第2017話 出だしは上々
反則呼ばわりの亜美達だが気にせずプレー続行。
☆亜美視点☆
Vリーグ開幕戦の京都ハンナリズ戦。 セットカウント1-1で迎える3セット目に出ている私、奈々ちゃん、奈央ちゃんの3人だが、相手チームから「反則だー!」との抗議の声が。 ちなみに、ルールとしては何も問題無いので、反則ではないよ。
「ほほ日本代表とフランス代表の混成チームじゃないですかぁ」
「貴女も日本代表でしょう?」
「うぐっ」
神園さんは「どうやって勝てば良いんだろう……」と、頭を抱える。 ハンナリズのエースが早くも折れかけているよ。
「さて。また私のサーブだねぇ。 よし、Sの花田さんを狙ってみるよ」
狙いをSに定めてサーブを打つ。 正Sがトスを上げられない時、一体どんな動きを見せてくるチームなのかを見ておきたい。
パァンッ!
よし、予定通り花田さんに拾わせたよ。 花田さんはしっかりSのセットポジションにボールを上げている。 あれ? 牧田さんより上手なのでは?
「やりますな!」
「んで、セットアップしてるのは……MBの綾野さんか」
MBがトスを上げる事により、OH3名はとりあえず攻撃に参加出来る。 Lさんが居ない時でも特に状況が変わらないので、結構理に適った形だね。
「神園さんにトスね」
「はいはい」
「止めマスヨ!」
和香さんとマリエルさんがブロックへ。 相変わらず奈々ちゃんはクイックに対してコミットブロックに跳ぶだけ。
パァンッ!
「くっ!?」
神園さん、ここは冷静に和香さんのブロックが甘いと見て狙い打ってきた。 ストレートを警戒していなかった私も甘い。
「ちょわいー!」
「ま、牧田さん?! 無茶だよ?!」
先読みしていた牧田さんは辛うじて反応しており、ボールに向かって跳び込んだが……。
「届かんー!」
ピッ!
「あ、当たり前でしょ……」
「無茶するとケガしちゃうよ?」
倒れ込んでいる牧田さんに手を差し伸べて起こす。 見たところケガとかはしてなさそうだ。
「次は拾ーう!」
「本当に麻美みたいね……」
「あはは……」
色々と問題のあるプレーヤーのようである。
◆◇◆◇◆◇
3セット目は、私、奈々ちゃん、奈央ちゃんの3人の力に物を言わせて、ハンナリズを圧倒。 牧田さんのレシーブをフォローしつつも、14-25でセットを取る。
「ご苦労さん。 次のセットは1セット目と同じメンバーで行く。 佐伯君はフルだが頑張ってくれぃ」
「まあ、エースだしやりますよ」
「私達はお役御免かぁ」
「ま、ここは別に良いじゃないですの」
「本番は11月1日の東京クリムフェニックス戦よ」
「そういう事だ。 宮下も復帰しとるし、間違いなく強いぞ」
「ですねぇ」
弥生ちゃんとキャミィさんなんて、わざわざこの試合の偵察にまで来てるぐらいだし。
「おう、お疲れさんやなぁ」
そんな事を考えていると、またまた頭上からよく知った声が聞こえてくる。
「弥生ちゃん……」
「だはは。 まあ、あんさんらのプレーに関しては日本代表チームで嫌になるくらい見たし、今更新発見もあらへんよ。 ただ、今後の事を考えたら他の選手の偵察はしっかりやっとかなあかんわな。 あの牧田いうやかましいのん。 あれ、大丈夫なんか?」
と、牧田さんの心配をしているようである。 いくらなんでもレシーブミスが多過ぎるという指摘らしい。 それに関しては私も同意だけど、そこは伸び代だと返答しておいた。
「伸び代。 まあそやな。 見た感じ麻美っちタイプみたいやし。 化ける可能性はあるわな」
「そういう事だよ」
4セット目が始まると、弥生ちゃんは「おっと、偵察や」と言いながら席へ戻って行った。
「偵察偵察って、弥生ってそんなマメな奴だったかしら?」
「割と大雑把な性格だよ」
「そうよね?」
「それだけアルテミスを警戒してるんですわよー」
多分そうなんだろうねぇ。 弥生ちゃんは勝負事に関しては決して相手を舐めてかからない人だ。 特に警戒すべき相手には。 アルテミスは、弥生ちゃんの強敵センサーに捕捉されたと言ったところだろう。
◆◇◆◇◆◇
4セット目はLがクロエさんに戻り、攻守共に安定感が戻ってきた。 Lが変わるとこんなに変わるんだなぁと、見ていてそう思った。
「高嶺さんも代表で通用しそうな感じだし、このメンバーが当面の安定メンバーかしら?」
「まあ、Sは眞鍋君の方がまだ上だがな」
「ほほほ。 いやどすなぁ。 そない褒めても何もあらしまへんで」
「別に何も欲しくないが……」
監督さんは眞鍋さんに弄ばれているようだ。 相変わらず監督としての威厳はあまり無い。 試合の方は安定しているとは言え、ハンナリズとの差はそこまで開かない展開。 お互い、サービスエースやブレイクもあり、激しい試合だ。 進捗はかなり早く、既に2回目のテクニカルタイムアウトも終えている。 スコアは18-16と、僅かにアルテミスがリード。 このまま逃げ切りたいところだ。
「天堂さん任せた!」
「はいっ!」
パァンッ!
「おお、また決めた」
「アルテミスのアタッカー陣は間違いなく強いですわよ。 まあ、クリムフェニックスさんに比べると落ちるでしょうが」
「あっちは日本代表のエース級が2人と、アメリカ代表のエースがいるからねぇ」
「比較にならないわね……」
試合はどんどん進み、何とかリードを保ったままマッチポイントも決めたアルテミスが、一部リーグ初戦を勝利した。 出だしは上々だねぇ!
「初白星ですわね」
「上出来ですな! がはは!」
「おほほほ!」
監督とオーナーの奈央ちゃんはベンチに座りながら高笑いするのだった。
◆◇◆◇◆◇
試合後は恒例の夕食タイムとなる。 当然西條グループの高級焼肉だよ。 初白星という事で祝勝会も兼ねている。
「ハムハム!」
「ングング!」
「あ、あんまり慌てて食べると喉詰まるよ?」
マリエルさんとクロエさんは、目の色を変えて食べている。 他の皆も、普段は食べられないような高級肉を堪能しているようだ。
「課題もあるにはありますけど、とりあえず一部リーグでも上位チームのハンナリズと戦えるという事がわかって良かったですわね」
「そうね。 まだ上には上がいるんだろうけど」
「東京クリムフェニックス、大阪ホワイトフォックス、福岡ブルーコンドルズ。 ここが一部リーグ三強だよ」
「そこら辺に安定して勝つのは容易じゃ無いぞぉ」
「ですわね」
「のわはは! 私にお任せあれー!」
「牧田はん。 今日見つかった課題で一番の問題はあんさんどすえ……」
「何と?!」
どうやら自分ではわかっていないらしい。 こんなところも麻美ちゃんにそっくりなようだ。 帰ったら希望ちゃんに話をしておかないとねぇ。 忙しいけど、コーチング受けてくれるかな?
とりあえず一勝。 出だしは上々だ。
「亜美だよ。 後は牧田さんだね」
「はぅ。 そんなにひどいのぅ?」




