第1942話 マリアの覚醒と麻美の反撃
マリアがゾーンに入り反撃開始!
☆奈央視点☆
イタリア代表戦2セット目の中盤。 3点リードされた状態。 ここにきてマリアがゾーンに突入して流れが変わりそうね。 現在15-12でイタリアが後1点取ればテクニカルタイムアウト。 イタリアのアンジェラさんサーブで始まるこのプレー。 まずはゾーンに入ったマリアのお手並み拝見かしら? スターティングのローテに戻った事で、オールラウンダー3人は皆前衛。 後衛の守りは薄いけど、希望ちゃんに頑張ってもらう他ありませんわね。
パァンッ!
「任せて!」
イタリアサーブを拾うのは希望ちゃん。 人並外れた動体視力で、サーバーの動きからコースを読み、他人より早く動き出す事で守備範囲を広げている。 恐ろしい子ですわね。
「んじゃマリアにいきますわよ!」
ゾーンに入ったマリアにトスを供給する。 イタリア代表側も、マリアが放つ異様なプレッシャーには気付いているはず。 それを囮に他を使う作戦も取れるけど、まずは見ておかなければならない。
「そぉれ!」
あえて高いトスを上げ、イタリアブロックをマリアに集める。 3枚ついてくるのは当然。 これを抜けるか否かで評価は変わるわよ、マリア。
「……」
マリアは相手ブロックを確認しながら踏み切る。 あれは左打ちですわね。 スイッチヒッターのマリアは、右手でも左手でも打てる。 今回はスペースが広い方に打ちやすくする為、左打ちを選択したみたいだわ。
「……っ!」
パァンッ!
そこから超インナークロスを打ち込み、ブロックに触らせずに決めてみせるマリア。
「うへー。 やりよるやん」
「きゃはは! コメットインパクトパクられたわー」
「さすがマリアちゃんだねぇ!」
ブロック3枚を完璧に攻略したマリア。 攻撃の方は問題無しと。 問題はやっぱりブロックね。 麻美の代わりが務まるレベルかどうか……。
「亜美ちゃんナイサーや」
「いくよぉ! てやや!」
パァンッ! 気の抜けるような掛け声と共に放たれる亜美ちゃんのサーブ。 筋トレ等を経てパワーアップしているので、もうへなちょこサーブではない模様。
パァンッ!
「さあ、マリア。 どうかしら?」
イタリアの攻撃が返ってくる。 麻美でもどうしようもなかった、2人同時の空飛ぶブロード。 マリアはセンターに立ちながら、ボーッとボールの行方を目で追っている。
「だ、大丈夫かしら?」
「私達は適当にブロックに動くわよん!」
「そやな!」
動かないマリアに対して、慌てて動き出す紗希と月島さん。 イタリアSが軽く跳び上がって、ジャンプトスを上げた瞬間に、マリアがアンジェラさんに向かって動き出した。
「は、速っ?!」
一瞬でアンジェラさんの前に移動し、月島さんと並んでブロックに跳んでいた。 イタリアのトスもアンジェラさんに上がっており、完全にマリアの勝ちだ。 希望ちゃんはマリアを信頼していたのか、マリアの動き出しを確認するや否や守備位置を移動していた。 高速のトータルディフェンス。 希望ちゃんだから出来た早技のコンビネーションですわね。
パァンッ!
マリアと月島さんのブロックは躱された。 しかし、そこは希望ちゃんの領域。 自分の守備範囲に入ったボールは決して落とさないですわよ。
「はぅっ!」
パァンッ!
「止めたよ! イタリアのWブロード!」
「よっしゃ! 反撃開始や!」
ここでブレイクを決めて15-14と詰め寄り、試合の流れを変える。 問題となってくるのはマリアのスタミナ問題ね。 ゾーンに入ると、リミッターが外れて限界ギリギリの能力で動き回ってしまう関係上、スタミナの消費が激しいという弱点がある。 マリアはこのセット中に使い物にならなくなるのは確定。 それまでに、麻美が何とかあのイタリアの連携の攻略法を引っ提げて戻ってきてくれないと……。
「なははー! いいぞー! ゆけーい!」
何か呑気に応援してるんですけどーっ?! え? 攻略法は? もう大丈夫なの?!
チラッと前田さんへ視線を移すと、コクリと小さく頷いた。 だ、大丈夫なのね?
前田さん的にはまだタイミングではないのだろう。 マリアが限界になるまではこのままいくつもりかしら?
◆◇◆◇◆◇
その後、マリアがコートで大暴れ。 連続ブレイクでテクニカルタイムアウトをもぎ取り、タイムアウト明けにポイントを取られて並ばれるも、後衛に下がったマリアの守備範囲は希望ちゃんや新田さん並。 オールラウンダーとしての能力が限界まで引き出されているようね。 更に連続ブレイクを重ねてリードを広げつつ、また食い下がるイタリアに点を取られたりしながら20-23としたところで遂に……。
「……くっ」
ガクンッ……
マリアのゾーンが限界を迎えて膝から崩れ落ちる。 ちょうど前衛へローテーションしたタイミングだし、麻美に替えられる。 小林監督も立ち上がり、選手交替を要求。 マリアはよく役目を果たしてくれたわ。
「マリアちゃん。 お疲れ様だよ」
「……はい」
「あんさんの頑張りは無駄にせぇへんで」
「きゃはは。 ベンチでゆっくり見てなさい!」
フラフラになりながらコートを出るマリア。 それとすれ違うようにコートに入ってくる麻美。 その表情は自信満々だ。
「マリアー! あとは私に任せておけー! なはは!」
「……。 頼みます、麻美先輩」
ハイタッチを交わす2人。 バトンの受け渡しも済んだみたいね。
「ほんで。 あんさんはアレを何とか出来そうなんか?」
「うむん。 私は更に進化したー」
「よくわかんないけど、麻美が頼りなんだから頼むわよん?」
「おー!」
「よし。 じゃあこのセット取っちまうか!」
サーバーの遥が気合いを入れてサーブ位置へ。 ビッグサーバーではあるが、イタリアには簡単に拾われてしまう。 こうなるとイタリアの攻撃が来るわけだけど……。
「麻美ちゃん、Wブロードだよ」
「わかってるー」
わかってると言いながら、まだ動く気配は無い。 さっきまでの麻美なら、この時点で既に動き出していたが、イタリアSがそれを見て後出しのトスを逆方向に上げるので、先読みが意味を成していなかった。 マリアもギリギリで動いて対処していたけど、あれはゾーン状態で身体能力のリミッターが外れていたから出来た、謂わばチート技みたいなもの。 ゾーンに入っていない麻美が同じ事しても……。
と、思ったのも束の間。 麻美がフラッと動き出した。 タイミングはいつもよりかなり遅いが、それでもイタリアSのトスアップより手前。 トスアップ寸前。
トンッ!
イタリアSからのトスはアンジェラさんへ。 麻美が動いた先ね。 しかも普通に間に合ってるし?!
「なはは! ちょいさー!」
「wao?!」
パァンッ!
「ドシャットー!」
「ナ、ナイスブロック麻美ちゃん!」
「戻って来ていきなりドシャットかいな! バケモンめ!」
「さすが麻美だぜ!」
い、一体何がどうなっているのかわからないけど、麻美はあれを攻略出来たらしい。 これならこの試合、いけますわね!
麻美も遂にイタリアの攻撃に対応し始めたようだ。
「遥だ。 さすがは天才だぜ。 あれに対応出来る奴なんか世界を探しても麻美ぐらいだ」
「遥ちゃんでも辛いかぁ」




