第2025話 重り
奈々美のサーブにビビっている白鳥さんに喝を入れる弥生。
☆弥生視点☆
遂に始まったウチら東京クリムフェニックスと亜美ちゃん達の千葉西條アルテミス。 あちらさんのコートメンバーはあの月ノ木黄金メンバーの6人に、フランス代表MBのマリエル。 まあ、最強メンバーやろうな。 ほんまは麻美っちや渚、マリアなんかも居たらおもろかったやろうけど、あれらは世代が下やからなぁ。 来年以降や。 試合の方は互角で進んどったけど、藍沢さんのサーブがサービスエースになってアルテミスリードになりよった。 3-4や。 まだ藍沢さんのサーブが続くし、気は抜けへん。
「皆、ビビったらあかんよ。 死ぬ気でぶつかっていけば拾える!」
「死にたくはないんだけど」
「死なへんわい! それぐらいの気概で止めに行くんや」
「わ、わかった……」
「話終わった? いくわよ! はっ!」
パァンッ!
しかしまあ化け物みたいなサーブ打ちよるで……。 時速100km/h超えのサーブやなんて、女子バレーボール界ではまず見られへん代物や。 男子が打つサーブやで。
「ええい! ままよ!」
白鳥さんが覚悟を決めて腰を落とし……。
パァンッ!
「うぎゃあっ!」
悲鳴を上げながらも、何とか藍沢さんのサーブをレシーブする事に成功しはった。 それでこそプロやで。 まあ、さすがにAパスとはいかんけどやな。
「Cパスかー!」
「上げただけヨシ!」
「ええい! キャミィさん頼む!」
「ワハハー!」
ここはパワーにはパワーっちゅう事やな。 キャミィのスパイクは藍沢さんには及ばんまでも、十分世界トップクラス。 蒼井さんや麻美っち、雪村さんがおらんで止められるかいな?
「いねヤー!」
パァンッ!
「オウ?!」
「相変わらずえぐいわねー!」
ピッ!
キャミィのスパイクも、藍沢さんみたいにマリエルと紗希のブロックをものともせず貫いた。
「どないヤ!」
「ちょっとは加減しなさいよ」
「そっちのナナミもカゲンせぇヤ」
「いやよ」
パワー対決はこの2人の好きにさせといたらええか。 とりあえず4-4でローテーション。
「うわはは! 我がサーブを受けよ!」
「あーはいはい。 さっさと打ちなはれ」
「もっと応援してよー……よし、いくぞー! はっ!」
パァンッ!
美智香のサーブや。 威力もドライブもまあ普通やから、これくらいのサーブやったら亜美ちゃん辺りがサクッと拾いよるやろな。
「てやっ!」
やっぱりやな。 まあ、ここまでは想定の範囲内や。 問題はこの後の攻撃や。 ウチが前衛におるけど、ブロックの腕前はそないにあらへんし。 何より……。
「てややーっ!」
「その高さは無理なんやって!」
パァンッ!
ピッ!
「どやぁ」
「ほんま反則やで、その高さは」
「これが私の武器だからねぇ」
世界一の高さを誇るウチのライバル。 正直あれに勝つにはウチもあの高さに到達せなあかんのやけど……。
「はぁ。 まあ、そろそろええか」
「ん?」
ウチもここまで隠しとったあるもんを解除する事にした。
「よっと……」
しゃがみこんで足に巻いていたある物を外す。 まあ、どっかの誰かさんもやってた事を真似しただけやけどなぁ。
「もしかしてそれ……」
「重りや。 片方3kgや」
「さ、3kg?! いつから?」
「春先ぐらいからやな」
「え?! ワールドカップ中も?!」
「そや? 外したんは久しぶりやで。 おお、軽い軽い」
春から風呂のとき以外は大体着けとったさかいなぁ。 外したままで運動するんは初めてやな。 どれくらい効果が出とるかわからんけど。
「きゃはは。 少年漫画みたいな事するのが私や麻美以外にいるとはねー」
「あんさんらの特訓効果見てたらバカにでけんからな」
「ほな再開やな」
ちょっと待たせてもうたな。 サーブは紗希やな。 パワーもあるしコントロールもある。 ええサーブ打ちよるんや。
「行くわよー! きゃははっ!」
パァンッ!
「美智香、行ったで!」
「レシーブ苦手なんだってば!」
紗希の事やから狙ってやりよったんやろ。 ほんま強かなやっちゃで。
パァンッ!
「ごめんちょー!」
「Bなら十分!」
「月島さんお願いね!」
「任しとき!」
ウチに合わされたトスに向かって助走を開始。 アルテミスの前衛には蒼井さんとマリエルはんのMB2枚てか。 厄介な布陣で来よってからに!
「はっ! うおりゃっ!」
「くっ?! さっきまでと高さが違う!」
パァンッ!
ピッ!
「思うたより重りトレーニングの効果出とるな」
とはいえ、まだまだ亜美ちゃんの高さには敵わんか。 そやけど、ブロックでボールに触るぐらいは出来るようになったやろ。
◆◇◆◇◆◇
ピッ!
試合は少し進み7-8。 アルテミスリードでテクニカルタイムアウトに入る。 やっぱり強いで、あの6人。
「手応えは悪くないぞ」
「まあ、何とかってとこやな」
監督の言葉通り、手応えは感じとる。 どうやっても敵わへんみたいな絶望的な差は感じてへん。 十分勝ちもあると思う。
「うわはは。 弥生っち、よくあんな重りずっと着けてたわねー? しかもバレずに」
「まあな。 大変やったで」
「キャミィさんのパワーも通用してますが、雪村先輩なら対応してくると思います」
雪村さん信者の千沙やけど、言うてる事は間違えてへんやろうな。 ウチやキャミィみたいな単純な攻撃を繰り返してたら、雪村さんはすぐに対応して来よるやろう。 上手く躱しながら決められるとしたら、美智香ぐらいやろなぁ。 まあ、ウチも力押しやめたら多少は決定率上がるやろけど、キャミィは厳しいと思う。
「千沙はどないや? 藍沢さんのサーブやらスパイク何とか出来そうか?」
「今のところ何ともですね。 ですが、試合の中で何とか対応出来るようになると思います。 あれ以上パワーアップしなければ」
「さ、さすがにあれ以上はあらへんやろ……男子以上になってまうで」
とか考えながら、腕相撲大会の事を思い出す。 そういや腕っぷしの強い男相手にも楽勝しとったなぁ……まだあんのか? 更に上が?
「とにかく、このまま離されないように食らいつけ。 で、隙があれば畳みかけろ」
「隙なんかあるわけあらへんやろ」
「うわはは!」
「ワハハ!」
まあ笑い事やないんやけどな。 実際、アルテミスのあのメンバーに隙なんてもんは期待出来へん。 奇跡でも起これば話は別やけどな。 ただ、打開策が無いわけでもない。 ウチはさっきのサーブではナックルもジャイロも使わずに普通のサーブで誤魔化した。 慣れられて勝負所で使えへんくなるんを避ける為にや。 必ず勝負所は来る。 それまで温存や。
「ま、それはあちらさんの西條さんも同じ考えみたいやけどな」
あちらさんも冷静に試合の流れを読んどる。 さっきのサーブでネオドライブ打って来よらへんかったからな。 タフな試合になりそうやで。
お互い隙を見せない。
「奈々美よ。 私のサーブに対応するとはね」
「気を抜いたら負けるよ」




