第1962話 意外な活躍
何とか2セット目を取った日本代表。 麻美はすぐに医師の診断を受けに行くようだ。
☆亜美視点☆
第2セット終盤に来て麻美ちゃんが転倒し、頭を打つというアクシデントが発生。 何とかコートに戻ってプレーを続行しているが、あまり激しい動きはしないようにしているようだ。 そんな中でも周りの皆が奮闘し……。
ピッ!
「よし、よくやったぞ!」
ギリギリのところでアメリカ代表の猛追を振り切り2セット目を取った。 これでセットカウントは2ー0でリーチである。
「麻美、こっちへ」
「なはー?」
ベンチに戻って来た麻美ちゃんを、奈緒ちゃんが手招きで呼ぶ。 さっき外に出て何かしていたようだけど?
「レントゲン車とMRI車を呼んでありますわ。 すぐに診てもらいなさい」
「は、はいー」
という事で、麻美ちゃんは奈央ちゃんに連れられて一度離脱。 セット間のインターバルで戻って来るという事は無いだろう。 3セット目は麻美ちゃん抜きで堪えるしかない。
「監督」
「うむ。 3セット目はメンバーをガラッと変える」
「え? そうなの?」
「わ、私の個人タイトルは?!」
「み、宮下さんと神崎さんは引き続き出てもらうので安心してください」
「よし!」
しかし、ここに来てメンバーを変えるとは?
「これ自体は試合前から決めていたのです。 メンバーは宮下さん、神崎さん、佐伯和香さん、星野さん、眞鍋さん、雪村さん」
「わ、私ですか?!」
星野さんが声を上げて驚く。 このタイミングで自分がコートに立つとは思ってもいなかったようだ。 そんな星野さんに、弥生ちゃんが話しかける。
「あんさんかて立派な日本代表のMBやろ? いつでも出られるってぐらいの気持ちでおりなはれ」
「で、でも私は実力的にはまだ」
「そないな事言うたらあかんで。 あんさんは選ばれてここにおるんやで? ここに来れへんかった選手を全員バカにするんか?」
「うっ」
「大丈夫や。 2セット先取しとるねん。 麻美っちがおらへん今、頼れるんはあんさんと蒼井さんなんや」
「は、はい」
とりあえずは覚悟が決まったようだ。 それに比べると和香さんは堂々としたものだねぇ。 世界のトップクラスと相対する緊張とかも感じられない。
「で、このメンバーで3セット目を戦う理由って?」
「強いて言えばミアさん対策ですね。 黛妹さんの攻め方がそろそろアメリカ代表にバレて来たので、ここで新しいメンバーを入れて立ち回りを変えようと」
「このセットで終わらせて良いのん?」
「可能であればその方が良いです」
この感じだと、このセットはアメリカに取られる前提だと思っているようである。 前田さんは一体何を考えているのだろう?
「もう一つ。 佐伯和香さんがアメリカ代表にどれくらい通用するか見ておきたいので」
「ほう?」
「そんなの見てどうするの?」
と、和香さん本人が疑問を投げかける。 和香さんも日本代表のOHの中ではかなりの上澄みだ。 アメリカ代表とも渡り合える可能性はあるけど。
「もちろん、決勝戦で使えるかどうかの判断材料にします」
「ふぅん。 そういう事ならよく見ておくと良いわ」
決勝戦で出番があるかもしれないと知り、少しばかりやる気になったらしい和香さん。 3セット目は楽しいものが見られそうだ。
「よし、インターバル終了! いってらっしゃい!」
「おー!」
という事で、がらりとメンバーを変えた3セット目。 はてさてどうなるやら。
「前田さん。 あのメンバーでセット取れると踏んでるの?」
「3割ぐらい可能性はあると思います」
「何や、落とす前提かいな?」
「そういうわけではないですよ。 3割はこのセットで終わるんですから。 ただ一応フルセット戦う可能性を考慮した立ち回りをしているだけです」
前田さんの中にはある程度筋書きがあるようだ。 前田さんの作戦なら大丈夫だろう。 にしても、麻美ちゃん大丈夫かなぁ?
◆◇◆◇◆◇
☆麻美視点☆
「西條先輩、試合の方はー?」
「今3セット目が始まったところですわ。 スターティングを少し弄ったみたいね。 亜美ちゃん、黛妹が下がって佐伯和香さん、眞鍋さんが入ってるわ。 麻美の代わりは星野さんね」
「なははー。 星野さん頑張れー」
「貴女はさっさとレントゲンとMRI検査済ませる」
「はーい」
私は先程、試合中に転倒し後頭部を強く打った為、検査を受けに来ている。 西條先輩が近くにある西條グループの病院に要請し、会場までレントゲン車とMRI車を出してもらってくれていた。 先に軽く問診を受けた後、今は待機中である。
「外傷はたんこぶだけみたいね」
「はいー」
頭蓋骨等はレントゲンを見ないと何ともー。 そこまで痛くないし大丈夫そうー。 呂律も回るし意識もハッキリしてるし、平気だと思われー。
「どうぞ。 車内へどうぞ」
「はーい」
案内され、まずはレントゲン車へ。 頭部のレントゲンを色々な向きから撮影ー。 その後はすぐにMRIへー。 初めてMRI検査受けるー。 凄い機械だー!
◆◇◆◇◆◇
しばらくしてドクターに呼ばれ、西條先輩と一緒に車内へ戻る。 ドクターはレントゲン写真やMRIの画像を見ながら話を始める。
「頭蓋骨はヒビなども全く無く問題は無いでしょう。 MRIの方も脳に損失があったり内出血したりというようなところは特に見受けられません。 大丈夫だと思います。 が、あまり無理はしないようにしてください。 頭部の衝撃による症状は遅れて来る場合もありますから。 何か気になる事があればすぐに医師に診てもらうこと」
「試合には出ても大丈夫ですかー?」
「医師目線から言わせてもらえば、今日はもう出ないで安静にしていた方が良いかと」
「む、むぅ」
お墨付きは貰えずかー。 西條先輩も「仕方ないですわね」と頷く。 しかしー、私が出ないとジニーさんやミアさん、キャミィさんを止めるのが大変にー。
「とりあえず戻って報告しますわよ。 試合に出る出ないはまた後で」
「はいー! 先生ありがとうございましたー」
と、お礼をして車から出る。 ここまで移動するのに使った車椅子に乗り、急いでコートまで戻るぞー。
「先輩、試合の方はー?」
ラジオで試合の放送を聴いている西條先輩に、試合の経過を訊ねてみる。 すると……。
「凄いわよ。 4ー1でリードしてる」
「な、なぬー?!」
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
3セット目が始まって少し進んだわけだけど、今のところ日本代表がリードで進んでいる。
「な、何や凄いな」
「さすが雪村先輩です!」
その立役者の1人はLの希望ちゃん。 麻美ちゃんがいない分を、Lが完璧にカバーしている。 しかし、いくら希望ちゃんが凄くても攻撃が決まらなければ意味が無い。 そんな攻撃の立役者が何と。
「っ!」
パァンッ!
ピッ!
「また決めよったで」
「和香さんナイスー!」
佐伯和香さんだ。 あのオリヴィアさんやミアさん相手に、きっちりとポイントを取れているのだ。
「脳ある鷹は爪を隠すと言いますが、佐伯和香さんはとんでもない食わせ者でしたね」
前田さんはそう言うのだった。
佐伯和香の意外な活躍を見せているようだ。
「紗希よ。 あれは何なの? 何が起きてるのん?」
「す、凄いよねぇ。 上手く危険を避けているような?」




