第1911話 フランスに注意
緊急ミーティング中の日本代表。
☆亜美視点☆
「何や何や? 緊急ミーティングて?」
前田さんが皆を集めて緊急ミーティングを開いた。 当然皆は急に集められたので頭が「?」状態。 前田さんに緊急ミーティングの理由を問うている。
「ミーティングは試合前日……明日じゃないの?」
「一体どうしたんだい?」
と、こんな感じである。
「明日のミーティングは試合前の定例ミーティングです。 今は緊急ミーティングです」
「だから何が緊急なのん?」
「あれか? フランスに勝ったカナダに何か凄いプレーヤーでもおったんか?」
フランス対カナダの結果は試合の速報で皆知っているようだ。 皆が言うように、フランスはカナダに負けたんだけど、この結果はフランスがわざと負けたからである。 試合を偵察していた私達はそれをわかっているが、偵察に来なかったメンバーは「カナダに凄い選手でもいるのか?」という風に思っているらしい。
「いえ、違います。 試合自体はフランスが優勢でしたが、フランスはここでわざと負けて、予選2位通過を狙っているようです」
「わざと負けて? 何の意味があるのかしら?」
紗希ちゃんが首を傾げる。 まあ、普通はわざと負けるなんて事はあまりしないからねぇ。
「決勝トーナメント表を見てください。 何か気付きませんか?」
と、前田さんがプロジェクターを使い、スクリーンにトーナメント表を映し出した。 まだトーナメント表は全く埋まっておらず、1回戦のカードの白枠には「○グループ1位」や「○グループ2位」としか書かれていない。
「わからないわ!」
「宮下さんはまあ……」
「うわはは!」
バカにされてるのわかってるのかなぁ? しばらく皆がトーナメント表を眺めていると、奈央ちゃんが「なるほど」と声を上げる。
「中々味な真似をしますわねー」
「何なの?」
「ここがフランスがいるBグループ2位の1回戦になるわけだけど、ここを勝ち上がっていってもあら不思議。 私達日本はおろか、イタリア、アメリカ、ブラジル辺りと対戦せずに決勝まで進めますわ」
「その通りなんです。 私達強豪チームが順当に1位抜けすると仮定すると、皆同じブロックに固まるのですが、フランスは2位抜けすると反対のブロックに入るので、決勝まですんなり来れるんです」
「はぁん。 まあ、ええやん。 そない回りくどいやり方せな勝ち上がって来れへんようなチーム、鼻から相手にせんて」
黛姉がそう言うが、前田さんはそれは違うと首を横に振る。
「フランスは十分に優勝を狙えるチームです。 そんなチームが、主力を温存したり切り札を隠しながら決勝まで勝ち上がって来る事が問題なんですよ」
「切り札? ジャンヌさん?」
「今日試合を見ていて、もう1人見つけました。 フランスは今回、一番の強敵になる可能性があります」
「ふむ。 なるほどですわね。 この先はフランスチームの同行に気を付けていましょう」
「お願いします」
「それはええけど、フランスが2位通過した場合ウチらと当たるんは決勝なんやろ? ほな、その前に当たるアメリカやらイタリアの方に注意した方がええんやない?」
「黛志乃さんの言う通りです。 結局のところ、有力チームには一通り目を光らせておかないといけません」
「ほな何も変わらんな」
「引き続き前田さんはデータ収集よろしゅう」
「は、はい。 それはもちろんなんですが、皆さんも何か気付き点等がありましたらご一報ください」
「わかったわ」
「了解や」
前田さんが始めた緊急ミーティングはこれにて終了。 フランスはもちろん、アメリカやイタリア、ブラジルといった強豪の試合は出来るだけチェックしていくよ。
◆◇◆◇◆◇
「何で自然に俺達の部屋に居座るんだ」
「私は夕ちゃんの妻だよ? 別に良くない?」
緊急ミーティングを終えた私は、自分達の部屋ではなく夕ちゃん達がいる男子部屋にやって来ている。 麻美ちゃんに奈々ちゃん、希望ちゃん、渚ちゃん、弥生ちゃんまでやって来て、さすがに少し狭く感じる。
「どうして皆ついてくるかな?」
「はぅ! 私だって夕也くんや亜美ちゃんとお話ししたいよぅ!」
「そうだぞー! 亜美姉だけずるいー!」
「ずるいと言われても、私は夕ちゃんの妻なんだけどねぇ」
「まあまあええやん。 ウチは亜美ちゃん達に訊いときたい事あんねん」
「後にしてくれるかな?」
「何でや?!」
「お姉ちゃん、落ち着きぃや」
私は今、夕ちゃんに甘えたいのである。 マロンとメロンは一頻り可愛がり終えたから、次は私が可愛がってもらいたいのだ。
「だから皆はどっか行ってねぇ」
「亜美ちゃんよ。 俺と春人もいるんだが?」
私が夕ちゃんの膝の上に座っていると、宏ちゃんがそんな事を言い出した。
「どっか行ってねぇ」
「ここ俺達の部屋なんだが?! 春人も何か言え!」
「亜美さんが大マジな顔でこう言う時は、割と本気でどっか行ってほしいと思ってる時なので」
「知ってるわい! なら夕也と亜美ちゃんが部屋から出て行けば良いんじゃないか?」
「おお、たしかに」
「そしたら私達が2人についていくー!」
「そうね」
「はぅはぅ」
「だはは!」
「清水先輩、哀れやな……」
「どうすれば良いのよ……」
結局夕ちゃんには甘えられそうにないなぁ。 また今度にしよう。 とりあえず夕ちゃんの膝から下りて適当に腰を下ろすと、弥生ちゃんが話を振ってきた。
「さっきのミーティングで前田さんが言うてたけど、フランスチームのもう1人の切り札っちゅうのはどないな選手なんや?」
一応真面目な話らしい。 そういう事ならちゃんと応えてあげなければなるまいだよ。
「エミリーって言うSの選手だよ」
「Sが切り札? OHとかMBやないんか?」
「Sだよ。 身長も奈央ちゃんより低いかなぁってぐらい小柄なんだよ」
「ほんまにそないな選手が切り札なんですかね?」
渚ちゃんが疑問に思うのも無理はない。 話だけ聞いていると、とても切り札になるとは思えないからね。
「まあでも有り得る話か。 身体が小さくても化け物じみた人はおるし」
「それこそ西條さんやな。 どないなSやったん?」
「うーん。 それが私にはよくわからないんだけど、前田さんと麻美ちゃんが言うには運動能力が高そうだって事みたい。 多分化け物の類だろうって」
「そうなんか麻美?」
「うむー。 今日の試合では隠してたけど、あれは間違いなくもっと上のギアがあるよー。 無理矢理抑えてプレーしてる感あったー」
「私や奈々ちゃんは見てもわからなかったけどねぇ」
「まあ、でも藍沢妹と前田さんの2人が口揃えてそう言うんやったら、多分そうなんやろ。 今度偵察の時に出て来よったら、丸裸にしたるわ」
「前田さん曰く、もう決勝まで隠してくるつもりかもしれないって」
「……やとしたらほんまに切り札なんか。 厄介な選手やなかったらええんやけど」
そればかりは私にもわからない。 何とかして情報を手に入れたいけど、何とかならないかなぁ?
フランスの情報が何とか手に入らないものか?
「奈央ですわよ。 西條グループの力を持ってすれば」
「な、なるほど」




