第1938話 目と鼻
イタリア代表との試合。 序盤は遅延作戦で麻美の経験値稼ぎ。
☆麻美視点☆
イタリアとの試合が始まった。 私達日本代表はというと、私がコートに居られる時間を少しでも延ばす為、遅延作戦を行っているー。 こちらはポイントを取らないようにしながら、相手の攻撃は拾うー。 そうして、私がアンジェラさん、ソフィアさんとのマッチアップを出来る回数を稼ごうという事だ。
開始直後ではあるが、すでに不思議ジャンプからの時間差攻撃、W空飛ぶブロードという攻撃を見せてきたー。 現在、希望姉が超反応を見せてW空飛ぶブロードを拾ったところー。
「亜美ちゃん、とりあえずイタリアコートに返してちょうだい!」
「らじゃだよ!」
さすがにちゃんとした攻撃態勢は作れなかった為、一旦軽くスパイクを返すだけー。 まあ、ポイント取るとローテーションして私がコートから出るのが早まってしまうから、これは結果オーライー。
「さて、今度は何を見せてくれんのかしらね、イタリア代表さんは」
イタリアに攻撃権が移る。 Lが軽くボールをレシーブし、Sがセットアップ。 最初に動きを見せたのはMBの選手。 クイックだけど、こちらは月島先輩がコミットブロックに向かうー。 やはり本命はアンジェラさん、ソフィアさんコンビかー? 今回はブロードではなく、普通にセカンドテンポでソフィアさんが走ってくる。 アンジェラさんもセカンドテンポかー。 ソフィアさんのジャンプは……普通のジャンプかー? アンジェラさんの方は空中で止まって見えるぐらい滞空時間が長いやつだー。
「麻美ちゃん!」
「むー。 アンジェラさんから匂うー!」
「らじゃだよ!」
ソフィアさんはまだ跳んでいるが、そこは無視してアンジェラさんのブロックへ向かう。 しかしー。
パァンッ!
「なぬー?!」
「ソフィアさんが打った?!」
ピッ!
アンジェラさんに向けたトスだと思っていたら、ソフィアさんがジャストミートしてきたー。 間違いなくアンジェラさんから匂っていたのにー。
「麻美ちゃんが出し抜かれたねぇ」
「なはは」
「トスは平行やったで」
「後出しトスに近い理論ですわね」
「そうなんか?」
「麻美がアンジェラさんの方へ行くのを見てから平行を上げた。 多分、ソフィアさんにブロックをつけていたらアンジェラさんへのオープントスを上げていたはず」
「そんな一瞬でトス判断出来んの?」
「出来なくはないですわよ。 特に麻美はブロック判断が早いから動き出しも早いし」
つまり、私が動いたのを見てからトスを変えるのかー。 見るところも多いし、注意する事も多いー。
「とりあえず0-2ね。 どうすんの? まだ遅延作戦やる?」
神崎先輩が西條先輩に確認する。 西條先輩は少し考えてから頷く。
「もうちょっと続けましょう。 麻美、頼みますわよ」
「りょーかーい!」
とは言ったものの、かなり情報過多となっていてパンクしそーである。 まず見る点としては、ソフィアさん、アンジェラさんの動き出し。 そこから2人の
踏み切る動作を注視し、どのタイプのジャンプを繰り出してくるかをチェック。 後は勘を頼りにブロックへ。 だったんだけど、Sさんが私の動きを見てトスコースを変えているとなると、動き出しを遅らせなければならないー。 どうしたものかー。
◆◇◆◇◆◇
しばらく遅延作戦を続けて、情報整理をしていく。 ある程度アンジェラさん達とのマッチアップを経たので、2-6とスコアを進めて私はベンチへ下がった。
「ふぅー」
「お、麻美どないや? 止められそうか?」
ベンチに座ると、タオルを頭に掛けてきながら渚がそう訊いてくる。
「止められそーに見えたー?」
「全然やな」
「なはは。 実際まだ何とも言えないー。 前田さんはここから見て何か気付いたー?」
「いえ。 麻美さん達が気付いた以上の事は特に」
「藍沢妹と雪村さんのコンビでも厳しいんか」
「はぅ。 ブロックを簡単に抜かれるとLは苦しいよぅ」
「さすがの雪村先輩の目と瞬発力でも、カバーし切れる範囲は限られますからね」
新田さんの言う通りで、希望姉でも拾える限界はある。 現状ブロックとの連携が機能していない為、希望姉には苦労をかけているー。
パァンッ!
