第1993話 立ち回りの変化
3セット目。 気合いが入る奈々美。
☆奈々美視点☆
ワールドカップバレー決勝。 フランスとの試合はセットカウント2-0とリードして3セット目を迎える。 ここまで前田さんの作戦のおかげなのか、順調に来たわけだけど、ここに至るまで私の出番ってあまり無かったのよね。 元々、日本代表のOHは群雄割拠。 そんな中、宮下さんと紗希が個人タイトルを狙える位置にいた事もあり、決勝トーナメント後半はスタメン固定になっていた為、私の出番はスポット起用やピンチサーバーに止まっていたってとこね。 ようやく暴れられるわよ。
「ふんー! ふんー!」
「うわわ。 奈々ちゃん気合い入ってるねぇ。 でもここは『ウホー! ウホー!』じゃないの?」
「誰がゴリラよ……」
「なはは」
私のスターティングポジションは5番。 レフト後衛の位置ね。 まあ、エースアタッカーでオポジットの宮下さんが固定でいるから私はここしかないわね。
にしても、さっきのセットでは紗希もゾーンに入ったり、前の試合ではマリアまでゾーンに入ったりしちゃって。 私はまだ経験したこと無いんだけど。 私だって一応一流アスリートのつもりなんだけどね。
ピーッ!
試合開始の合図。 サーブは日本代表の奈央から。 奈央は遠慮無しにネオドライブサーブを打ち込むつもりみたいね。
「そそそぉいっ!」
パァンッ!
相変わらずとんでもないサーブね。 ネットを越えたところであり得ない軌道で落ちる。 そのまま前衛選手の足元に落としていく。 しかも、レシーブがあまり得意ではないらしいジャンヌの足元へ。
「っ!」
パァンッ!
「うわわ。 上げたよ」
「まさか、もう慣れたのかー?!」
「やりますわね!」
前田さん曰く、身体能力は化け物クラスらしいものね。 連発してれば慣れられても仕方ないかもしれないわ。
「返ってくるよぅ!」
「むむー! 誰が打ってくるかー……むっ! セリアさんのツーだー!」
「うわわ! 間に合わないよ!」
麻美が先読みした時には既にセリアさんがこちら側にボールを押し込んでいた。
ピッ!
「や、やられたねぇ」
「なはは」
「やはり、フランス代表にも優秀な頭脳がいるのかもしれませんわね」
「まあ、前田さん程じゃないでしょ」
「そうだと良いけど」
この3セット目、開幕から動きを変えてきたフランス代表。 麻美の先読みの虚を突くツーアタックを見せてきたが、それを見せた以上麻美にはもう通用しないわよ。 この後どうすんのかしら?
「セリアさんサーブだよ。 希望ちゃん任せるよ」
「ぅん」
サーブレシーブなら希望にお任せ。 私達アタッカーは攻撃に専念よ。
パァンッ!
「むむ」
「はぅ」
「あら」
と、皆して声を上げる。 セリアさんのサーブは奈央に向かって一直線に飛んでいく。
「やっぱりそう来るわよね」
奈央はそう口にしながらサーブレシーブを行う。 こうなると、私達日本代表は同時高速連携や時間差高速連携を使えなくなってしまうわ。
「私がトス上げるよ」
こうやって奈央が封じられた場合、セカンドセッターとして動くのはオールラウンダーの亜美。 トスはたしかに上手いけど、奈央みたいにドンピシャの高速平行トスは上げられない。
「じゃあ奈々ちゃん! よろしく!」
「よし来た!」
私に上がったトスに向かい、思い切り跳びついてスパイクへ。 ブロックにはマリエルさんとジャンヌさん。 ジャンヌさんはやっぱり高いわね。 狙うならマリエルさんの方!
「ふんっ!」
パァンッ!
「ヒィッ?!」
マリエルさんが何か引き攣ったような顔をした気もするけど、何とか1本決めてやったわ。 スカッとするわね!
