第1994話 麻美は超天才
立ち上がり苦戦する日本だが、ここで麻美がコートへ。
☆麻美視点☆
ワールドカップバレーグループ予選3戦目ー。 対セルビア戦の序盤であるー。 コートメンバーは立ち上がり苦戦中ー。
ピッ!
「よーし、出番ー!」
2-5となったところで私は新田さんと入れ替わりでコートに入る。
「なはは。 皆苦戦してますなー」
「いやいや。 中々強いですよ、セルビア」
「特にあのクリスティナさん。 あの人はかなり手強いです」
と、MBの星野さんがそう言っているー。 まあ、たしかにあの人は良いアタッカーだと思われー。 しかししかしー。
「まあ、見ておれ星野さん。 この天才がちょいさーっと止めてしんぜようー!」
「す、凄い自信ね……まあ、貴女のやばさは私もよく知るとこだけど」
と、佐伯先輩が苦笑するー。 県大会で何度か対戦経験もあるからねー。
「ばっちこーい!」
星野さんのサーブで試合再開。 さてさて、エースのクリスティナさんとやらが、バックアタックの為に助走してきたぞー。
「むっ! 匂うー!」
今回、このクリスティナさんのバックアタックは無視して大丈夫だー。 もう1人のアタッカーにブロックだー!
「佐伯先輩こっちー!」
「クリスティナじゃなくて良いの?!」
「はいー」
あまり時間も無いので佐伯さんを引っ張りながら移動を開始ー。 と、同時にセルビアのSからトスが上がる。
「予想通りー!」
「マジかー……」
とりあえずブレーキをかけてブロックに跳ぶぞー!
「せーの! ちょいさー!」
パァンッ!
ソフトブロックでボールを上に跳ね上げる。 完璧にスパイクの勢いを止めたので、天堂さんも簡単にレシーブ出来るはずー。
「はい! 冴木先輩!」
「佐伯先輩お願いします!」
「ややこし!?」
冴木さんから佐伯先輩へのトスが上がる。 ここはアルテミスの現エース佐伯先輩に託す。
パァンッ!
ピッ!
「ナイスです!」
「なはは! さすが佐伯先輩ー!」
「藍沢さんもさすが。 あれを読んで止めるんだもの」
「匂ったー」
「その感覚は私にはわかんないけど、頼りしてるわよ」
佐伯先輩からも頼られて更にやる気アップだー!
「星野さん、もういっちょー!」
引き続き星野さんのサーブ。 セルビア側も先程と同じパターンに持ち込むが、今回のクリスティナさんはフェイクでは無いようだ。
「佐伯先輩、クリスティナさんだー!」
「了解!」
私の指示を聞きすぐさま行動を開始する佐伯先輩。 私の嗅覚を信頼してくれたらしいー! 私と佐伯先輩が移動を開始すると同時に、セルビアSからクリスティナさんに向けたトスが上がる。
「星野さん、目をかっ開いて見ておくのだー!」
クリスティナさんのバックアタックに対して、真っ正面に立ちブロックに跳ぶ。 クリスティナさんの身体の開き、視線の移動等から一瞬でコースを読む。 クリスティナさんのインパクトの瞬間、私は真っ直ぐ上に伸ばしていた腕を、クロス方向へと倒した。
パァンッ!
ピッ!
