第2016話 反則
2セット目はLを変えてスタート。 が、どうも牧田のレシーブは安定感が無いようだ。
☆亜美視点☆
西條アルテミスと京都ハンナリズの試合は2セット目に入った。 Lをクロエさんから牧田さんに替えての2セット目最初のプレーは姫神さんのサーブから始まり、神園さんのスパイクを牧田さんがレシーブ。 Cパスとなったが上手く和香さんがフォローしてトスを上げ、高嶺さんがブレイクを決めた。
和香さんも色々なプレーが出来る万能タイプだねぇ。
「のわはは。 下手くそですいません」
「拾っただけよし!」
「あざすっ」
どうやら牧田さんは自分のレシーブミスを謝っているようだ。 まあ、あれは伸び代だと思う。
試合は姫神さんのサーブで再開。
「ふうむ。 希望ちゃん、どれぐらいの頻度で練習に参加出来るだろう?」
「基本的には週末にしか来れないでしょ?」
「うん、そうだね。 何とか牧田さんにレシーブの技術を伝授してほしいんだけど」
「亜美ちゃんが教えれば良いんじゃないですの?」
「いやいや。 Lのイロハならやっぱり希望ちゃんだよ」
「亜美ちゃんも十分技術あると思うけど……」
専門的な事は専門家にお任せするよ。 その方が確実だからね。
「ちょえーい!」
パァンッ!
ピッ!
「惜しい。 神園さんに上手く守備範囲外に打たれたねぇ」
「さすが神園さんってとこかしら」
即座に牧田さんの先読みを含めた守備範囲の限界を見極め、そこにしっかりと打ち込める技術。 彼女ももうトップ層だねぇ。 それに負けじと天堂さんもパワーのあるスパイクで応戦。 やっぱりライバルが居るっていうのは素晴らしい。 負けたくないという気持ちが成長に繋がるからね。
「天堂さんも頑張れー!」
「私も居るんだけど?!」
「わ、和香さんも頑張れー!」
和香さんにもライバルって居たりするんだろうか? プロになってから目覚ましい成長をしているから、競う相手が居たりするのかもしれない。
「マリエルはんは安定しとるな」
「うん。 MBだけど、レシーブも出来るしトスも上げられる。 彼女も優秀だねぇ」
Lをクロエさんから牧田さんに替えた事で、レシーブの精度が少し下がりはしたが、そこを和香さんやマリエルさんが上手くカバーしている。 良いチームワークだ。
「牧田はんがレシーブミスするんはもう織り込み済みなんどすわ」
「えぇ……」
割と以前からあんな感じらしい。 きっと何か基本的なとこを間違えているのではないだろうか?
「どわぁっ!」
「ちょやさー!」
「キエェーイ!」
「何か麻美よりうるさくない?」
「そ、そうだねぇ」
奇声を上げながらプレーする牧田さんであった。
◆◇◆◇◆◇
2セット目もセットポイントまでやってきた。 まあ、セットポイントなのはハンナリズの方なんだけど。
パァンッ!
「あちゃー。 セット落としちゃったねぇ」
「やはり牧田はまだ安定しないかぁ。 次セットはどうするか」
「次は私達が出るし、牧田さん続行でも大丈夫ですわよ」
「あぁ、そうかぁ」
「皆さんすいません! レシーブミス多過ぎてぇ!」
「今に始まったことなあらしまへん。 ただもう少し何とかなりまへんか?」
「精進します!」
元気とやる気は凄いんだよね。 守備範囲の広さも結構なものだし、もう少しで凄いLになれると思うけど。
「次のセットは気にせずにプレーしてちょうだい。 私と亜美ちゃんがフォローしますわ」
「オーナー! 任せてください! やりますぞー!」
「はぁ……」
「や、やる気満々だねぇ」
「天堂さん、高嶺さんはとりあえずベンチで休んでなさい。 チョチョイとセット取ってくるわ」
「あはは。 じゃあちょっと行ってくるよ」
「おう。 最強月ノ木OGの力を見せてやれぃ」
「はーい」
緩く返事をしてコートへ入る。 コートに入ると、ハンナリズサイドの神園さんが顔を引き攣らせながら……。
「み、皆さんが出てくるのは反則なのでは……?」
と、少し困ったように言った。
「反則と言われても、私達も西條アルテミスのメンバーだもの。 そりゃ出てくるわよ」
「そ、そんなぁ」
「おほほ」
奈々ちゃんの言う通り、反則と言われてもアルテミスの選手であるからには、出ろと言われたら出なければならないのである。
「ねぇ藍沢さん」
「ん?」
「何で藍沢さんがオポジットなの?」
監督が出したラインナップシートには奈々ちゃんがオポジットの位置になるように書かれていた。 その理由は……。
「奈々ちゃんはレシーブもブロックもイマイチだからね。 攻撃に専念出来るオポジットの方が良いって事だね」
「ふふん。 ま、そゆことよ」
「何で威張ってんのよ……」
という事で
藍沢 マリエル 私
佐伯 牧田 西條
の布陣で3セット目をスタート。 ハンナリズサーブで開始だ。
パァンッ!
「拾うっすー!」
牧田さんがいち早く反応して動き出している。 やはり動き出しが早い。 麻美ちゃんの「嗅覚」と似たような物を持っていそうである。
パァンッ!
「うへーっ! すいませんー!」
「大丈夫ですわよーっ!」
牧田さんのレシーブは何故か大きくズレて飛んでいく。 さっきチラッと見えたけど、かなり腕の先の方でレシーブしていたように見える。 もしかしたらそれがレシーブの安定しない原因かも?
さて、奈央ちゃんお得意のロケットスタートでボールを追いかけていく。
「凄っ!?」
「奈々美行くわよ!」
「はいはい!」
奈央ちゃんがボールに追いつき、奈々ちゃんに向かってトスを上げる。 さすがに二段トスとなり奈々ちゃんには3人のブロックがついてくるが。
「はぁっ!」
パァンッ!
「くっ?!」
「化け物っ!?」
奈々ちゃんのスパイクは、3枚のブロックをあっさりと貫いた。
「や、やっぱり反則だ……」
「ふぅ、気持ちいいわ」
奈々ちゃんのパワースパイクを目の当たりにしたハンナリズの皆は、あまりの威力に身を震わせている。 まあ、奈々ちゃんのスパイクってば、男子レベルになりつつあるからねぇ。 おっと、私のサーブだよ。
「よぉし。 いくよぉ! てやや!」
パァンッ!
私は特に何も変わった事はせずに、普通にサーブを打ったよ。
パァンッ!
「おお、さすがに拾うよね」
「ブロックこっちデス!」
マリエルさんに呼ばれて和香さんがブロックへ。 奈々ちゃんも一応コミットブロックに跳んでいるよ。
パァンッ!
立石さんがブロックを躱してクロスにスパイクを打ってくる。 これは私の守備範囲!
「てやっ!」
パァンッ!
「おお! すげーっす!」
「完璧なレシーブですわね。 さすが亜美ちゃん。 和香さん、いきますわよ!」
「あいよ!」
今度は和香さんにトスが上がる。 奈々ちゃんに比べると少し劣るが、それでもアルテミスのエース。
「はっ!」
パァンッ!
しっかりと決めていく。 ワールドカップでも活躍した和香さんなら、これくらいは余裕だね。
0-2スタートだね。 神園さんは「反則……」と、虚な目で呟いていた。
亜美達がコート日本出ると、「反則だー」と文句を言われるのだった。
「遥だ。 ははは! まあ、亜美ちゃん達は日本代表の中でも最強クラスだからな」
「そ、そんなことないよ」




