第2050話 決着に向けて
最終セット最序盤。 流れを掴むのは?
☆亜美視点☆
アルテミス対クリムフェニックスの試合は遂に最終セットにもつれ込んだ。 クリムフェニックスのサーブを一本で切り、私の天井サーブからブレイクを取ったよ。 その後はクリムフェニックスが1点を返して来て1ー2となったところで、クリムフェニックスのキャミィさんにサーブが回ってくる。 非常に威力の高いドライブサーブを打つ選手だから、サービスエースを取られたりしないように注意だ。
「亜美ちゃん、紗希、集中ですわよ」
「うん」
「りょ!」
特にバックゾーンにいる私達はサーブレシーブをすることになるだろうから、要注意。
「ほないくデ!」
キャミィさんは高くボールを投げて、助走を開始。 タイミングを合わせて跳び上がりドライブサーブを打ってきた。 軌道的にはかなり伸ばしてきており、後衛の深い位置に着弾しそうだ。 私が少し後退しつつ対応する事に。
「てやっ!」
パァンッ!
やはり強力なキャミィさんのサーブに少し押されるも、何とかレシーブを上げる事に成功。 奈央ちゃんは既にセットポジションについており、落ちてくるボールを待っていた。 ここは同時高速連携の合図。 私以外の攻撃出来るメンバー4人が同時に跳び上がり、その中の1人にトスが出る。
パァンッ!
「きゃは!」
紗希ちゃんに出されたトスをいつも通りの打ち下ろしで決めて1-3とした。 さすがは紗希ちゃん。 こちらも決定率は凄く高い。
「止まらへんか」
「あたぼーよー」
「勝つのは私達だよ」
「まだ試合は終わってへん」
「そうよそうよー」
まあ、そんなに大きな点差がついている訳じゃないから、こちらとしても気は抜けないけれど。 とはいえまだまだ対応されていない奈央ちゃんのサーブが回ってくる事を考えると、こちらとしては気が楽である。
◆◇◆◇◆◇
続く遥ちゃんのサーブは返され2ー3となると、こちらも白鳥さんのサーブをしっかり返して2ー4に。 ここでビッグサーバーの奈々ちゃんにサーブが回る。
「さて。 狙い目は白鳥さんかしら」
「そだねぇ」
宮下さんが前衛にいる為、中々狙いづらいという事で狙い目はMBの白鳥さんかSの浜中さん辺りになってくる。
ここまでのプレーを見るに、白鳥さんの方が少しレシーブが苦手なんじゃないかなぁとは思う。 狙うなら白鳥さんだろう。
「んじゃいくわよ」
「決めちゃえ奈々ちゃん!」
「はっ!」
パァンッ!
今回は狙いを白鳥さんに定める為に少し威力を下げてのサーブのようだ。 それでもその辺の女子選手では出せないような球速が出ているが。
「ひぃ……」
やはり少し腰が引けている白鳥さん。 作戦通りだ。
パァンッ!
「どわわ、ごめんなさいー!」
ピッ!
ここで白鳥さんは痛恨のレシーブ失敗。 私達アルテミスにとって大きなサービスエースとなった。
「おお! ナイスサーブ奈々ちゃん!」
「値千金のサービスエース!」
「ふふふっ。 やっぱサービスエースは気持ちいいわね」
「どんどんいってやれ!」
「もちろんよ」
サーブエリアへと戻る奈々ちゃん。 狙いはやはり白鳥さんなようだ。
パァンッ!
先程と同じようなサーブを白鳥さんに向かって放つ。 しかし今度はその狙いもバレていたらしく、すぐにキャミィさんがカバーに入ってきた。 しかしキャミィさんはレシーブの体勢を作り切れずに中途半端な体勢でレシーブに。
パァンッ!
「ワハハ! すまん、みだれタ!」
「十分や!」
中途半端な体勢だったながらもBパスの範囲に収めてきたキャミィさん。
「やるわね」
「だねぇ」
キャミィさんは本当に上手くなった。 素人同然だった高校時代とはもはや別人だ。
さて、レシーブされたボールはしっかり浜中さんがトスを上げて弥生ちゃんに決められてしまったが、3ー5として点差を開いた。 更に続く宮下さんのサーブも防ぎ3ー6。 マリエルさんのサーブも防がれて4ー6となり、クリムフェニックスの弥生ちゃんにサーブが回る。 このタイミングで、マリエルさんから希望ちゃんに替わるよ。
「はぅ! ふんすっ!」
「き、気合い凄いね」
「拾うよぅ!」
心強い事である。 希望ちゃんはその動体視力を駆使して、最速で相手のサーブのコースを見破り動き出す。 余程の事でも無い限りはサーブで希望ちゃんを出し抜く事は難しい。
「勝負や! ジャイロサーブ!」
ここで希望ちゃんに対しては初となるジャイロサーブを打ってきた弥生ちゃん。 軌道としてはナックルサーブと同じようなサーブだ。 ただしナックルサーブと違いドリルの様なジャイロ回転をしている為、レシーブした時にボールが真横にバウンドしてしまう。 しかもこのジャイロ回転、弥生ちゃんの気分次第で逆回転にすることも出来るようだ。 普通は回転方向なんて見てる余裕がない為、レシーブする際はバウンドする方向に山を張る必要がある。 しかし、それはあくまでも一般的な「眼」を持っている人の場合である。 しかし希望ちゃんは違う。 希望ちゃんは特別な「眼」を持っている。 きっと希望ちゃんにはあのサーブの回転が時計回りなのか反時計回りなのかが見えているはず。
「ここだよぅ!」
素早くサーブの軌道を読みポジションを移動した希望ちゃん、ボールを凝視して軌道と回転を見極めている。 奈央ちゃんは希望ちゃんのレシーブを信頼し、既にセットポジションに移動して待機。 私達も希望ちゃんのレシーブの結果を見守る。 サーブレシーブは時間にして一瞬の出来事であるが、それでも色々な事が起きている。
希望ちゃんがレシーブする腕の位置や角度を微調整しながらサーブを迎え打つ。
パァンッ!
まずはしっかりとボールにタッチする事に成功。 さすがコマ送りに見えると言うだけはある。 更に回転方向もしっかりと把握していたようで、完璧なレシーブを奈央ちゃんに返した。 このレシーブには、サーブを打った弥生ちゃん本人も舌を巻く。
「ほんまかいな……」
希望ちゃんの完全勝利となり、そこから新連携の混合連携に移行。 弥生ちゃんのサーブを一本で切り、一気に試合の流れをこちらに引き込んだ。
ピッ!
4ー7となったところでクリムフェニックス側はタイムアウトを要求。 両チーム共短いインターバルに入る。 ベンチへ戻って水分補給を行う。 ここまで来ると前田さんからも新しい作戦の提案は無く「このまま全力でいきましょう!」に留まる。 ここからは奈央ちゃんのサーブになるので、サービスエースでも取れさえすれば一気に試合が決められるかもしれない。
短いタイムアウトを終え両チームがコートに戻る。 アルテミスのサーブエリアには奈央ちゃんが立ち、試合再開の合図待つ。 クリムフェニックスサイドの選手達もまだ諦めているような様子は無く、まだ逆転を信じている目をしている。
「良いですわ。 その希望の糸、私のサーブで断ち切って差し上げますわよー!」
さあ、決着に向けて試合再開だよ。
サービスエース等でリードを広げたアルテミス。 次は奈央のサーブ。
「奈々美よ。 奈央決めちゃいなさいよー」
「わかってますわよー」