倒した腕にクリスティナさんの放ったスパイクがヒット。 そのまま相手コートに叩き落とす。
「ナ、ナイスシャットアウト!」
「なはは!」
「す、凄い……」
「私達があんなに苦戦してるクリスティナさんを、初見であっさりシャットアウト……」
「なははは! 見たかー!」
星野さんや天堂さんとハイタッチを交わす。 星野さんは「先輩凄いです! 感服しました!」と、感動の涙を流しているー。 すいません、ちょっと話盛ったー。 別に涙は流していない。
◆◇◆◇◆◇
そのまま更にブレイクを稼ぐ私達日本。 私がコートにいる間に何とか逆転に成功し10ー9とする。
「ふぃー」
「藍沢妹、さすがの大活躍やんか!」
黛妹さんが肩を叩いて声を掛けてきた。
「なはははは!」
「ダメよ、あんまり褒めちゃ。 すぐ調子に乗るから」
と、厳しい事を言うのはもちろんお姉ちゃんであるー。 本当は妹が活躍して褒められてるのを見て喜んでるくせにー。 素直じゃない性格だー。
「いやしかしやな。 こんだけ活躍してるもんはやっぱ褒めたらなあかんやん。 ウチは調子乗ってもええと思うで」
「黛妹さんは優しいー! お姉ちゃんも見習うべきー!」
「はいはい。 凄い凄い」
「照れ隠しなんだよ。 本当は奈々ちゃんも麻美ちゃんを褒めたいんだよ」
「別に……」
と言い、そっぽを向いてしまうお姉ちゃんであった。
試合の方は、私がコートを出てから皆も調子を上げてきたのか、立ち上がりの時のような苦戦は見られない。 星野さんも、新田さんと上手く連携を取りながら、クリスティナさんのスパイクコースを誘導し、新田さんに拾ってもらっている。
「本来のブロックの役割だな」
「コースを閉めてスパイクをLに拾わせる。 MBの役割の一つだねぇ」
「ブロックで叩き落とすのも気持ち良いぞー!」
「そら、あんさんぐらいバシバシ落とせたらなぁ」
「麻美っちは超天才だからね」
「天才を超えてしまったー!」
「何が超天才やねん。 ただの麻美やろ」
と、渚がちょっと不機嫌そうだー。 私の活躍っぷりが妬ましいのだろうかー? まあ、渚はまだ試合出てないしねー。
「違うよー。 私は超アサミンだ(ニヤ……)」
「さよでっか」
軽くあしらわれてしまうのだった。
◆◇◆◇◆◇
ちょこちょことコート、ベンチ間を行き来する私だが、試合は気付けば4セット目。 1セット奪われはしたが、マッチポイントまでやってきている。 あ、私はベンチに戻って来ているのぞー。
「あと1点ー!」
「決めやー!」
パァンッ!
ピッ!
「ナイスー!」
最後は年長者の佐伯先輩がしっかり決めて試合終了! セットカウント3ー1で勝利し、勝ち点を更に3点追加。 勝ち点9、グループ予選全勝で文句無しの1位通過であるー。
「前田さんの言った通り、1セット取られたねぇ」
「本当、どんなデータ分析力してんのかしら?」
「データから確率を計算して、最もあり得るパターンを皆さんに伝えただけです。 ちなみ3-1で勝つ確率68%でした」
「負ける確率はあったんですの?」
「1.4%ありました」
「きゃはは。 怖い怖い」
「だから負けても問題無い試合だと言ったじゃないですか……」
「まあ、勝ったんやしええやん。 ようやくこれで決勝トーナメントやな。 はよ試合したいで」
と、試合に出れなくてストレスが溜まっていたらしい黛のお姉さんの方は、腕をぐるぐる回してやる気になっている。 試合はまだ先なんだがー。
◆◇◆◇◆◇
ホテルへ戻って来た私は、星野さんからアドバイスが欲しいと言われたので、一生懸命アドバイス中ー。
「ちょいさーはわからないですが、相手の癖や視線を読めというのはわかった気がします。 藍沢先輩って何も考えずに適当にプレーしてるように見えて、実は高度な駆け引きをしてるんですね?」
「ちょいさーしてるだけー。 後は匂いー」
「や、やっぱりわからない……」
星野さんは頭を抱えるのだったー。
予選を1位通過した日本。 今度は決勝トーナメントだ。
「亜美だよ。 私の出番まだかなぁ?」
「早く暴れたいわね」




