第1940話 更なる進化が必要
何とか食らいつく日本代表だが?
☆麻美視点☆
ブーッ!
15-16。 1点ビハインドで2回目のテクニカルタイムアウトに入るー。
「皆さん良い感じですよ」
と、前田さんが労ってくれる。 しかし、私はまだ完璧にイタリアを止めているわけじゃないから満足していない。
「そやけど厄介やで、あのブロード」
「バレーボールの基本、4対3の数的有利な攻撃を仕掛けてくる上に、動きが大きくてブロックにつくのも大変ですからね」
「うむー」
「私達の同時高速連携に近いですわね」
「だったら、あえてブロックに行かないで皆で広い範囲をカバーするのはどう?」
「うーん。 それも微妙だと思いますねー。 とりあえずこのセットは麻美さんに頑張ってもらうとして、2セット目にまた考えてみましょう」
「うむん」
点差は最小だし、アンジェラさん、ソフィアさんの時間差ジャンプ連携は希望姉とのコンビで対応出来るようになった。 だけど、W空飛ぶブロードからの後出しトスには上手く対応出来ないままであるー。
◆◇◆◇◆◇
1セット目はそのイタリアの攻撃に上手く対応しきれないまま落としてしまいましたー。 私の所為だー。
「しょぼー」
「いやいや。 麻美っちはようやっとるで。 ウチらだけやったらアンジェラ、ソフィアのあのコンビネーション止められへんさかいな」
「そよー? あのわけのわからないブロードは皆で何とかするしかないわ」
「ふうむ。 2セット目は麻美さんを外してマリアさんでいってみましょう。 オールラウンダー3人態勢になればあれを止められる確率は上がると思います」
「なはー。 私クビー」
「いえいえ。 麻美さんは引き続きアレを何とかする方法を考えてもらい、3セット目以降を戦ってもらわないと」
「頑張るー!」
このままやられっぱなしで終われないー!
「そやけど、ウチら次のセット落としたらもう後があらへんよ?」
「麻美さんがあれに対応出来ない限りはどちらにせよ厳しいですよ」
「なはは……プレッシャー」
「むしろ、麻美無しでフロアディフェンスの枚数増やした方が安定しないかしら?」
「いえ、ブロック無しだとやはり厳しいと思いますよ。 トータルディフェンスはバレーボールの基本。 疎かにしてはいけません」
「でも、次セットを私抜きで取れたら私が要らないという事にー」
「そうはならないと思うよぅ。 ブロック無いと大変だからね」
「遥が何とかするわよ。 ね?」
「頑張ってはみるがあんま期待してくれるなよー?」
「蒼井先輩ならやれるー!」
蒼井先輩は神MBだから、イタリアのあの攻撃にも勝てるー!
「私の出番無いー!」
「ははは。 まあ、やれるだけやってみるさ」
という事で、2セット目に入り私は早々にベンチへ下がるー。 マリアに任せて私はイタリア代表の動きの観察に専念する。 とはいえ後出しでトス先を変えられる以上、私の嗅覚に頼った先読みは封じられていると言っても過言ではないー。
「ぬぅん。 先読みしてもギリギリまで動かずに、イタリアSの選択猶予を極力減らすようにすれば何とかなるかー? それか動きや視線でフェイントを仕掛けて惑わすかー? どちらをやるにしても、私の動き出しが遅くなってしまうかー」
「何や、めちゃくちゃブツブツ言うとんで、藍沢さんの妹」
「多分どうしたらあの攻撃を止められるか考えてんでしょ」
「はぁー、真面目やなぁ」
「まあ、この試合の勝ち負けは自分の肩に掛かってるって思ってっからなー。 麻美1人の責任じゃないんだが」
「ほんま真面目やなぁ」
試合の方はやはり苦戦を強いられているようだー。 亜美姉、月島先輩、マリアが後衛に固まっている時はそこそこ拾ってブレイクも取れるみたいだけど、誰か1人が前衛に行き穴が出来ると中々止められないみたいー。
「何とか対策をー……」
今の私の能力ではこれが限界なんだろうかー? もっと進化して嗅覚を研ぎ澄まして、限界を越えた反応をしないとアレは止められないかもしれない。 この試合中にもう一皮剥けなければー!
「ブツブツ……」
「おいおい。 麻美の奴、ベンチで半分ゾーンに入っちまってんぞ?」
「入るタイミングおかしくない?」
「それだけ集中してるんですね」
「大丈夫かいな? それ、めちゃくちゃスタミナ消費凄いんやろ?」
「まあ、座っているだけですから大丈夫ですよ。 多分」
嗅覚を研ぎ澄ますんだー。 Sの放つ匂いに集中する。 私は今、コートの中にいると想定してシミュレーションしているー。 まずイタリアSはセットアップした時、とりあえずアンジェラさんかソフィアさんにトスを上げるつもりでプレーをしているようだ。 しかし、その匂いを嗅ぎ取り私が動き出すと、そこからトスコースを変えてくるのだー。 やはり、私が先読みして動くのを止めればイタリアSはギリギリまでトスコースを変えることをしないはず。 出来れば、私もギリギリで動ければ良いのだが、それをするにはやはりもっと嗅覚を鋭敏にして、ギリギリのその一瞬を捉えて動き出せるようにしないと。 今、イタリアSから漂う匂いはモヤっとしたハッキリとしない匂いだけど、アンジェラさんに上げようという意思は感じられる。 アンジェラさんとソフィアさんがブロードを始めたけど、この時点でもまだモヤっとした匂いのまま。 亜美姉とマリアが迷いながらアンジェラさんの方に向かう。 その瞬間、イタリアSから漂う匂いがハッキリとしたものに変化した。 クラリーチェさんだ!
パァンッ!
私の嗅覚通り、クラリーチェさんのバックアタックになりイタリアの得点になる。 これだ、この匂いの切り替わる瞬間を完璧に捉えて動き出せれば、更に後出しでブロックする事が出来る。 トスアップするより数瞬早く匂いが変わるから、その分反応も早くなるー!
「なは!」
「おん? どないした藍沢妹? おかしなったか?」
急に笑い出した私を見て心配そうにこちらを見る黛のお姉さん。 私、そんなおかしいかー?
「何か掴んだか、麻美?」
私の扱いに慣れている蒼井先輩なんかは、普通の対応してくる。 私の事をよく理解してるー!
「はいー! 糸口をー! 私も一段階進化した可能性ありー!」
「し、進化て?」
「嗅覚が鋭くなったー!」
「意味わからないけど、何とかなりそうなの?」
「もうちょっとシミュレーションさせてー!」
「ほんま麻美もわけわからんやっちゃな……」
「まあええやん。 ウチは藍沢氏のキャラ嫌いやないで」
と、黛お姉さんから高評価ー。 このセット、もうちょっとベンチで試合を見ながら、この感覚を確かなものへと昇華していく。 シミュレーションでしっかりと止められるようになるまで、試合には出ないつもりだ。
「麻美さん。 3セット目までにはお願いしますよ」
「りょーかーい!」
2セット目、コートのメンバー頑張ってくれー!
麻美、ここに来てまた一つ進化?
「奈央ですわ。 こっちは大変よ。 早く戻ってきなさいー!」
「が、頑張って耐えるよ!」




