第1904話 よちよち歩き
ユースとの試合は続く。
☆亜美視点☆
全日本代表壮行試合は続く。 全日本ユースチームも何とか食らいついてくる。 2-6で私達がリードしているという展開だ。
「さあ、どんとこーいだよ!」
ピッ!
サーブはユースチームに変わっている。 MBの向日さんだ。 身長もありパワーもあるタイプで、遥ちゃんに似たタイプだ。 春高を見た感じでも、パワーのあるサーブを打っていた。 が、今は私が後衛に回って希望ちゃんとのWリベロ状態になっている。 この布陣を抜くのは世界レベルでも中々難しいよ。
パァンッ!
「私だよ!」
飛んできたサーブは私の守備範囲。 瞬時に腰を落とし、レシーブの準備に入る。
パァンッ!
「おぉ、重いねぇっ!」
向日さんのサーブは想像以上に重い。 しっかり踏ん張らないと吹っ飛ばされていたよ。 こんなとこにも筋トレ効果が出ているようだ。
「ナイスレシーブですわ! じゃあアレいきますわよ!」
「なは!」
「よっしゃ!」
「やるわよー!」
奈央ちゃんの号令で助走に入る前衛3人。 麻美ちゃんから順番にワンテンポずつズレての助走。 つい先日奈央ちゃんが私達に明かした新たな連携。 その名も……。
「いきますわよ! 時間差高速連携!」
奈央ちゃんがボールをトスする。 ふんわり高いトスではなくて、アタッカーの手元に直接運ばれるドンピシャトス。 受けたのは麻美ちゃんだ。
パァンッ!
「えぇっ?!」
「な、何やこの攻撃……」
「同時じゃなくて時間差?!」
「こんなのもあるの……?」
「西條選手のトス精度が凄過ぎる……」
「おほほほ」
それに関しては私達もそう思うよ。 どうやったらこんな精度出せるんだか。
「なはは! 次は私のサーブー!」
ローテーションして麻美ちゃんが後衛に。 希望ちゃんがコートから出て遥ちゃんと交替だよ。 どんどん進行していこうねぇ!
◆◇◆◇◆◇
「試合終了! 14ー25、25ー16、13ー25で日本代表チームの3セット先取です」
「ありがとうございました!」
パチパチパチパチ!
「つ、強過ぎる……」
「正直もうちょっとやれる思うてました……」
「いやいや。 高校生チームにしちゃ立派な方よ? 経験値の差とかあるわけだし、むしろ自信持ちたまえ。 うわはは!」
「そやで。 こっちかて本気出さなわからんかったしな」
「なはは! 向日さんは『ちょいさー』が足りないー!」
「『ち、ちょいさー』ですか? な、何なんでしょう?」
「麻美。 一般人には麻美理論は理解出来ないからやめときな」
「はーい」
とにかく、これにて壮行試合は終了。 良い調整にもなったよ。 この後はミーティングもあるみたいだけど、先にシャワーを浴びさせろという私達の要望が通り、ミーティングは夕食前にズレるのであった。
◆◇◆◇◆◇
ホテルの大浴場で汗を流す私達。
「時間差高速連携、使えたねぇ」
「ですわね」
「というか、今までの連携でも十分だったけど?」
「あの子達にはね。 ワールドカップの……しかもランク上位で私達と対戦経験のあるチームなら対応してくる可能性は十分にありますわ」
「なはは。 たしかにー」
「いざという時に狼狽える事が無いよう、次善策を用意しておくのは大切だよ」
「まあ、そやな。 余裕は常に持っておくに越したことあらへん」
「私にはあまり関係無いよぅ。 連携には参加できないもん」
Lプレーヤーの希望ちゃんは攻撃に参加出来ないからねぇ。 いつもと変わらずプレーするだけだろう。
「必殺レシーブとか編み出そぅかなぁ?」
「いらんやろ……」
「はぅ……」
「あ、あはは……」
希望ちゃんも実は目立ちたいのかなぁ?
