第1986話 2セット目の戦略
1セット目を取った日本代表。
☆亜美視点☆
ワールドカップバレー決勝戦の第1セットが終了したよ。 25-15という大差をつけて日本代表が先取したが、その代償として弥生ちゃんがこの試合で使い物にならないぐらいに消耗してしまったようである。 コートからベンチに戻って来るにも、紗希ちゃんと宮下さんの肩を借りないと移動出来ない程である。
「……っ」
「おりょりょ。 大丈夫ー?」
「見てわかるやろ……大丈夫ちゃうわ」
「うわはは。 よく頑張った!」
弥生ちゃんはベンチに座るのもきついようで、床にタオルを敷いて横になっている。 最後に見せたあの怖い程のプレッシャーを放ち、限界以上に動き回った事で完全に体力を使い切ったようである。
「月島さん、お疲れ様でした。 おかげジャンヌさんとエミリーさんのデータが揃いました」
「うんうん。 お疲れ様だよ」
「だはは……ちゃんと有効活用したってや?」
「もちろんです」
さてさて! データも揃ったところで2セット目私の出番だよ。 前田さんと短い時間で作戦の擦り合わせをしていくよ。
「ジャンヌさんは高さ、パワーが共にずば抜けていますが、瞬発力など敏捷性の方はそこまででは無いようです。 エミリーさんは逆に、敏捷性や柔軟性に優れたプレーヤーで、どんな体勢からでも自在に動けるぐらい運動能力が高いですね。 ただし、やはり2人ともバレーボールの経験値は浅く、プレーには粗が多いです。 そこを上手く突いていけば崩せるはずです」
「らじゃだよ」
「西條さん、清水さん、それと、ピンチサーバーで途中に入ってもらう予定の藍沢さんには、サーブでジャンヌさんかエミリーさんを執拗に攻めてください。
皆さんの強烈なサーブなら、レシーブを乱せる可能性が高いです」
「らじゃだよ」
「守備では麻美さんと雪村さんは常に連携して下さい。 麻美さんが嗅覚で先読みした情報を即座に雪村さんにサインで伝達です」
「任せろー」
「わかったよぅ」
「攻撃は常に同時高速か時間差高速で仕掛ける事。 神崎さん、宮下さん、清水さんでバンバン攻めていきます」
「わかりましたわよー」
「清水さん。 このセットはまだゾーンは温存で。 2セット目を取れたら3セット目でいきます」
「うん」
作戦会議は以上である。 大まかに言うと、攻める時はジャンヌさんやエミリーさんの技術の稚拙な部分を攻めていけという事らしい。 ジャンヌさんもエミリーさんも、攻撃に特化している感じなので、守りはそこまでじゃないとの話だ。
さて、ここで個人タイトルのベストアタッカー部門、得点王部門の方がどうなっているか確認するよ。
まずはベストアタッカー部門。 純粋なアタックによる得点だけで争う部門はキャミィさんが155点でトップだが、6点差の149点に宮下さんが迫っているよ。 得点王部門はアタックの他に、ブロックポイントやサービスエースでの得点を加算して争われる部門だ。 トップはミアさんの165点であるが、紗希ちゃんが157点で8点差まで来ており、両名とも射程に入ってきている。 頑張ってほしいね。
「さあ、じゃあそろそろだねぇ」
「暴れますわよ」
「はぅ!」
2セット目からの出番である私達もやる気十分。 やるよー!
◆◇◆◇◆◇
コートに入ると、ジャンヌさんが声を掛けてきた。 フランス語もバッチリな私は、スムーズに会話ん交わすよ。
「アミ。 待っていた。 だが、さっきの凄い選手はどうした? あそこで倒れているが?」
「弥生ちゃんはさっきのセットで全部出し切っちゃって、今日はもうプレー出来そうにないよ。 代わりに私がお相手するよ」
「そうか。 残念だが、アミとの勝負は楽しみにしていた」
「私もだよ」
と、こんな感じである。 どうやらさっきのセットで弥生ちゃんにやられっぱなしだったのが悔しいらしい。 まあ、最後は一方的だったからねぇ。 あの状態の弥生ちゃんには、私も手も足も出ないだろう。
「始まりますわよ」
「うん。 とりあえず作戦通り行くよ」
「おー!」
第2セット目開始の笛が鳴り、フランス代表のサーブで試合が開始。 サーバーはセリアさんだ。
パァンッ!
セリアさんのドライブサーブ。 ここは希望ちゃんにお任せするよ。 奈央ちゃんなんかは既にセットポジションについている。 希望ちゃんを信用している証拠だ。
「よっとぅ」
パァンッ!
さすがに余裕の希望ちゃん。 奈央ちゃんの頭上にピッタリと返していく。 私達アタッカーは前田さんの指示通りに動く。 まずは同時高速連携だ。 攻撃可能な4人全員が同じタイミングで空中に舞う。 奈央ちゃんは瞬時に相手はブロックの位置を把握して、ブロックのいない麻美ちゃんにトスを出した。
「ちょいっさー!」
パァンッ!
ピッ!
「よし、まず一本!」
「なははー!」
「ナイス麻美ちゃん」
それにしても、ジャンヌさんは他には目もくれずに私のブロックに来たね。 まあ、高さ的にも私に対抗出来るのはジャンヌさんぐらいだし、理には適っているが。
「ジャンヌさんが亜美ちゃんに釘付けになるなら楽ですわね」
「だね。 だけど、何処かで私にもトス頂戴ねぇ。 ジャンヌさんと勝負したいのは私もだからね」
「……はいはい」
奈央ちゃんは苦笑いしながらローテーションを開始。 サーブポジションに移動していく。 さて、奈央ちゃんのサーブといえば、ネオドライブサーブや、その派生サーブ等のサービスエースが狙える強力なサーブ。 今回もかなり助走距離を取っている。
「いきますわよー! はっ!」
パァンッ!
いきなりのネオドライブサーブ。 狙いは前田さんの指示通り、まだ技術が稚拙なジャンヌさんだ。 完璧にジャンヌさんを狙ったサーブだが、ジャンヌさんは少し構えが硬い。 まだ慣れていないところにあのサーブは厳しいかな?
パァンッ!
「くっ?!」
やはりレシーブミスをしてしまうジャンヌさん。 思いの外手前に着弾するボールに対して、腰が引けて腕だけで拾おうとした結果、ボールを手の甲で捉えてしまったようだ。
ピッ!
「ナイス奈央!」
「おほほほ。 サービスエースを取るなんて朝飯前ですわ」
「それは凄いー」
「普通じゃないわ」
奈央ちゃんのネオドライブサーブが強力過ぎるというのが本当のところだろう。 慣れない内は、あの急降下するボールの軌道を読めないからね。
「さあ、もう一本ですわ」
最初から全開の奈央ちゃんは、更にサーブの準備に入る。 今度もまた、最大限の助走距離を確保しているよ。
「いきますわよ! シックルサーブ!」
出たよ! 奈央ちゃんのネオドライブ派生! 鎌のように鋭く横方向に曲がるシックルサーブだ。 今回はエミリーさんに狙いを定めている。 ネットを越えて少しすると、とんでもない軌道で横に変化するボール。 慌てて構えるエミリーさんだが……。
パァンッ!
これもレシーブミス。 またまたサービスエースになり一気に0-3とする? 前田さんの作戦がいきなりハマっているよ?
2セット目が始まりまずは好スタート。
「奈央ですわよ。 おほほ。 このまま優勝ですわよー」
「気が早いよ……」




