第1943話 奈央も新技
2セット目を取り返した日本代表。 ここから反撃!
☆麻美視点☆
「ワンタッチー!」
「ナイスだよぅ! はぅっと!」
「いきますわよ! 同時!」
「とりゃ!」
パァンッ!
ピッ!
「ナイスキー紗希!」
ブーッ!
イタリア代表戦第2セット目。 途中でマリアがゾーンに覚醒し逆転。 マリアがガス欠を起こしたタイミングで私が交替でコートに戻った。 ベンチでしっかりシミュレーションし、進化した私の嗅覚でSのトスアップ寸前の匂いの変化を嗅ぎ分ける事が出来るようになり、ギリギリまで様子見をする事が可能になったー。
「なったー」
「話聞いてもさっぱりわからんわ」
「きゃはは」
私のブロックがイタリア代表に通用するようになり、希望姉の守備もしやすくなった。 そのおかげで、とりあえず2セット目を取る事に成功し、セットカウント1-1で振り出しに戻した。
「ここからですよ、皆さん。 ここからは地力の勝負です」
「それなら私達の方が上ですわ」
「やな」
「頃合いを見て神崎さんと宮下さんを替えます」
「おー! 私出番あるの?」
「私お役御免ー?」
「エースには暴れてもらわないと」
「うわはは! まだ個人タイトル狙えそーだし、やってやるわよー!」
「仕方ないかー」
3セット目はどこかで神崎先輩と美智香姉を入れ替えるみたいですー。 どちらも攻撃力という面では変わらない気がするけどなー。 高さがある分、神崎先輩の方が戦いやすい気もするがー。
「マリアー、見てるかー?」
「はい。 さすが麻美先輩ですね。 ゾーンに入ったわけでもないのに、あの攻撃を捌くとは恐れ入りました」
「ほんま天才ブロッカーやな、藍沢妹」
黛のお姉さんにも褒められたー。 私より蒼井先輩の方が凄いと思うのだがー?
「よし。 3セット目行ってこい!」
「おっさんは作戦とか何も連絡あらへんのかいな……」
「全て前田君に一任した!」
「ダメだこりゃ」
監督は職務怠慢なのではー? とりあえず前田さん曰くはこのままで大丈夫という事なので、今のプレーを続けていく事に。
コートに入り3セット目開始ー。 日本サーブで始まる。
「ハイ、アサミ」
「のわっち?!」
イタリアコートから話しかけられたー。 どうやらアンジェラさんが声を掛けて来たらしい。 試合中は翻訳機を付けていないので亜美姉に翻訳してもらうと「やっぱり貴女は凄いMBね」と言っていたらしい。 なははー、敵にも褒められたー。
ピッ!
さて、試合再開。 まずは西條先輩のサーブから。 ここまで来たらもう出し惜しみは無しという事で、いきなりネオドライブサーブで攻めるようだ。 かなりの助走距離を取っている。 それを見たイタリア代表も、少し前に出て構えている。 西條先輩のネオドライブサーブは、世界で見てもかなり強力なサーブであり、各国チームが最も警戒しているサーブとも言えるー。
「いきますわよっ! ネオドライブ派生! シックルサーブ!」
何か聞いた事無い名前のサーブきたー! 西條先輩、そんな新サーブを隠していたのかー!?
パァンッ!
西條先輩の放ったサーブは、ネオドライブのように斜め上方向に飛んでいく。 ネオドライブサーブはここから急降下し、相手のアタックライン付近に落ちるのだが、新たなサーブは、ネットを越えた辺りから急激に曲がった。 その軌道は正にシックル……鎌のような湾曲軌道である。
ピッ!
