第2041話 アルテミスピンチ?
クリムフェニックスリードで進む3セット目終盤。
☆亜美視点☆
16ー15で終盤に入った3セット目。 流れはあまり良くはないけれど、まだブレイク1つの差。 十分ひっくり返せるはずだ。 サーブは引き続き白鳥さん。 先程フローターサーブにやられてしまった遥ちゃん。 またもや遥ちゃんを狙ってきたよ。
「ちっ、私を甘く見てやがるな? たしかに苦手だが拾えねーわけじゃないんだぜ!」
パァンッ!
さすがは遥ちゃん。 奈々ちゃんとは違って基礎の練習もしっかりやる遥ちゃんは、大体どんなプレーでも卒なくこなせる。 多少苦手ではあるフローターサーブも、このようにちゃんと拾えるのだ。 うん、遥ちゃん偉い!
「ナイス遥! はい、時間差!」
私達は奈央ちゃんの指示に従い走る。 クリムフェニックス側もさすがにもうウンザリな顔を見せるが、それでも止める為の試行錯誤はやめていないようだ。 スプレッドシフトで1対1のブロックを作り、フリーでスパイク出来る選手を1人に絞ってくる。 ここはもう固定なようで、後は後衛の守備の問題となるようだ。 現在、クリムフェニックスのコート上には新田さんもいないので守備範囲は狭い。
「奈々美!」
「私がフリーとはね! はっ!」
パァンッ!
奈々ちゃんの強烈なスパイクには、誰も触れず。 あっさり決めて16ー16に。 よし、まだまだいける。 この流れなら奈々ちゃんのサーブで逆転だって可能だよ。
「よぉし、奈々ちゃんここだよ! いっちゃえ!」
「そうね。 ここでサービスエース決めて流れを持ってきてやるわ」
おお、何とも頼もしい。 期待出来るよこれは。 相手の後衛は白鳥さん、キャミィさん、浜中さん。 キャミィさんにはさっきレシーブされているけどはてさて。
「すぅー……よし、いくわよ! はぁっ!」
パァンッ!
力強いインパクト音と共に凄いスピードで飛んでいくサーブ。 コースは浜中さんの方へ飛んでいく。 浜中さんはまだあのサーブを直接受けた事は無いからねぇ。
「ひぃっ?!」
やはり腰が引けている。 これならば上手くレシーブは出来ないだろう。
パァンッ!
やはり、中途半端に腰が引けた体勢ではちゃんとしたレシーブは上げられない。 観客席方向へ飛んでいき、これもサービスエースとなった。 いやいや、奈々ちゃんのサーブはもう兵器である。
「ナイスだよ奈々ちゃん! 16ー17! どんどんいこー!」
「そんなポンポンサービスエースばかり取れないっての……」
「いや、取りまくってんじゃん……」
紗希ちゃんが言う通り、奈々ちゃんは結構なサービスエースを決めている。 普通に打ったサーブが必殺級の威力になるって反則だと思うんだけどねぇ。
ピッ!
「奈々美、もう一本!」
「ふぅ……わかったわよっ!」
パァンッ!
奈々ちゃんの全力サーブが今度はキャミィさんへ飛ぶ。 細かいコントロールは出来ないらしいので、誰に飛ぶかはわからない。 さっきキャミィさんにはレシーブされているので、もしかしたらこれも……。
「ワハハ! ウチはこわくナイデ」
パァンッ!
あんなサーブに対してもいつも通りのレシーブを見せるキャミィさん。 今度はAパスを返してみせた。 奈々ちゃんのサーブを完全に攻略しているようである。
「完璧やんか!」
「ナイスレシーブ! 宮下さん頼みます!」
「はいよー! あちょー!」
パァンッ!
宮下さんのスパイクにマリエルさんが飛びつくも、あっさりとブロックアウトにされて17ー17に。 もう少しのところで流れを取りきれないでいる。
次の宮下さんのサーブから始まるラリーを制して17ー18とするも、続く紗希ちゃんから始まるラリーをクリムフェニックスに取られてブレイクならずの18ー18。 ここで弥生ちゃんがサーバーになりピンチ到来だ。 ジャイロやナックルでサービスエースを取られて勢いづくとやばいよ。
「だはは! この為や! この為にさっきはナックルサーブを途中で止めたんや!」
何故か高笑いを始める弥生ちゃん。 どうやらこの展開を読んでいたらしい。 ここでサービスエースを重ねて、3セット目を取る魂胆だろう。 むむむ……アルテミス側はまだジャイロサーブやナックルサーブに対応し切れていないし、弥生ちゃんの作戦にまんまとやられているようだ。
「ほないくで!」
パァンッ!
まずはナックルサーブのようだ。 やはり奈々ちゃん狙いのこのサーブに、奈々ちゃんは「あーもう!」と嫌な顔を見せる。 ゆらゆらと不規則な軌道かつ結構な球速の出ているこのサーブ、素早く判断してレシーブに構える必要があるのだが……。
スカッ!
「うがぁー! わかるかー!」
見事にボールの無い場所に腕を出して空振っている。 まあ、こればかりは仕方ない……あんな動きを手元でされては、誰だってああなるというものだ。
「だはは! 見たか! 我がナックルサーブの力を!」
あっさりサービスエースに取られた私達。 更にその後も立て続けに2発打たれ、1球はやはりサービスエースに、2球目は何とかレシーブはしたものの、酷い場所へ飛んで行ってしまいまともな攻撃に繋げられず、クリムフェニックスにブレイクされてしまった。 これで21ー17とされた私達だけど、次のサーブをまたもや普通のドライブサーブに切り替えて来た弥生ちゃんの隙を突き、ようやく弥生ちゃんのサーブを終わらせる事に成功。 21ー19とした。
「ふぅ。 ギリ耐えですわね」
本当にギリギリである。 次のサーブはマリエルさん。 サービスエースが取れない事もないけど、あまり期待は出来ない。
「いきマスヨ!」
パァンッ!
マリエルさんのドライブサーブもかなり鋭いのだけど、奈々ちゃんのサーブに目が慣れているクリムフェニックスの守備を崩すには至らず。 しっかり繋がれて22ー19。 これは3セット目を取られても仕方ない感じになってきたよ。
「奈央ちゃん奈央ちゃん、これはさすがに厳しいかな?」
「いえ、まだいけますわよ。 次のアルテミスのサーブは私ですもの」
と、奈央ちゃんにはまだ焦りが見られない。 多分、ネオドライブサーブやその派生サーブを使えばサービスエースで追いつく自信があるという事だろう。 たしかに奈央ちゃんのサーブなら可能性はあるけど、仮にこのセットを取る為に奈央ちゃんがネオドライブサーブを連発したら、次のセットに影響は出ないだろうか?
「まずは灰谷さんのサーブを一本で切らないといけませんわよ。 ここでサービスエースやブレイクを取られれば、もうこのセットは捨てることになりますわよ」
「きゃは、厳しいんじゃん」
「それはそれはやばいな」
「はぅ。 私に飛んできたら完璧に拾ってみせるよぅ」
「多分だけど、奈々ちゃん狙いだよ」
「ま、そうよね……」
どうやらこのセット、この灰谷さんのサーブの結果次第になりそうだ。 すなわち、この灰谷さんのサーブを止められなければ、この試合の負けまで見えてくるだろう。 ここ一本集中だよ!
弥生のサーブでリードを広げられピンチのアルテミス。
「亜美だよ。 うわわ、このセット取られたらいよいよ危ないよ」
「何としても追いつきますわよ!」