「亜美っちとマリアっちのWオールラウンダーは上手くいってるわね」
「2人で後衛のほとんどをカバー出来ますからね。 多少ブロックが機能しなくても戦えます」
ここは前田さんの戦略がハマっているー。 ローテーションをして月島先輩が後衛に行き、オールラウンダー3枚の鉄壁布陣になる。
「問題は清水はん、廣瀬はん、弥生が前衛になったときやね」
眞鍋先輩が顎に手を置きそう呟く。 その3人が前に行くと、後ろは神崎先輩、希望姉、西條先輩の布陣に。 この3人では、ブロックと連携の取れない現状イタリアの攻撃を防ぐのは辛い。
「麻美。 ここから見てて何か対策は思い浮かばないわけ?」
「むぅん。 考えてるのは私がクラリーチェさんを担当するぐらいー」
「あんたがコミットブロックに行ってどうすんのよ?」
「でも、私の動きを見てトス先を選んでるみたいだから、私がアンジェラさん達のブロックに行っても意味無くないー?」
「そ、そうだけど」
「アンジェラさんやソフィアさんのジャンプの種類を見抜けない清水さんや月島さんでは、やはりあの2人は止められませんよ」
「なははー……」
ピッ!
試合の方は4-8となりテクニカルタイムアウトに入るー。
「いやいや。 中々難しいねぇ」
「ずっとウチらが後衛で守れたら良えんやけどね」
「ローテーションがある以上それは不可能ですわよ」
「麻美ー、まだ何とも言えない感じー?」
「はいー」
この試合の勝敗は私の肩に掛かっていると言える。 何かしら突破口を見つけて、イタリア代表の攻撃を止めなければー。
「麻美がブロックへの動き出しを遅らせるのは?」
「それはやると、ソフィアさんの速攻に間に合わなかったー」
「既に試したのね……」
「麻美ちゃんの勘は全部当たってるんだよねぇ?」
「うむー! でも後出しされて全部台無しにー!」
私の鼻は確かに利いている。 Sのトス先も、誰が打ってくるのかも先読みはしっかり出来ているのにー!
「イタリア代表は完全に藍沢妹を対策して来よったてことか」
「アンジェラさんの天敵だからねぇ」
「はぅ。 ブロックさえ機能してくれれば私も拾いやすいけど」
と、話している内に短いタイムアウトは終了。 コートメンバーはコートに戻っていく。
「むぅー」
「麻美ちゃんは、ブロックする相手を決めた後はSの動きとか見ないのぅ?」
「なは? 見てないー。 匂いを信じて跳ぶー」
「なるほど……麻美ちゃんは鼻でブロックするもんね」
と、希望姉がそう言って頷く。
「じゃあ、私が麻美ちゃんの目になるよぅ」
「えー? 希望姉が私の目にー?」
「なるほど。 それは面白いですね」
と、前田さんは納得したらしい。
「麻美ちゃんはいつも通り、自分の鼻を信じて動いて。 私がSさんの動きを観察して、トスのコースを予測して麻美ちゃんに合図するよぅ」
「そないな時間あるんかいな?」
黛の妹さんが首を傾げる。 時間的猶予はそんなに無いだろうけど……。
「なはは。 やってみよー」
「わかりました。 次のローテーションがちょうどいいタイミングです。 麻美さんをコートに戻しましょう」
よーし! とにかく何でも試してみるぞー!
頭を悩ませている麻美に希望が協力?
「希望です。 私の目でしっかり見れば、トスアップの瞬間にはコースが読めるよぅ!」
「どんな目しての?!」




