第1988話 得点王に
得点王を目指す紗希だが、マリエルに張り付かれて中々スパイク出来ない様子。
☆紗希視点☆
ワールドカップバレー決勝戦の第2セット。 1-5とリードで序盤を進めているわ。 個人タイトルの得点王部門も十分射程距離。 ここに来て私は調子も絶好調よん。
「ここきっちり切っていきますわよー」
「おー!」
フランス代表のジャンヌさんサーブよ。 パワーやその他の身体能力は確かに凄いけど、肝心のバレーボールはまあそれなりって感じ。
パァンッ!
「希望ちゃん!」
「ぅん!」
日本最強Lの希望ちゃんにかかれば、ただ威力があるだけのサーブぐらいは余裕で拾うわ。
パァンッ!
「ナイスー!」
さあ、そろそろ私にもトスが欲しいんだけど、ここで奈央が選択したのは亜美ちゃん。 その亜美ちゃんに対してはエミリーさんがブロックにつくが、高さで圧倒している亜美ちゃんがすんなりとスパイクを決めて1-6。
「ナイスナイス! ってか奈央ー! 私にもトス頂戴よー!」
「あんたにはマリエルさんが張り付いてるから上げにくいのよ」
「マリエルさんが何よー! 私ならドォンッと決めるわよ!」
「確率の問題よ」
ローテしながら奈央と問答を繰り返す。 あと9点取らないと、得点王になれないのに。 奈央は私の個人タイトルなんてどうでも良いのかしら。 何か腹立ってきたわ。
「よーし、いくよー」
と、亜美ちゃんのイマイチ気合いが入っていない掛け声でプレー再開。 ピンポイントサーブでジャンヌさんの守備範囲ギリギリを突いていく。 相変わらず針の穴を通すようなコントロールだわ。 ジャンヌさんは冷静にボールを追ってレシーブ。 が、やはりまだまだ技術が稚拙。 少しズレでBパスに。
「ブロックー! 神崎先輩、アリスさんだぞー」
「りょ!」
麻美の先読みでアリスさんにブロックをつける。 フランスのセリアさんは、麻美の先読みに対応してトス先を変えるという行動が上手く取れないらしいわ。 まあ、麻美の指示のタイミングが上手いんだろうけど。
「ちょいさー!」
「うぇーい!」
麻美の真似をしてブロックに跳ぶ。 アリスさんはハナから麻美との勝負を避けるつもりみたいね。 私も舐められたものだわ。
パァンッ!
「きゃはー。 やられたー」
まあ、アリスさんの方が一枚上手なんだけどね。 これで2-6。 マリエルさんが後衛に下がり、ブロックの層が薄くなる、 これなら奈央も私に上げられるっしょ。 得点王……得点王……。
キーン……
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
アリスさんポイントを取られて2-6となった。 フランス代表がローテーションしている最中にそれは起きた。
「えっ?」
「あら……」
「なはは?」
「はぅっ」
「うわはは!」
コート内に強いプレッシャーを放つ選手が1名。 何と、紗希ちゃんが急に超集中状態であるゾーンに入ったようだ。 さっきまで奈央ちゃんと言い合いをしていて、集中しているような様子は無かった筈だけど……。
「どうなってるのよ……これは想定外ですわよ」
と、奈央ちゃん。 紗希ちゃんがゾーンに入るのはこれが初めて。 多分、前田さんの作戦にも組み込まれてはいないだろう。 これはどうしたものか。
「と、とりあえずプレーに集中ですわよ」
フランスのマリエルさんのサーブだ。 フランスサイドも紗希ちゃんが放つ異様なプレッシャーには気付いているはず。 1セット目で弥生ちゃんのアレを見せられた後だし、警戒しているだろう。
パァンッ!
「拾うよぅ」
当然のようにサーブコースの真っ正面に移動して来ては、レシーブに構える希望ちゃん。 一体どんな目をしていたら、そんなに早くコースを見切れるんだろうねぇ。
希望ちゃんが難なくレシーブを決めると、私達アタッカーは同時に助走を開始する。 奈央ちゃんは何やら楽しそうにニコニコしながらセットアップしているよ。 ゾーンに入った紗希ちゃんのプレーが楽しみなんだろうか?
「紗希! お望みのトスよ!」
奈央ちゃんからの鋭いトスが紗希ちゃん目掛けて飛んでいく。 ブロックにライラさんが来ているが、紗希ちゃんは意に介さずお得意の真下打ちを打ち込んでいく。 しかし、ライラさんはそれを読んでいたのか右足を横に出し、紗希ちゃんのスパイクを足で拾いにいく。 アメリカ代表のミアさんが見せていたプレーと同じプレーだ。 紗希ちゃんのスパイクはライラさんの右足に当たり、ダイレクトに日本コートへ戻ってくる。 か、返された?!
ドンッ!
「うわわ?! 紗希ちゃん速い!」
まるで返されるのがわかっていたかのように、着地後に再度助走をしてジャンプする紗希ちゃん。 さっきよりも高い!
「っ!」
パァンッ!
またまた真下打ちでフランスコートにアタックする紗希ちゃん。 フランス側はブロックが間に合わず、紗希ちゃんのスパイクをただ見送る。 フランスコートに着弾したボールは、何故かイレギュラーバウンドをお越しで左方向へ飛んでいった。
ピッ!
「おー……ナイス」
「何が良くわかんなかったんだけど」
と、宮下さん。 実は私も良くわからなかった。 まず最初にライラさんに返されるのがわかっていたようなあの再アタックへの移行の早さ。 最後のイレギュラーバウンドも謎だ。
「とりあえず2-7ですわ。 このまましばらくは紗希を中心に攻めますわよー」
「うん」
紗希ちゃんはまだ、ゾーン状態をオンオフ出来るほど使いこなせてはいないはず。 多分、このままガス欠になるまでプレーを続けるだろう。 今の内に紗希ちゃんにはポイントを稼いでもらおう。 個人タイトルもかかってるからね。
その直後のプレーで、紗希ちゃんはアリスさんのスパイクにを見事に打ち落とす好プレーを見せた。 ブレイクして2-8と大きなリードを作りテクニカルタイムアウトに入る。
「お疲れ様です。 あの、神崎さんの様子は?」
「完全にゾーンに入っちゃってるよ。 さっきから小声で『得点王……得点王……』って呟いてる」
得点王になる事に集中していたからゾーンに入っちゃったっぽい。 中々に変わったトリガーである。
「想定外ですがこのまま行きましょう。 神崎さんでいけるとこまで」
「そのつもりですわ」
「奈々美さん。 3セット目は頭から出てもらいます」
「了解」
紗希ちゃんはこのセットでガス欠するだろうからね。 次のセットは別の選手を出すしかない。
「それにしてもさっきの紗希ちゃんのスパイク。 あれは良くわからなかったね」
「はぅ。 回転だよぅ」
「回転?」
「1回目はボールにバックスピンかけて打って、ライラさんに拾われた時に紗希ちゃんの前に戻ってくるようにしてあったんだよ。 決まれば決まるで問題無し」
「つまり、保険をかけてたと……じゃあ2回目のは」
「横回転だったよぅ」
何ともまあ器用な事。 スパイク打つのに回転をかける選手なんてまずいないと思うんだけど。 ただ、強烈な回転がかかっていると、レシーブミスを誘いやすくなる効果はあるのかもしれない。 ゾーンに入った紗希ちゃんのプレーは、何をするかまったく読めない不思議なプレーだよ。
紗希が遂にゾーンに。 不思議なプレーを見せているが?
「紗希よん! 何かね、デザインが思い浮かぶのよね」
「デ、デザイン?」




