第2044話 七色のサーブ
4セット目に入ったアルテミスとクリムフェニックスの試合。
☆亜美視点☆
クリムフェニックスとの試合は4セット目に入る。 セットカウントは2ー1で、クリムフェニックスに負けている。 こちらはスターティングポジションを少し弄って臨むよ。 どう弄っているかというと、弥生ちゃんのサーブのタイミングで、希望ちゃんが1番のポジションに来るようになっている。
「おん? 何や変わったポジションやな?」
「作戦ですわよー」
「ほぉん。 なるほど。 ウチのサーブのタイミングはちょうど雪村さんが後衛に来るタイミングっちゅうわけやな」
「ついでに、キャミィさんのサーブの時は私がいるよ」
「これで流れを引き寄せますわよー」
「そないな事でこの流れが変わるかいな」
「まあやってみないとね」
まずは奈央ちゃんのサーブからだよ。 ここはやはりネオドライブサーブなようだ。 ただし、宮下さんが後衛スタートなので、ネオドライブで宮下を狙うのは難しいだろう。
「そぉいっ!」
パァンッ!
奈央ちゃんは構わずサーブを打ち込んでいく。 強烈な縦回転を与えられたボールは、ネットを越えた辺りから急激に変化する。 通常のドライブサーブならアタックラインを越えてバックゾーンに落ちるのだが、奈央ちゃんのネオドライブはアタックライン付近から手前ぐらいのフロントゾーンに落ちてくる。 しかも、回転数が異常に高い為、レシーブで腕に当たると顔面目掛けて跳ねてくるのである。
「まだ手前?!」
パァンッ!
ピッ!
白鳥さんが目測を誤りレシーブミス。 これによりサービスエースになり、1ー0と好調な出だしとなった。 奈央ちゃんは手を緩めない。 更にネオドライブサーブで攻め立てる。 今度は逆サイドの浜中の方へとサーブが飛んで行く。 先程の軌道を見ていた為、かなり前目に構えて待っている浜中さん。 しかし……。
「なっ?!」
奈央ちゃんのサーブはほんの少しだけ利き腕と逆方向、野球で言うシンカーの方向に曲がった。
「こんのっ!」
浜中さんは慌てて体勢を変えてボールを追うも、上手くレシーブ出来ずに落球。 連続サービスエースとなった。
「ふふふ。 私の七色のサーブ、見切れるものなら見切ってみなさいな」
色々な回転を自由自在に操る奈央ちゃんのネオドライブサーブの派生。 本気になった奈央ちゃんのサーブは、中々拾えないのである。
「奈央ちゃん! もう一本ー!」
「おほほ。 23点、全部サービスエースにしてやりますわよ」
うん、それはさすがに無理だろうねぇ。 いくら凄いサーブでも、それだけ連発すれば対応されるだろう。
「いけー奈央ー!」
「そぉーいっ!」
パァンッ!
今度はどんなサーブを打ったのだろう? ネットを越えた後ボールは……。
「ちょい待ちや!? これはウチのジャイロ!?」
パァンッ!
ピッ!
「うわわ……また決めちゃったよ」
「おほほ3ー0ですわよー」
凄い凄い! さすが奈央ちゃん! ワールドカップベストサーバーに輝いただけはある! それにしても……。
「西條さん、ジャイロサーブ打てたんか」
「回転数がどんなもんかが理解れば、打つぐらい容易いですわよ」
「ほんまかいなぁ……ウチ、これマスターするのに結構掛かったんやけど」
と、少し落ち込み気味の弥生ちゃん。 しかし奈央ちゃんが「キレも球威も月島さんの方が上だけど」と、軽くフォローしていた。
「さて。 次はどんな回転を掛けましょうかね」
奈央ちゃん、結構楽しんでるねぇ。 回転数、回転方向等自由自在に操れるんだから、そりゃ楽しい筈である。
「じゃあ次はこれ! そいっ!」
パァンッ!
