にブロックの準備も整って待機していた。 余裕を持って弥生ちゃんの前に壁を作った。


「こんのっ!」

「てやーっ!」

「止めるっ!」


 パァンッ!


 タイミングが上手く合わなかったのか、弥生ちゃんのスパイクは威力半減。 そのスパイクを遥ちゃんが完璧にシャットアウトし。 ブロックポイントを取り4ー9と更にリードを広げ勝負はほぼ決した。



 ◆◇◆◇◆◇



 その後、クリムフェニックスもブレイクとサービスエースで2点程詰めてはきたものの、最後まで私達に追いつく事はなく12ー15で5セット目を取り、アルテミスの勝利となった。 試合後はネット前に並んで整列。 やはり悔しそうな顔を見せる弥生ちゃん。


「また勝てへんかったんか……」

「うわはは。 やっぱつんよいわ」

「ヤナ」

「月ノ木学園さん恐るべしですね」

「あはは」

「まあ、そやけど、プロリーグにいる以上はこれからなんぼでも試合出来るし……次の試合でリベンジや」


 と、弥生ちゃんは相変わらずである。 私をバレーボールで倒す事ばかり考えているんだねぇ。 とりあえず、私達アルテミスとクリムフェニックスのプロ初対決は、私達の作戦勝ちとなった。 危ないところもあったけど、何とか勝てたと言った感じだねぇ。


「次は勝ったるさかい、首洗って待っとりや」

「あ、あはは……いつでも受けて立つよ」


 弥生ちゃん達はコートから出て控え室へと戻っていった。 私達はホームゲームだった事もあり、コートに残ってファン達に挨拶をして回る。


「お姉さん達つよーい!」

「凄いです!」


 さゆりちゃん達、アルテミスジュニアの面々に希望ちゃんが働く幼稚園の園児や先生方。 試合にはまだ出られない麻美ちゃんや渚ちゃん、マリアちゃんに冴木さんといった大学生組も客席で応援していた。 客席に手を振り、お客さん達に感謝の言葉を述べて控え室の方へ戻るのであった。



 ◆◇◆◇◆◇



「皆さん凄いっス! よくあんな化け物みたいなチームに勝てますね?!」


 控え室に戻ってくると、今日はずっとベンチで観戦していた牧田さんが興奮気味にそう言ってきた。


「あ、あはは。 まあ、危なかったし次やったらわからないよ」

「ですわねー。 今回は作戦が上手くいったのと、サービスエースが取れたから勝てたけど、次は確実にそこを対策してくるだろうし」

「私達も常に進化しなきゃねー。 新しい必殺技開発しなきゃ」

「まだ何か開発する気か、紗希?」

「おー」


 今後もクリムフェニックスと試合をするなら、私達も常に強くなっていかなきゃいけないわけだけど、仕事しながらの皆は本当に大丈夫だろうか?


「なは! なはは! 私も早くアルテミスで試合したいー!」

「やなぁ」


 まだ大学生であり、チームと契約していない麻美ちゃんや渚ちゃんも今日の試合を見て燃えているようだ。 来シーズンからは2人も参戦して、アルテミスの選手層が厚くなるね。


「さて! 今日は祝勝会ですわよ!」

「いぇーい!」


 試合に出ていなかったメンバーも皆参加で祝勝会である。 今日はまたもや焼肉である! というか、試合の度に焼肉やらお寿司を食べに行くんだろうか?

 ま、それはそれでいっか。

試合決着! アルテミスが勝利を手に!


「奈央ですわよ。 私達は最強!」

「最強だよ!」

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