しかも、ちょっと曲がるどころの話ではないー。 ほぼ真横、80度とかそんな角度だ。
「ちょいと待ちぃやあんさん。 何やあの有り得へん軌道のサーブは?」
「シックルサーブですわよ?」
「名前は聞いてへんのや……曲がりすぎやろ? ビーチボールみたいなビニールボールとちゃうんやで?」
「原理はネオドライブと同じですわよ。 超高速の横回転とある程度の球速で起こる空気抵抗でボールの軌道を変化させる」
「きゃはは。 変化し過ぎっしょ」
「その気になれば逆方向にも曲げられるし、曲げて落とす、逆にホップさせる事も出来ますわよー」
西條先輩は、ネオドライブサーブを編み出した時にはここまで考えていたとの事。 実践投入は今回が初めてみたいー。 今まで使う必要も無かったからだとの事ー。
「さー、どんどんいきますわよ。 次は今度は角度を緩くして曲げながら落とすわ」
「それはたまにやるやつじゃん」
「逆方向に曲げて落としますわよー!」
もう何でもありだー。
「そぉい!」
西條先輩のサーブ。 逆回転サーブらしい。 逆回転というのは利き腕側……まあ、打ち手川に曲がるような回転をかけるんだけど、バレーボールではあまり使われないと思われるー。 西條先輩の打ったサーブは、イタリアコートの中央に向かい飛んでいく。 が、強烈なシンカー回転のかかったボールは、急に逆方向に曲がって落ちる。
「?!」
パァンッ!
ピッ!
「ナイス西條さん! とんでもないサーブ連発しよってからに!」
「おほほ。 このセットは私のサーブだけで終わるかもしれませんわよー」
「それは言い過ぎやろ」
「まあねー。 次は普通に打つつもりだし」
「連発しないのは何で?」
「慣れられたくないからですわよー。 それに、今は麻美が止められるからラリーになっても問題無いし。
「なはは!」
私も信頼されているー。 どんどん止めていくぞー。
「そぉい!」
パァンッ!
西條先輩は宣言通りに普通のドライブサーブを打っていく。 ネオドライブサーブと違い、これはイタリアLにあっさり拾ってくるー。 西條先輩が言うには、普通のドライブサーブは所詮苦し紛れに作り出したサーブという事らしいので、返されるのは仕方ないらしいー。 ちなみに、苦し紛れに開発した割には並のドライブサーブよりはキレがあるー。
「来るで麻美っち!」
「希望姉、もう合図はいらないぞー」
「OKだよぅ」
1セット目では、希望姉が私の目となりSさんの最終トスコースを見てもらい、素早い合図で私に報せるという連携をしていたが、進化して更に嗅覚が研ぎ澄まされた私には必要無くなったー。 何故ならば! 進化した嗅覚を使えば、希望姉が目で見て合図を送ってくるよりも早く、トスコースが読めて動き出せるからだー!
アンジェラさんとソフィアさんが同時にセカンドテンポで動き出している。 これは滞空時間の差を生み出して時間差を仕掛けてくるコンビネーションだ。 Sから漂う匂いはまだハッキリとはしないが、一応「アンジェラさんに上げるぞ」という匂わせは感じている。 クラリーチェさんもセカンドテンポで動いているので、こちらに後出しトスの可能性もある。 私はまだ動かないが、月島先輩はMBのクイックを警戒してコミットブロックに跳んでいる。 アンジェラさんとソフィアさんが踏み切るタイミング。 ここでSから漂う匂いが一気に強くなる。 トスコースを決めたようだ。 これは時間差でソフィアさんのバックアタックだ!
シュタタ……
感知するが早いか、私は素早くポジションを移動してソフィアさんの前に立ちはだかり、素早く腰を落としてブロックに跳ぶ。 亜美姉もわたしに追従し、隣でジャンプ。
パァンッ!
「触ったー!」
イタリアの超滞空時間差に対して、しっかりワンタッチを取る。
「ナイスですわよー! 私がレシーブしますわ! トスは亜美ちゃんよろしく!」
コース上にいた西條先輩がレシーブを構えてこぼれ球を拾う。
「らじゃだよ!」
トスを上げるのはオールラウンダーの亜美姉。 癖の無い綺麗で打ちやすいトスを上げると評判であるー。
「紗希ちゃん!」
「よーし! スーパーノヴァー!」
パァンッ!
バックアタックからの強烈な打ち下ろしスパイクがイタリアコートに炸裂。 3セット目は3-0と完璧なスタートダッシュを決めるー。
奈央も新サーブを披露!
「亜美だよ。 凄い曲がり方したよ?」
「おほほ。 開発に苦労しましたわよー」