次はシックルサーブと呼ばれるサーブだ。 鎌のように鋭くほぼ真横に曲がるサーブだよ。 身体の真横からボールが飛んでくる為、非常に拾いづらいサーブとなる。
「どんな変化してのよっ!?」
「ワハハ! まかせとケー!」
キャミィさんがレシーブを試みる。 横から飛んでくるボールの方向を向いて待機するキャミィさん。 さっき宮下さんがやったレシーブ方法だ。 宮下さんの場合、素のレシーブが下手なのが逆に功を奏した感じだったのだが、キャミィさんはあれでレシーブも結構上手い。 果たしてどうなるか。
パァンッ!
「ワハハ! すまんハマナカー! Cパスになってもうター!」
「Dパスでしょうが!」
キャミィさんはレシーブしたは良いが、宮下さんの真似をして後ろ側に上げようとして勢い余ってフリーゾーンの遥か彼方へと飛ばしてしまったようだ。
「おほほほ! 止まりませんわよー!」
4連続サービスエース! これはもう本物だよ! もしかしたら本当に25回サービスエース取るかもだよ!
「あかん、完全にペース持ってかれてもうた。 このセットで決めてまいたいんやけど……」
「そうはいきませんわよ! 次行きますわよー! そぉーい!」
パァンッ!
今度のはまたネオドライブサーブに戻ったようだ。 狙いは浜中さんのようだ。
「この辺!」
奈央ちゃんのサーブの軌道を読み、前目に構えている。 果たして、奈央ちゃんのネオドライブサーブを攻略してくるか。
パァンッ!
「はひぃっ?!」
浜中さんはレシーブ自体は出来たが、強烈なトップスピンの掛かったボールが顔目掛けて跳ねて来たのを見て咄嗟に避けている。 き、危険なサーブだねぇ。 レシーブされたボールはバックゾーンに待機している弥生ちゃんが繋ぎそうだ。
「ようやく来た攻撃チャンスやけど、ちょっと弱いな」
二段トス……ハイセットになるからねぇ。 ただ、それでも宮下さんがスパイクすれば、かなりの確率で決めてくるよ。
「美智香いったれ!」
「おー!」
やっぱり宮下さんで来るよね。 ここは私と遥ちゃんでストレートを閉めて、クロスの希望ちゃんに託す。
「うわはは! 希望っちとは勝負しないんだわさー!」
「むむっ! その手には乗らないよ!」
もちろんそれは読んでいた。 宮下さんはここまでなるべく希望ちゃんを避けていたからね。 という事で、ブロックアウトプレーを警戒だ。
「甘いー!」
パァンッ!
「うわわ!」
最大限警戒していたにも関わらず、上手く手の平の外側に当てられてブロックアウトにされてしまった。 むむー、宮下さんとテクニック勝負しても勝てる気がしないよ。
「ようやく止められたな。 4ー1か。 かなりやられてもうた」
「そうねー」
「ハマナカーもサービスエースいったれヤー」
「頑張ってはみるけど、あんまり期待はしないでね」
浜中さんはフローターもドライブも打ってくる選手だ。 コートには希望ちゃんがいるので、出来ればサーブレシーブはお任せしたい。
パァンッ!
「きゃは! フローターサーブ飛んできちゃ!」
「紗希ちゃん、替わって!」
希望ちゃんがいち早く反応して動き出している。 紗希ちゃんは「任せた!」と言いながら、バックアタックの為の準備に入った。
「はいっ!」
パァンッ!
やはり希望ちゃんのサーブは安定感抜群だ。 あっさりと奈央ちゃんにレシーブを返している。 そこから同時高速連携で攻め立てて、クリムフェニックスのサーブを一本で切ることに成功。 5ー1とした。
奈央がサービスエースでがっつり稼ぎ好スタート。
「奈央ですわよ。 私のサーブは何処にでも曲がりますわよー。 その気になればライズボールにも……」
「バレーボールでは意味無いからやめようねぇ」