◆◇◆◇◆◇
夕食前のミーティングはサクッと終わったよ。
「あんなミーティングやったらやらんでええやないか」
「まあまあ、黛梨乃さんそう言わないであげようよ」
「時間が勿体無いやん」
「まあ、そやな。 その分練習したりした方がええわいな」
「きゃはは。 監督は本当威厳無いわね」
「実際あらへんからなぁ」
散々な扱いだねぇ。
「あ、奈央っち奈央っち。 バス出せる?」
「え、今から? 何処まで?」
「駅まで。 今ね、大君から連絡来て、こっち向かってるって」
「バス出しますわよ! 運転手にすぐ連絡します!」
「私も行くよ! 可憐ちゃん迎えに行き隊出動だよ!」
「あんさんら、ほんま好きやな」
「可憐て宮下さんのお子さんやんな?」
「そよー」
「ウチら会った事あらへんな。 楽しみやわ」
「そやな」
黛姉妹はまだ可憐ちゃんを見た事無いんだね。 東京と大阪だしチームも別だし仕方ないか。
「今バスの運転手を電話で呼びましたわ。 バスの前で待ちますわよ」
「ありがとう西條さん」
「急ぐよ!」
ようやく可憐ちゃんに会えるという事でテンションアップである。 きっと合宿に来ている皆からも可愛がられる事だろう。
◆◇◆◇◆◇
「まーまー」
「きゃーっ! 可愛いー!」
「何やねんこの可愛さ!」
「ほんまやな!」
やはり、皆可憐ちゃんの可愛さにメロメロになってしまっている。 さすが可憐ちゃんである。 かなりスムーズにハイハイするようになっており、ウロウロしながら愛嬌を振り撒いている。
「みゃー」
「なー」
心配なのか、マロン達はそんな可憐ちゃんを見守るようについて歩く。
「宮下さんもダンナさんも、顔ええしなぁ。 将来楽しみやなぁ、この子は」
「うわはは! 末はアイドルが女優だねー!」
「楽しみだねぇ!」
もちろん可憐ちゃんの将来がどうなるかなんて、今はまだまだ全然わからないけどねぇ。
「亜美姉がどんどん潤っていくー」
「カレンニウムを摂取出来たからね。 大会中に摂取出来ない分を今の内に貯蓄しておくよ」
「何なのよカレンニウムって……」
「可憐ちゃんからしか摂取出来ない栄養素だよ」
「だはは。 亜美ちゃんはホンマ可憐にゾッコンやな」
「清水さんとこもはよ子供作ったらええやん? 清水さんとこも両親の容姿は抜群にええし、見た目ええ子産まれるで」
と、黛梨乃さんに言われる。
「それはわからないけど、まあ、来年以降だねぇ」
「そうなん?」
「うん。 奈々ちゃん夫婦と合わせるつもりだからねぇ」
「藍沢さんとこ? もう結婚しはったん?」
「まだよ。 いつになるやら」
「そうなん?」
「ええ。 来年だってどうなるか」
奈々ちゃんはまだ知らないのである。 宏ちゃんはこのワールドカップが終わったら奈々ちゃんと籍を入れるつもりなのだ。 むふふ。 楽しみだねぇ。
「ぱーぱー」
おお。 ぱぱの事を呼びながらよちよちと立って歩いてるよ。
「……」
「って、ええーっ?!」
「だ、だ、だ、大君! 歩いてるんだけど!?」
「あ、歩いてるな?!」
どうやら2人も初めて見るらしい可憐ちゃんのあんよ。
「可憐ちゃんはあんよがお上手だねぇ」
すかさずあんよがお上手と声をかける。 よちよち歩きしながら、三山君の方に歩いて行くよ。 三山君をちゃんとパパと認識しているのだろうか。
「可憐、頑張れ!」
「ぱーぱー」
「よーし! よく頑張ったぞ!」
「ばーうー」
「可憐が初めて歩いた記念日ね。 うぅ……感動で涙が」
宮下さんは「おいおいよー」とか言いながら涙を流すのであった。 まだ1歳にもならない子が歩き始めるのは早い方なのかな?
ユースに完勝した亜美達。
可憐ちゃんがやって来たと思ったら歩き出してびっくり。
「紗希よん。 可憐ちゃん凄いわよね?」
「うんうん」




