第2035話 ここから全力
セット間のインターバルで前田の作戦を聞く亜美達。
☆亜美視点☆
さて2セット目はクリムフェニックスに取られて、セットカウント1-1の振り出しに戻ったよ。 とりあえずはセット間のインターバルに戻って来たよ。
「熱いっス! 熱過ぎるっスこの試合!」
「ほんま、ようこんな息の詰まる試合続けられるますなぁ」
ベンチへ戻ると、今日の試合では出番の無いベンチメンバーが試合を見ながらワイワイ話していた。 もはやVIP席である。
「でも、気を抜けなさそうですね」
天堂さんの言う通り、一瞬も気を抜けないのである。 気を抜いたら一気にやられるだろうからねぇ。
「この試合、出番無くて良かったです……」
「姫神さん、そんな弱気では困りますわよー」
「は、はい」
さて、あとは前田さんと次セットの作戦会議だね。
「前田さん。 次のセットはどうします?」
「ここからは小細工無しです」
「お? つまり?」
「全力勝負で2セット連取を狙います。 ただ、あちらも全力で対抗してくるはずです。 簡単にセットを取れるとは限りませんが」
「ですわね。 どっちが先にビッグサーブに対応するか……」
「月島さんのナックルサーブはギリギリまで軌道が読めないから、拾うのは難しいよぅ」
「だねぇ。 ジャイロサーブも急に軌道が変わるから大変だよ」
こっちはさっきのセット、一度とはいえ同時高速連携を返されてるからねぇ。 こっちも気を付けないといけない。
「いよいよ全力同士の両チームがぶつかり合うんですね……」
「か、神々の戦いっスー!」
「大袈裟な……」
「いや。 間違いなく日本プロリーグ最高峰の試合どすえ? 大袈裟でも何でもあらへんよ」
「世界のトップ選手達が両チームに分かれて対戦してるんですもんね!」
「あ、あはは」
たしかに見方によってはそうかもしれないねぇ。 それにしても1-1のこのタイミングで勝負を仕掛けるのか。 前田さん的にもこれ以上引っ張るのは得策じゃないという判断なんだろうね。 同時高速連携も返されてるわけだし。
「まあ、やれるだけやりましょう」
「そねー」
「お姉さん達頑張ってー!」
「せんせーがんばえー!」
応援席にいる小さな子供達やジュニアの子達の声援を受け、3セット目のコートへと向かう。 3セットはクリムフェニックスのサーブから始まる。 次のローテで奈央ちゃんにサーブを回す為、1番のポジションには希望が入っており、奈央ちゃんは6番、ライト前衛にいるよ。
ピーッ!
さあ、ここからは全力で行くよ。
「はっ!」
パァンッ!
3セット目開始。 初っ端のサーブは浜中さんのサーブだよ。
「きゃは、私かー」
飛んで行ったのは紗希ちゃんの方。 希望ちゃんを避けてのサーブなんだろうけど、紗希ちゃんはレシーブの方も上手いのだ。 奈々ちゃんとは違って基礎練しっかりやってるからね。
パァンッ!
「きゃはは。 よゆーよゆー」
「やるわね、紗希! んじゃ、時間差でいきますわよ!」
「らじゃだよ!」
今回は時間差高速連携だよ。 同時と違い、アタッカー全員が時間差で攻める連携で、ブロックのタイミングやレシーブのタイミングまで惑わせる。
「ど、どこからくる?! こっち?!」
「残念、逆ですわよー! 奈々美!」
「はいよっ!」
パァンッ!
「こんのっ!」
奈々ちゃんのスパイクに跳びつく弥生ちゃん。 2セット目に同時高速連携を防いだ時と同じだけど……。
パァンッ!
「ぐっ!?」
しかし、奈々ちゃんの超パワースパイクを不安定な体勢かつワンハンドで拾えるはずも無く、ボールは勢いよく客席まで飛んでいく。
ピッ!
