第2030話 ようやくブレイク
点差はまだ開かない。
☆亜美視点☆
ピッ!
「ふぅ。 テクニカルタイムアウトぉ」
15-16でここまで来た1セット目。 そろそろ何とかしたいところ。 次の奈々ちゃんサーブがサービスエースになれば一番楽になるんだけど。
「次、宮下さん狙いで良いわよね?」
「ですね。 奈々美さんのサーブでエースを狙うのであれば宮下さんを狙うのが良いです」
「問題はラリーが続かないってとこだねぇ。 どちらも決定率が高過ぎてブレイクチャンスが無いよ」
「ここまでどちらも100%だからなぁ」
「普通じゃないですね、この数値は」
ブロックとLが仕事させてもらえないままである。 希望ちゃんも「はぅ……困ったよぅ」と、少し弱気。 そもそも仕事をさせてもらえないからねぇ。 ちょっと可哀想である。
「前田さんからは何かアドバイスは?」
「今のまま行くしかないですね。 皆さん最善を尽くされています」
「最善を尽くしてこれかぁ」
「あのチームと試合して優勝出来るホワイトフォックスやブルーコンドルズって凄いのね」
「選手だって毎試合ベストコンディションというわけではないですから。 まあ、今日に限っては皆さんベストコンディションみたいですけど」
「何故今日に限って……」
そんなに私達との試合楽しみだったのかなぁ? これからは何回も試合出来るだろうに。
「とにかくサービスエースを狙うわ。 奈央がネオドライブを温存してるから、私が何とかしないと」
「男子並のサーブに期待だね」
宮下さんならレシーブをミスしてくれる可能性はある。 それに賭けるしかないか。
「さ、試合再開ですよ!」
「いっちょやってやりますか」
「奈々ちゃんお願いね」
「120km出してやるわよ」
「それはもう人間としてやばいですわよ」
私達もコートに戻り試合再開。 奈々ちゃんのサーブだ。 奈々ちゃんはサービスエースを狙っていくと宣言している。 宮下さんを狙えば十分チャンスはある。
「いくわよ宮下さん!」
「うへーっ!? もうやだー!」
パァンッ!
奈々ちゃんのサーブが宮下さんを襲う。 コントロールを上げる為、少々威力は抑えたのだろうけど、それでも100km/h近い球速を出している。 怖い怖い。
「誰か助けてちょーよ! へぶっ!」
パァンッ!
また変な声を上げながらレシーブしてるし。 それでも何とかボールを上げた宮下さん。 ただ、ほぼ真上に上げてしまっているので二段トスになる。 ブレイクチャンス!
「紗希ちゃん、マリエルさんブロック集中だよ!」
「りょ!」
「ハイ!」
二段トスは十中八九オープントスになる。 高いトスが上がるので、ブロックをつけてタイミングを合わせるのは容易くなる。
「月島さんお願いよ!」
やはり高いトスが上がる。 弥生ちゃんがそのトスに跳びつくようだ。
「サキさん!」
「オッケー!」
「食らいさらせや!」
パァンッ!
「サワリマシタ!」
おお! マリエルさんやるねぇ! ソフトブロックでしっかりとスパイクの威力を殺して、上方向にボールを弾いたマリエルさん。 やはりブロック技術の高さはピカイチだねぇ!
「オーライだよ!」
上がったボールを冷静にレシーブして奈央ちゃんへ。 ようやくやって来たブレイクチャンス。 ここは確実に決めたいところ。
「同時!」
「おー!」
奈央ちゃんの合図で同時高速連携に入る。 私も皆と一緒に助走に入り攻撃に参加。
「よし、紗希!」
「りょっ!」
パァンッ!
ここは決定率の高い紗希ちゃんが得意の真下打ち。
ブロックも1枚だった事で何とか決める事が出来た。
「よしっ!」
「ナイス紗希ちゃん! 奈々ちゃんもナイスサーブだったよ!」
「こらこら。 喜ぶにはまだ早いわよ」
「1セット目だしまだちょっとリードしただけですわよ」
「そ、そうだね」
ようやく取れたブレイクに喜んだけど、奈央ちゃんの言う通りまだまだ試合は続く。 ブレイクを取り返されたら試合は振り出しに戻るし、気は抜けない。
「奈々ちゃん!」
「わかってるわよ。 当然もう一本狙っていくわ」
リードを広げる為に、奈々ちゃんはサービスエースを狙っていく。 さっきの感じなら、宮下さんを狙えばチャンスがあるかもしれない。
「ふぅ。 行くわよ!」
パァンッ!
さっきと同じようなサーブで宮下さんを狙っていく奈々ちゃん。 宮下さんは「もうーっ!」と、さすがに嫌そうにしている。
「ぶへっ!?」
やはりレシーブは得意じゃない宮下さん。 また変な声を出しているけど、今回は何故かAパスが返っている。 たまたまだろうけどちゃんと拾う事は出来てるので、そこはさすが日本代表だ。
「やったら出来るやん」
「うわはは……もう勘弁してー」
半泣きになりながらも、しっかりと攻撃の為に助走準備をしている。 こうなると攻撃力の高いクリムフェニックス。 何とか止めたいけど……。
「ワハハ!」
パァンッ!
ピッ!
キャミィさんに決められてしまい、16-17となる。 やっぱり簡単には止まらない。 リードこそしたものの、まだまだ安心出来るようなものではない。 あちらにもビッグサーバーがいる以上、サービスエースで追いつかれたり逆転されたりする可能性は十分にある。 何とかこのリード守りたいけど。
「次は弥生のサーブね」
「打ってくるかな、ナックルサーブかジャイロサーブ」
「この1セット目を取る事をどれだけ重要視しているかですわねー」
「ここを勝負所と見るかどうか……」
「月島は大局観のある奴だからな」
弥生ちゃんはサーブポジションに立ち、ボールを見つめながらこの先の試合の展開をシミュレーションしているようだ。 そして、顔を上げた弥生ちゃんはゆっくりとボールをトス。
パァンッ!
「普通のドライブサーブ!」
狙いはやっぱり奈々ちゃんだ。 弥生ちゃんクラスのサーブの威力なら、奈々ちゃんを狙えばレシーブを乱せる可能性があると踏んだのだろう。
「ふっ! 舐めてくれちゃって! これぐらいなら余裕よ余裕!」
パァンッ!
「ほらね?」
「最低でもBパスにしてくれません?! Cパスは勘弁して」
「ご、ごめん」
まったく奈々ちゃんってば。 今度はこっちが二段トスからの攻撃になる。 せっかくリードしたし、ここは何とか決めたい。
「皆! 同時!」
Cパスで二段トスになっている中でも、奈央ちゃんは同時高速連携の指示を出してきた。 奈央ちゃんは何処からトスを上げてもドンピシャで合わせられる自信があるのだろう。
「りょ!」
「らじゃだよ!」
「任せなさい!」
「おう!」
私達はそんな奈央ちゃんを信用しているので、指示に従って助走に入る。 クリムフェニックスの面々は、同時に助走を始めた私達を見て少し困ったような表情を見せている。
「レシーブ崩しても意味無しかいな」
パァンッ!
ピッ!
奈央ちゃんからのトスを奈々ちゃんが決めて16-18。 奈央ちゃんのトスの精度は本当に凄い……。 クリムフェニックス陣営も頭抱えてそうだ。
ようやくブレイクを取ったアルテミスだが、まだ安心は出来ない。
「奈々美よ。 私のサーブでどんどん崩してやるわよ」
「期待してるよぉ」




