第2028話 明確な弱点
アルテミスの強さにウンザリな弥生。
☆弥生視点☆
千葉西條アルテミスとの試合はまだ1セット目や。 10-11と、相変わらず差が付かへん展開になっとるよ。 ウチらかてかなり強いチームやと思うんやけど、あちらさんも相当やよ。 まあわかってはいたんやけどな。 特に攻撃力が半端やない。 不可侵の高さから千沙の守備範囲外を確実に打ち抜いてきよる亜美ちゃん。 男子選手並のふざけたパワーの藍沢さん。 捕球難度がクソ高い紗希の真下打ち。 それらを最大限に活かす天才セッターの西條さん。 マグレでも何でもええから、止めな話にならんで。
「きゃはは。 ほいじゃサーブいくわよー」
「どんと来なはれ」
紗希のサーブやな。 パワー、コントロール、ドライブのキレ、どれも一級品や。 十分サービスエースも狙えるレベルやよ。
「おりゃあ!」
パァンッ!
「ちょちょっ!」
美智香狙いか。 ウチのチームで一番レシーブが甘いやっちゃからなぁ。 あちらさんも露骨に狙い始めてきよった。
パァンッ!
「のわはっ!?」
変な声を上げながらレシーブを上げる美智香。 下手くそやなぁ……今後の事も考えたらもっとレシーブの練習してもらわなあかんで。
「何とかBで返したわ!」
「出来れはAパス返して!」
頑張った美智香に容赦無い言葉を浴びせるSの浜中さん。 まあ、言われて当然やなぁ。 美智香は「何でよー! ちゃんと上げたじゃん!」と文句を返しとるけどな。
「ええい! キャミィさん!」
「ヨッシャ!」
「マリエルさん! キャミィだ!」
「ハイナ!」
キャミィのスパイクに蒼井さんとマリエルの2枚ブロック。 世界トップクラスの厚い壁やな。
「ウォリャ!」
パパァン!
「ワンチですゥ!」
マリエルが触りよったか!? どないなる!?
「ありゃ無理ですわねー」
「ブロックアウトだねぇ……でも惜しかったよ!」
「スイマセンー……」
「ドンマイだ! 次止めようぜ!」
「ハイ!」
マリエルはキャミィのスパイクに対応し始めよったかな。 さっきのもブロックの角度次第では拾えとったやろうしな。 こらやばいで。
「灰谷さんサーブよろしくー」
「はいはーい」
サーブはウチのMB灰谷さんや。 白鳥さんよりブロックの技術は劣らはるけど、それでもウチのチームのNo.2ブロッカーや。 基本的にはLの千沙の交替要員や。
サーブの方はランニングジャンプからのドライブサーブが武器や。 パワーはある方やよ。
パァンッ!
「私狙うのやめてほしいんだけど!」
「奈々ちゃんもレシーブの練習しないと」
パァンッ!
「よし! 上げたわよ!」
「だからCパスはやめなさいって!」
何やあっちもバタついとるなぁ。 藍沢さんがウチの美智香と同じで、レシーブ苦手族やからな。
「あーもう! あまり走らせないでちょうだいっ! はいっ!」
「てややっ!」
「そっから亜美ちゃんに上がるんかいな!?」
パァンッ!
ピッ!
「やったね」
くっそー。 ほんま手に負えへんわ。 西條さんのトスがあまりにも最短距離でアタッカーに届くさかい、リードブロックすら間に合わへん事がある。
「11-12カー。 なんとかならんカ?」
「ならん。 今んとこどうしようもあらへん」
「それってお互い様なんじゃないの?」
「まあ、それはそやけど」
そうなんやけど、あっちには前田さんっちゅう優秀なブレインが座っとる。 あの人がデータを揃えたら一気に対策立ててきよるやろう。 そうなったら試合の流れはあっちに傾きよるやろうし。
「やれるだけやるしかあらへんな」
「そうね」
「次はマリエルのサーブか。 美智香、頼むで」
「私に飛んできたら頑張る」
パァンッ!
「飛んできたぁっ!」
まあ、そうやろなぁ。 美智香と藍沢さんは今んとこわかっとる明確な弱点やからな。 そこを狙っていくんは常套手段や。
「うきゃー!」
パァンッ!
猿みたいな声を上げながらも何とかレシーブを上げる美智香。 まあまたBパスやけどな。 にしてもこないな恥ずかしい姿、娘に見られたら嫌やろなぁ。
「月島さん頼む!」
「あいよ!」
「むふふ。 勝負だよ弥生ちゃん」
「止めるぜ!」
亜美ちゃんと蒼井さんの2枚ブロックか。
「ええで! 勝負や!」
踏み切って高くジャンプ。 重りを外して高さは稼げるようになったけど、それでも亜美ちゃんや蒼井さんの高さにはちょっと届かんか。 バケモン共め!
ストレートをしっかり閉めてクロス打ちを誘導、クロスにはマリエルが構えとるな。 ブロックケアには紗希……ここは!
「こっちや!」
ストレートに打つ!
パァンッ!
「うわわっ!? 強引っ!?」
亜美ちゃんのブロックに上手い事当てて、こちら側のコート外に落ちるように調整。 美智香お得意のブロックアウトプレーや!
ピッ!
「う、上手いねぇ」
「まるで宮下さんだったな」
「私の方が上手い!」
「わかっとるがな!」
美智香が世界一上手いのはわかっとる。 ウチのは所詮付け焼き刃や。 毎回同じ事やれ言われても出来る自信あらへんわ。
「クロスに打つと思ったんだけどねぇ」
「マリエルはんがレシーブも上手いんは覚えとったからな」
「ぐぬぬだよ」
そやけど、亜美ちゃんと蒼井さんのブロックはかなり圧があるな。 高さもあるしブロック技術もしっかりしとる。 あのブロックがあるタイミングはほんまやりにくい。
「浜中さん、サーブやで」
「はいよー」
12-12か。 ここまでカロリーの高い試合になるとは思うてへんかったわ。 これがまだ1セット目てか。 おもろい。 おもろいでやっぱり。
パァンッ!
「拾うよぅ!」
コートに戻ってきた雪村さんがノリノリで拾いに来よる。 まあ、あのLがいるタイミングはサービスエース取るのかなり難しいやろなぁ。
パァンッ!
「せんせいじょーずー!」
「はぅ……」
どうやら観客席には雪村さんが働いとる幼稚園の子達やろか? 応援に来とるみたいやな。 他にもアルテミスジュニアも見に来とるのが確認できる。
「奈々美! ぶち抜いてちょうだい!」
「了解!」
「白鳥さん、頼むで!」
「いやいや! 無理無理!」
パァンッ!
ピッ!
白鳥さんのブロックは簡単にぶち抜かれて決まる。 白鳥さんかて日本トップレベルやと思うけど、男子並のスパイクには手も足も出ぇへんか……。
「ごめんなさい。 止められなかった」
「しゃーないで。 あんなん止められるんはほんまごく僅かや」
美智香とは真反対に進化した怪物やで。 どないな力しとんねんあれは。
「ふんっ!」
「うーん。 もはやゴリラすら生温いよ」
「試合の後で覚えておきなさいよ」
「ひぃ」
さて。 ほんまに中盤まで膠着状態で来てもうたなぁ。 この試合どないなるんかさっぱりわからへんな。
宮下と奈々美は明確な弱点だが……。
「奈々美よ。 失礼な。 ちょっとレシーブが苦手なだけよ」
「それを弱点って言うんだよ……」