「さ、さすがやな藍沢さん」
「まあね。 世界最強のパワーをとくと味わうといいわ」
「おほほ。 ではローテですわよ」
奈央ちゃんは高笑いしながらサーブポジションへ移動していく。 その姿を見たクリムフェニックスの面々の顔が真剣な物に変わった。 奈央ちゃんがさっきまでより更に長い助走距離を取ったからであろう。 そこからどんなサーブが来るかを知っている為、気を引き締めているのだ。
「いよいよ全力かいな……」
「そういう事だよ」
「いきますわよ! 食いあそばせー!」
パァンッ!
奈央ちゃんの必殺スパイク、ネオドライブサーブだ。 これを初見で攻略するのは難しいだろう。 特に、レシーブが苦手な宮下さんでは尚更だ。
「私狙いーっ!?」
「美智香、気ぃ付けや!」
「んな事言われてもっ……ぶひゃあっ!?」
宮下さんはネオドライブサーブの急激な変化を捉え切れず、ワンバウンドして跳ねたボールが顎に直撃し目を回している。 まるでギャグ漫画である。
ピッ!
「だ、大丈夫美智香姉?」
「おぉぉぉ……強烈……でも大丈夫。 プレーは続けられる」
「さよか。 にしても、やっぱりえげつないサーブやな」
「ですね。 Lの私が触れない前衛に落としくるサーブ。 とんでもないです」
「あんなの私じゃ拾えないわよー?!」
「そこは頑張って!」
「うへーん……」
宮下さんは半泣きになりがらも次のサーブに備えて構える。 可哀想ではあるけど、奈央ちゃんはそんな宮下さんにも容赦したりはしない。
「そぉいっ!」
「ま、またーっ!?」
「踏ん張りや美智香!」
「んぎゃあっ!?」
今度は何とか手に当てたが、強烈なトップスピンのかかったボールは、そのまま宮下さんの顎目掛けて跳ねた。 またまた目を回している。 やはりギャグ漫画である。
「み、美智香姉……」
「お、おぉぉぉ……や、やるわねー……」
「無茶苦茶やられとるがな……」
「無理って言ってんじゃーん!」
「何とかせぇ。 西條さんはとことん狙って来よるで」
「おほほ!」
「うぅーっ」
奈央ちゃんは高笑いしながらもう一度サーブポジションへ。 ここまで0-3で来ているが、弥生ちゃんのサーブが回ってきたら私達もサービスエースを取られて追いつかれる可能性は高い。 取れるとこで取れるだけ稼ぎたいところだ。
「宮下さん、いきますわよ!」
「もう宣言してるしっ!?」
「そぉいっ!」
パァンッ!
三度宮下さんを襲うネオドライブサーブ。 三度目ともなれば、変化具合や拾った後の挙動はある程度理解出来るはずだが、宮下さんはどう対処するのか。
「でぇい! 何とかなれっ!」
宮下さんは体を横にズラし、野球のバッターのように手だけをボールの軌道上に出した。 顎に当たるのが嫌なんだね……。
パァンッ!
「おお……上がったで」
「Cパスですけどねっ!」
浜中さんは文句を言いながらボールの落下点まで走っていく。 二段トスになりそうだし、ここは私と遥ちゃんのブロックで何とか。
「キャミィさん!」
「オウ!」
「亜美ちゃん、キャミィだ!」
「らじゃだよ!」
キャミィさんに上げられたトスにブロックを合わせていく。 キャミィさんのパワーを抑え込めるかどうか……。
「ウリャッ!」
パァンッ!
「うわわーっ!?」
ストレートの僅かな隙間を狙って打ってきた。 キャミィさんにこんな細かいコントロールがあるとはだよ。
ピッ!
「ナイスキー、キャミィ!」
「ワハハ!」
1-3。 もう少し稼ぎたいところだったけど、宮下さんにやられてしまったねぇ。
「まあ、これぐらいで一旦勘弁して差し上げましょ」
弥生ちゃんのサーブタイミングをどう凌ぐか……それが肝になりそうだ。
奈央のサーブで少しは稼げたが?
「遥だ。 月島の奴のサーブもあるからなぁ」
「余裕は無いよね」




