第2021話 プロ
今日も仕事の紗希。 先輩はまた徹夜していたらしい。
☆紗希視点☆
今日は10月26日の木曜日よん。 まあ、平日は毎日お仕事で忙しいんだけどさ。
「おはようござーす! 真昼さん、昨日も泊まりですかー?」
「おー、神崎ちゃんかー……おはざーす……ご覧の通りさー」
「きゃはは……相変わらず大変そうですね」
真昼花苗さんは私の隣のデスクでお仕事をしている先輩よ。 仕事は出来るしデザイナーとしての腕も一流。 それ故か、数多くの仕事を抱えている。 多い時は4つの仕事を同時に受けている事もあるぐらい。 大丈夫なのかしら?
「真昼さん、おはよう。 また会社に泊まったの?」
「社長。 おはようございますー……いやー、中々快適な深夜ライフでしたよぉ」
「無理しないように」
「仕事重なってるからー」
「真昼さん指名が多いから……出来過ぎるってのも大変よね」
「本当、凄いですよねー」
「嬉しい悲鳴っつーのかねー……」
私には悲痛な叫びのようにも見えるけど。 でも、真昼さんはこんな大変な状況が続いても決して弱音吐いて仕事を疎かにしたりはしないのよね。 これぞプロって感じ。 キャラデザ界隈でも結構名が知れているものね。
「それで、徹夜の成果は?」
「何とか終わったわー……今日〆切の分は」
「まだ後2つあるわよね?」
「あい……〆切はまだあるからぁ……今日は帰りますぅ」
「はい、お疲れ様」
「お、お疲れ様です」
「お先ー……」
真昼さんは目に隈を作りながら手を振って、部屋を出て行くのだった。
「真昼さんって、いつからあんな感じなんですか?」
「2年目の夏くらいにはもうあんな感じだったと」
「うへぇ……優秀過ぎるのも大変ですね」
「ねー。 お仕事だから仕方ないけど、ちょっと依頼が多いのはね」
「私も来年の今頃は……」
考えただけでも震えるわ。 しかし、社長のお姉さんは「ははは」と笑った後でこう言った。
「一応言ってくれればこちらで調整するようにはするけど……」
「え、そうなんですか? でも真昼さんは……」
「あの子は全部引き受けちゃうの。 『自分に来た仕事、自分がやらねば誰がやる!』とか言って」
「きゃはは」
自分の仕事にプライドと自信を持っているのね。 それがどんな無茶な事でも、自分以外の人には任せられないと。
「たしかに、真昼さんはシリーズ化されたゲームのキャラデザやってますからね。 他の人に今更変わるわけにもいかないか」
「そうね。 私も長い事、ゲームのキャラデザの仕事貰ってるけど今更他の人には任せられないわ」
「私もそういう仕事、早く欲しいかも」
「紗希ちゃんはもうちょっと経験積んでからねー」
「はい!」
私ももっとたくさんの仕事をこなして、経験を積まないと。 名前ももっと売らないとね。
◆◇◆◇◆◇
仕事を終えて「皆の家」へと帰ってきたわ。 今日は裕樹も「皆の家」に来ているので、夕飯も食べていくわよ。
「ほへー? グランドリームシリーズ? 知ってますー! 昔からある有名なRPGのシリーズですー」
麻美にとあるゲームのタイトルを訊いてみると、やはりというか知っているようだった。
「神崎先輩、ゲームに興味があるんですかー?」
「あー、いや。 そうじゃなくてさー。 私の同僚がそのゲームのキャラデザしてて」
「グランドリームシリーズのキャラデザというとー……真昼花苗ー?」
「そそ。 有名なの?」
「グランドリームシリーズはこの人のデザインしたキャラクターありきですー」
「おー、そうなんだ」
真昼さんってやっぱ凄いのね。 他にも色々なゲームのキャラデザを手掛けたりもしているとかなんとか。
「なはは! サイン貰ってきて下さいー」
「え? 真昼さんの?」
「はいー。 有名なキャラクターデザイナーですのでー」
「そ、そう。 まあ、頼んでみてあげる」
「やったー!」
「それで、紗希は今は何のデザインの仕事してんの?」
「私? 私は今、とある企業のイメージキャラクターのデザインをね」
「へぇ。 結構大きい仕事?」
「まあまあだと思う」
「さすが神崎先輩ー」
「きゃはは! まあね」
「紗希はすぐ調子に乗る……」
「裕樹はうっさい」
「……」
また、仕事の事はあまり外部には漏らしちゃいけないのよね。 さて、夕飯の支度しますか。 亜美ちゃんが居ないからマリアと奈々美に手伝ってもらいますか。
◆◇◆◇◆◇
翌日よーん。
「あ、真昼さん、おはよござまーす」
「おはざーす」
職場へ行くと、真昼さんはデスクに座ってコーヒーを飲んでいた。 いつものスタイルね。
「次の仕事の〆切は?」
「11月10日まで。 まあ、何とかなる」
「ちょっと余裕ありますな」
「うむ。 久しぶりにのんびりやれそ」
「きゃはは。 良かったですねー。 んしょ」
デスクに座りパソコンを起動。 私もコーヒーを淹れて始業まで休憩とするわ。
「ふぅ……」
「そういや神崎ちゃんのデザインしたVドルの子、めちゃくちゃ頑張ってんね」
「風花ちゃん? 頑張ってますね。 また近いうちにコラボしようって言われてますよ」
「ママも頑張っとりますな」
「へい。 頑張っております」
「皆、おはようございます」
「あ、社長おはようございます」
「おはようございまーす」
「紗希ちゃん、1日有給申請了解したわ」
「ありがとうございます」
「ほよよ? 1日お休み? バレーボール関係?」
「そうなんです。 どうしても出たいVリーグの試合がありまして」
「ほん。 1日ねー……バレーボールは詳しくないけど……」
カタカタ……
「東京クリムフェニックス?」
「ええ」
「何かネット調べてると、凄く注目されてる試合みたいだけど?」
「まあ、そうですねー。 今、日本で一番凄い選手2人が対戦する事になるので」
「へぇ。 私も見れたら見よ」
「きゃはは。 私も頑張んないと」
「はいはい。 その前に仕事頑張って」
「あ、始業時間か」
さて、私の今のお仕事は企業のイメージキャラクターのデザイン。 今までイメージキャラクターを使って来なかった企業が、イメージアップや宣伝の為にイメージキャラクターを作りたいとの事で、この会社に依頼が来たらしい。 まだまだ経験の少ない私に、社長が回してくれた仕事よん。 風花ちゃんのデザイン以降は小さな仕事を2つ任せてもらったけど、久しぶりにちょっと大きな仕事だわ。 気合い入るわ。
「うしっ! やるわよん!」
「おお、やる気満々だ」
「うおー!」
企業イメージを考慮して、相応しいイメージキャラクターを作らねば。 〆切は11月10日までで少し余裕はあるけど、早めに下書きぐらいは終わらせておかないと。 土日やバレーボールの試合の日は仕事出来ないし。
カタカタ……
シュッシュ……
液タブにペンを走らせながら、軽くラフ画を描いていく。
「筆速いよね、神崎ちゃん」
「きゃはは。 とりあえず何か描いてみてイメージ湧かせるんです」
「なーほーね」
とりあえず今月中に下書きまで描いて、三面図作るわよん!
紗希も今の仕事に燃えるのだった。
「紗希よん。 先輩は凄いわねー。 私の目標増えたわ」
「プロの仕事はカッコイイよねぇ」




