第2047話 同時時間差混合連携
クリムフェニックス側は堪らずタイムアウト。
☆亜美視点☆
4セットは11ー5とリードして進んでいる。 クリムフェニックス側が流れを切る為にタイムアウトを取ってきたよ。 私達もベンチに戻って小休止。
「皆さんちょいとお話が」
「ん? どうしたの奈央ちゃん?」
「新しい事をやろうと思いますわよ」
「新しい事?」
「まあ、連携をちょちょいと変えるだけですわ」
「どうすんのよ?」
紗希ちゃんがスポーツドリンクを飲みながら訊ねると、奈々ちゃんはまた面白い事を言い出した。
「同時と時間差をミックスしますわ。 2人ずつに分かれて同時と時間差に分かれての高速連携ですわ」
「そ、それって何か効果はあるのかな?」
「知らないわよ。 何かやってみたいからやるんですのよ」
「別に試合中にぶっつけ本番でやらなくても良くねぇか?」
「むきーっ! とにかくやってみますわよー!」
「あ、あはは……まあ、リードしていますのでお好きにどうぞ。 戦略に組み込めるようならラッキーですし」
「では次チャンスが来たらやりますわよー!」
奈央ちゃんは思い付いた新連携。 何だかやる気になっているので一回ぐらいはやってみても良いかもしれない。 コートに戻るまでに助走のタイミングを奈央ちゃんから指示されたよ。 同時をマイナス、時間差をファーストとセカンドの中間ぐらいのタイミングで助走に入る事に。
さて、コートに戻り試合再開である。 次のサーブは紗希ちゃんだ。 紗希ちゃんはスパイクの開発には力を入れているけど、サーブの開発はあまりやっていないようだ。 得意サーブはドライブサーブ。 威力とコントロールのバランスが良くて、割とサービスエースを狙っていけるサーブだ。
「いくわよん! きゃはっ!」
パァンッ!
紗希ちゃんのサーブは真っ直ぐ宮下さん目掛けて飛んでいく。 やはり宮下さんは狙い目である。 ドライブ回転の掛かっているボールは、急に沈み込むような軌道に変化する。
「こう何度も狙われてると、嫌でも慣れちゃうってば!」
パァンッ!
自分で言うように慣れてきたのか、ほぼ完璧にレシーブを成功させる宮下さん。 この辺はさすがにプロ選手と言ったところで、しっかりと試合中にサーブレシーブのコツを掴んだ。
「やるじゃない宮下さん! 毎回この調子で頼むわよ!」
「うわはは! まだ毎回は無理!」
ボールの方は浜中さんがセットアップからのジャンプトス。 平行のバックトスでキャミィさんへ繋ぎ、強烈なスパイクを打ってくる。
しかし、そのスパイクに間一髪で飛びつく影があった。 白い大きなリボンを揺らしながらも飛びついたのは希望ちゃんである。
パァンッ!
「間に合ったよぅ!」
ダイビングレシーブでギリギリのところで拾ったボールだが、そんな状態からでも完璧なレシーブを上げている。 希望ちゃんのレシーブの正確さは計り知れない。
「おー! ナイスですわ!」
奈央ちゃんがセットアップしたと思ったら、ニヤリと口角を上げた。 さっき言っていた連携を早速試してやろうと考えているようだ。
「混合!」
奈央ちゃんの合図が出ると、私達は先程決めた通りに助走に入る。 私と遥ちゃんはマイナステンポで先に走り出し、ちょっと遅れて紗希ちゃん、奈々ちゃんが助走を開始する。
クリムフェニックスサイドの面々は、何が起きているのか理解出来出来ていない様子。 とりあえずマイナスで助走に入った私と紗希ちゃんにブロックが2枚と1枚それぞれに張り付いた。 しかし、遅れて助走に入った紗希ちゃんと奈々ちゃんは2人ともフリーという状況になった。 こうなるとクリムフェニックス側は、どっちが打って来るかわからないという状況に陥り、守備陣は一瞬戸惑って動きが止まってしまう。
「奈々美!」
そこに奈々ちゃんからのゴリラスパイクが炸裂。 クリムフェニックスの守備が一歩も動けずに、ただ呆然とボールを見つめていた。
「な、何やねんそれー!」
「聞いてないわよそんな攻撃ー!」
「かくしてたんカー!」
次の瞬間、弥生ちゃんや宮下さん、キャミィさんがヤーヤーと文句を言い始めた。 まあいきなり見た事の無い事をやられたら文句の一つも言いたくもなるだろう。
「隠してたわけじゃないですわよ。 さっき思い付いたからやってみただけ」
「お、思い付いたからて……それであないなやばいもんを作ったんかいな」
「まあ、そうですわよ」
ピッ!
「きゃは。 サーブするわよー?」
お話に夢中になっていてサーブの事を忘れてたよ。 先程のプレーはブレイクとなり、現在スコアは12ー5で私達が大きくリード。 サーブは引き続き紗希ちゃんだ。
「宮下さん! いくわよ!」
「宣言?!」
紗希ちゃんはサーブを打つ前に誰を狙って打つかを宣言。 ここまでで散々狙われてきた宮下さんは、かなりレシーブのコツを掴んできている様子だった。 これ以上は宮下さんを狙っても旨味は無いような気もするが。 かと言って、他の人を狙ってもそれは同じか……。 それなら結局は宮下さんを狙ってサーブした方ががまだサービスエースの可能性が高い。
パァンッ!
紗希ちゃんは宣言通りに宮下さんを狙ってサーブを放った。 宮下さんはもう慣れた様子でレシーブに構える。 試合開始時点とはまるで別人だよ。 宮下さんはただレシーブの練習をやってこなかっただけで、元々素質はあったのだろう。
パァンッ!
「うわはは! どうだー!」
「Cパスやないか!」
「ワハハ、ミチカまだヘタやないカー」
「ちょっとは見直してたのにー!」
慌ててボールを追いかけていく浜中さん。 うん、大変そうだね。 宮下さんも慣れてきたとはいえ、まだまだ安定するとは言えないようだ。 まだまだ宮下さんは狙い目のようである。
「ええい! 誰でも良いから決めて!」
何とかボールに追いついた浜中さんは、とにかく高くボールをトス。 二段トスとなるので遥ちゃんと私でゆっくりとブロックへ向かう。 二段トスの対応は楽で助かるよ。
「ワハハ! こんどこそきめるデ!」
「せーの!」
「てやや!」
タイミングを合わせてブロックへ。 キャミィさんは構わずにフルスイングでスパイクを打ち込んでくる。 ボールは私の左手に当たったが、ブロックにはならずアルテミスコートへに突き刺さる。 今回はさすがの希望ちゃんも拾う事は出来ず。 12ー6となる。 大量リードなのは変わらないのでこのまま冷静にプレーしていって、とにかくこのセットを取ってしまいたい。
ピッ!
灰谷さんのサーブで始まるラリーを制して13ー6としたところで、またもやクリムフェニックス側がタイムアウトを取ってきた。 一向に変わる気配の無い流れを何とか変えようと必死になっている様子。 この点差でもまだこのセットを諦めていないクリムフェニックス。 中々に粘り強いようだ。 私達はこのセットを落とすと負けなので、何としてもこのままセットを取り切り最終セット勝負に持ち込みたいところ。 流れは絶対に渡せないよ。
流れが変わらず、またもや堪らずタイムアウトを取るクリムフェニックス。
「遥だ。 流れってすげーな。 3セット目までと全然違う」
「流れって怖いねぇ」