「やっぱりゴリラだよ……」
「試合終わったら覚えてなさいよ」
「うわわ……」
1-1となりはしたが、フランス代表の立ち回りが今までと明らかに変わったようね。 こちらのデータは取れたってとこかしら? でも、遅過ぎるわね。 やっぱり前田さんの方が優秀なんだわ。
「よぉし。 私もサーブ頑張るぞぉ」
亜美は気の抜けるような声を出しながらサーブの準備に入る。 もうちょっと気合い入れなさいよね。
「てやや!」
パァンッ!
気の抜けた掛け声も相変わらず、サーブはフランスサイドへ飛んでいく。 軌道はフランス代表のセリアさん狙いね。 どうやらさっきのお返しみたいだわ。
パァンッ!
「よしよし、セリアさんに拾わせたよ」
セリアさんがトスを上げられない時、フランス代表はどうするのか……。
「Lのクロエさんがトスを上げそうだよ!」
「そこか」
「むぅ! でもアリスさんもセットポジションについてるぞー!」
「うわわ、本当だよ!」
ボールに向かって走りながら横っ跳びを始めるクロエさんと、既にセットポジションで構えるアリスさん。 連携ミスかしら? って、このままじゃクロエさんとアリスさんが衝突してケガするわよ?!
「あぶ……」
危ないと叫びかけた瞬間、アリスさんはその場から後ろに跳び退いて紙一重でクロエさんを避けた。
「のわわ! ジャンヌさんにトス上がるー!」
「またやられた!」
パァンッ!
私達が動揺している間に、クロエさんからジャンヌさんへトスが上がり、スパイクを決められてしまった。 1-2とされ、3セット目はフランスに良いように動かされているように感じる。
「まあ気にせずいきましょう。 そう何度も通用する奇策ではありませんわ。 こっちには絶対無敵の切り札もいる事だし」
と、亜美の方を見て軽くウインクして見せる奈央。 絶対無敵の切り札……まあ、それもそうね。 この子も弥生と同じで、ゾーンの更に先まで進化してるって話だし、本気になればそりゃ多分無敵でしょうよ。
「あはは。 ゾーンのその先に入ると、いつもより更に疲労度が溜まるのが早くなるけどねぇ。 多分使えて後半だよ」
「それまでは何とかしろってことね」
「1セット目も2セット目も、月島先輩と神崎先輩がゾーンに入ったからリードを広げられたー」
「うわはは。 まあ、何とかなるっしょ」
まあ、何とかするしかないんだけど。
サーブはフランス代表ジャンヌさん。 彼女のパワーに関しては、ベンチから見て十分にわかっている。 たしかに凄いパワーだけど、私には敵わないわね。
パァンッ!
「また私狙いですのね……」
ここでも奈央を狙ったサーブを見せるフランス代表。 よほど高速連携が嫌と見える。 だけど、コントロールを重視した分威力は落ちている。 これなら、基礎能力の高い奈央なら楽勝で拾えるわね。
「そぉい!」
おお、完璧なレシーブじゃない。 やるわね奈央。 んで、例によってトスは亜美が……って、あっ?! 希望もセットポジションに向かって走ってるじゃない! これじゃ亜美と希望がぶつかるわよ!
「あぶ……」
危ないと叫びかけた瞬間、今度は亜美が後ろに跳び退いて希望を避ける。 ま、まさかさっきのフランス代表のお返し?! しかも、亜美はわざわざアタックラインの外に出てちゃんとバックアタックにしてるし。
「亜美ちゃん!」
「てやや!」
希望はその状態の亜美にトスを上げて、亜美もそのトスをスパイクして見せた。 こ、この2人はまた怖い事をするわね……。
とりあえず2-2で流れは渡さない。 このまま後半まで行きたいところね。
フランス代表の立ち回りに変化が?
「奈々美よ。 中々面倒ね」
「頭脳戦かな?」




