第1945話 皆して
弥生にも何か隠し技が?
☆亜美視点☆
イタリア代表との一戦も第3セット。 流れは我々日本代表に傾いている。 麻美ちゃんがイタリア代表の攻撃に対応し始めたのと、奈央ちゃんの新サーブや紗希ちゃんの新スパイクを披露しまくっているからねぇ。 前田さんも出し惜しみしなくていいと言っているので、新技披露は構わないんだけど。
「はぁ。 しゃあない。 ウチはもうちょっと隠しておこ思ったんやけど、とりあえず1個だけ披露したるわ」
「1個だけって?」
「ウチも新サーブ2つ用意してあるんよ」
サーブポジションに立った弥生ちゃんは「ほないくで」と言いながらサーブを始めた。 果たしてどんなサーブなんだろう?
「おりゃ!」
パァンッ!
弥生ちゃんの放ったサーブは珍しい回転をしながらイタリアコートに飛んでいく。 あれはジャイロ回転? 回転数の制御が難しいらしいけど、弥生ちゃんのサーブは絶妙そうな回転だ。 ボールがフラフラと変化しているし、あのサーブはレシーブした時に回転軸が変わり、イレギュラーバウンドする事もあるのだとか?
パァンッ!
「おっしゃ! サービスエースゲットや! どないやウチのジャイロサーブ!」
「中々やるじゃない。 しかもまだもう一つあるんでしょ?」
「そやで。 そっちはまだ出さへんけどな」
「にしても良いジャイロサーブですわね。 サーブの球速もあって、絶妙な回転数。 フローター並に揺れてたし」
「かなり時間掛けて調整したさかいな。 まあ、さっきのは披露しただけや。 次は普通のドライブ打つで」
と、そう宣言した弥生ちゃん。 宣言通り普通のサーブを打つと、それはあっさりと拾われてスパイクも決められてしまう。 うぅっ、私と弥生ちゃん2人でも止められなかったよぉ。
しかし、その後の攻撃をしっかりと決めて8ー4とし、テクニカルタイムアウトに入る。
「皆さん素晴らしいです!」
「だはは!」
「きゃはは!」
「おほほ!」
「なはは!」
前田さんに褒められてテンション爆上がりの4人。 皆して進化だの新技だのを披露して目立っちゃって。
「ただ、ああいうのがあるなら事前に私に知らせておくように言ってましたよね?」
と、仏の顔だった前田さんの顔が般若面みたいな顔に早変わり。 日本代表メンバーの悪い癖で、新しい技とかだったりを隠して「秘密兵器」とか「切り札」とか言ってしまうのである。 前田さんとしては、それを知っていればデータに組み込んで、違う戦い方だって出来るのにと怒っている。 怒られるだけでタイムアウト終わっちゃうよ……。
「や、弥生はまだもう一つ隠してるみたいよん?」
「あ、紗希! ウチに前田さんの怒りの矛先を!」
「きゃはー」
「そうなんですか? 月島さん?」
怖い怖い。 私は新技なんて開発してきてないから、責められたりしないし安心だよ。
「き、切り札やがなぁ。 イタリア代表にはさっきのジャイロサーブだけで十分や」
「月島。 前田さんにはちゃんと教えとかなあかんでぇー」
「黙りなはれ黛姉! どうせあんさんらも新しい姉妹連携隠しとるやろ!?」
「それは言われへんなぁ」
「黛さん?」
「ひぃっ?!」
ダメだこりゃ。 あ、テクニカルタイムアウト終わっちゃったよ。 本当に前田さんに怒られるだけで終わったよ。
「い、行きますわよー!」
「なははー、逃げろー」
一目散にコートに逃げていく皆であった。
◆◇◆◇◆◇
8ー4で試合再開。 先程の得点でローテーションし、私は前衛に戻ってきている。 後衛は麻美ちゃん、弥生ちゃん、紗希ちゃんとなっており、少々レシーブ力に難のあるポジションになった。 ブレイクするのは厳しそうかな?
「いくわよん! とりゃっ!」
紗希ちゃんのランニングジャンプドライブサーブだ。 球速も落差もかなりのものである。 私達と一緒になって筋トレやプールトレーニングに参加して、かなりパワーアップしているからねぇ。
パァンッ!
「崩してはいるけど返ってきますわね」
「亜美ちゃん、とにかくアンジェラにつくぜ」
「らじゃだよ」
遥ちゃんと一緒にアンジェラさんのブロックに向かうが……。
「あー、匂い的にはクラリーチェさんー」
「えっ」
「間に合わないっての!」
麻美ちゃんが、イタリアSのトスアップ寸前になってトス先を指摘。 ちょっと間に合わないタイミングなので、クラリーチェさんにブロックに行く事は出来ず素通しに。
パァンッ!
ピッ!
「あぅ」
「麻美、もうちょっと早くならないのかい?」
「無理ー」
無理らしい。 麻美ちゃん自身が匂いを察知して動く分には良いのだけど、それを口に出して合図するという工程を挟むと、どうしてもラグが発生してしまうのだとか。 こればかりはどうしようもない。
そしてここで紗希ちゃんが宮下さんと交替となった。 紗希ちゃんはまだ暴れ足りないらしいが、フランス戦でも出番があると言われて仕方なく戻っていった。
「うわはは! 奈央っち、私に集めたまへ。 エースであるこの私に」
「状況次第ですわよ」
「えー」
まあ奈央ちゃんならそう言うよね。 さて8ー5でイタリアサーブだよ。 流れは良いと思うけど、思ったより引き離せていないのは麻美ちゃんが後衛にいるからだろう。 次のローテーションで麻美ちゃんが前衛に戻ってくるので、そこが一つの勝負所だ。 コートメンバーもそれは理解しているのか、このイタリアサーブから始まるプレーには集中している。 ブレイクを取られるわけにはいかないよ。
パァンッ!
「ウチが拾うで!」
「頼む弥生っち!」
宮下さんの守備範囲に飛んできたサーブだが、ここはオールラウンダーでレシーブもかなり上手い弥生ちゃんにお任せする事に。 奈央ちゃんは素早くポジションにつき、弥生ちゃんのレシーブを待つ。
「ほいっ!」
「Bパスじゃんー!」
「黙りなはれー!」
説明しよう! BパスとはSさんのセットポジションに対して、少しズレた位置にレシーブを返す事である。 ちゃんとSさんのポジションに合わせて返すこのをAパス、Sさんがトスを上げにくい場所に返しちゃう事をCパス、相手コートにダイレクトに返ったり、Sさんがトスすら出来ないようなダメダメレシーブはDパスと呼ぶ。 希望ちゃんや新田さんなんかはほぼAパスで返すよ。 レシーブ技術の差が出る場面である。
「これぐらいなら問題無いですわよ! 宮下さん!」
「よしこーい! おりゃあ!」
宮下さんに上がったセミオープンのトス。 ついてきたブロックは1枚。 宮下さん相手には全然足りないよねぇ。
パァンッ!
ピッ!
華麗にストレートを打ち抜き、早速得点する宮下さんのバックアタック。 相変わらず凄いコースに決めるねぇ。 ラインキワキワだよキワキワ。
「私を止めるならブロック3枚持ってきたまへ」
と、自身満々な宮下さんだが、実際そうでもしないと止まらない、というかそれでも止まらない事もあるぐらい巧いからねぇ。 頼もしいエースである。
ここが勝負所!
「希望です。 私も頑張るよぅ」
「早くコートに帰ってきてねぇ」




