第1903話 ユースチームと壮行試合
監督に呼び出された一同。
☆亜美視点☆
15日の練習を終えてホテルへ戻って来た私達。 なんだけど、監督さんから呼び出されたよ。 何やら明日の練習内容の通達のようだ。
「何やおっさんー。 こちとら練習終わって疲れてるんやで? 風呂入って汗も流したいんやけど?」
と、早速黛姉が文句を言っている。 それに関しては他の選手達も概ね同意見らしく「用件は早く済ませろー」とブーイングが起こっている。 小林監督の威厳の無い事。
「ワシ、監督辞めよかな……」
「か、監督。 自信失くさないで下さいよ」
と、マネージャーの前田さんがフォローを入れる。 大変だねぇ、前田さん。
「あー、明日の練習だが、壮行試合をすることになっているんだ」
「壮行試合?」
「相手はどこなんや?」
「日本の20歳以下の育成選手を集めたチーム。 全日本ユースチームだ。 海咲、大空、浜波といった、若者達が中心のチームだ。 ユース大会で優勝もしとるし、中々に強敵だぞ」
「ほぉ」
「中々面白そうですわね」
「やな」
「天堂さん、神園さん、星野さんもこっちのメンバーなんですか?」
「そうだ」
たしか、3人はユースメンバーだった筈だが、今は日本代表チームの一員なので私達の味方となるよう
だ。 しかし、その3人が抜けたとはいえ日本ユースは強いと思われるよ。 メンバーに選ばれたら気を引き締めていかないと。
「ほんで? その明日の壮行試合のメンバーはどないするん?」
「前田君。 どうなっとる?」
あ、やっぱり前田さんが決めるんだ。 監督は「頼むぞい」とか言って腕を組んでいる。
「えー、明日の壮行試合は日本最強と思われるメンバーでいきます。 ユースチームにとっても良い経験になる筈なので。 では発表します。 宮下さん、清水さん、月島弥生さん、藍沢麻美さん、西條奈央さん、雪村さん、蒼井さんは雪村さんの入れ替え要員です」
「よっしゃ! やったるで!」
「気を引き締めていくよ」
「はぅ。 頑張るよぅ」
「なはは。 ちょいさーしてやるー」
前田さんの中ではこれ日本最強の布陣という事のようだ。 私より紗希ちゃんや奈々ちゃんの方がアタッカーとしては優秀な気もするけど、ここはオールラウンダーとしての役割を期待してという事だろう。
「ふふふ。 時間差高速連携の被害者第一号は日本ユースの子達ですわね」
あれを見せるつもりなんだねぇ。 可哀想に日本ユースチーム。
◆◇◆◇◆◇
翌16日は木曜日。 日本ユースをアルテミスドームに迎えての壮行試合だ。 普通に観客も動員しての試合である。
「うわわ。 凄い観客」
「そんだけ期待されてるって事ですわ」
「ユースチームのメンバーも中々強そうだねぇ」
「やな」
「あちらのスタメン表です。 月ノ木学園3年海咲さん、京都立華3年大空さん、都姫女子3年浜波さんがOH。 MBに神奈川清秀3年の向日さん、Sは京都立華3年笠松さん、Lに大阪銀光3年の高槻さんです」
「どの子も春高で活躍してた子達だねぇ」
「ですね。 世代トップクラスの面々です」
「楽しめそうやな」
よぉし、頑張るよぉ。
◆◇◆◇◆◇
試合開始時間になったのでコート内に入って相手チームと挨拶を交わす。
「今日はよろしくお願いします!」
「大先輩方と試合が出来るなんて光栄です!」
「おほほほ。 こちらは手加減出来るメンバーじゃないですからね」
「覚悟しときや」
あ、奈央ちゃんと弥生ちゃんは本気で潰しにいくつもりのようだ。
「私達も勝つつもりでいかせてもらいます!」
「うわはは! きたまへ!」
「なははは!」
「はぅ……」
こちらサイドは何とも緩い感じである。 まあ、これが平常運転なんだけど。
「5セットマッチの3セット先取。 その他、国際大会のルールに則って行います。 サーブは日本ユースサイドから。 では、始めてください」
という事で日本ユースサーブで試合が始まるよ。 サーバーOHの浜波さんから。 ちょっと変則かな?
パァンッ!
「拾うよぅ!」
浜波さんの強烈なサーブにいち早く反応するのは希望ちゃん。 日本最強のLは簡単には崩せない。
「はい!」
「ではいきますわよ。 同時!」
「うし!」
「了解や!」
「らじゃだよ!」
奈央ちゃんの号令で同時に助走に入る私達。 ユースメンバーもこの連携自体は知っているはず。 だけど、実際に見るのもやられるのも初めてだろう。
現に、相手コートの皆はどうすれば良いか戸惑っている。
「そいっ!」
私達が同時に手を振ると、奈央ちゃんが1人を選んでドンピシャのトスを供給してくる。
パァンッ!
「?!」
ピッ!
エース宮下さんに送られたトスは、一瞬で相手コートに突き刺さる。 ユースチームは一歩も動く事が出来なかったようだ。
「こ、これが」
「凄い……」
「どうやって防げば……」
ユースチームのメンバーもさすがに困惑しているねぇ。 さて、そんなに狼狽えている暇はないよ。
「ではでは、こちらのサーブいかせてもらいますわよ」
「ありゃ、いきなりやるのね?」
「うわわ」
奈央ちゃん、めちゃくちゃ助走距離を取ったよ。 という事はいきなりネオドライブサーブを見せる気だ。 後輩達に容赦の無い先輩である。
「はっ!」
パァンッ!
シュルルルル!
と、風を切るような音ともに、強烈なドライブ回転が掛かったボールが弧を描くように飛んでいく。 一見アウトに見える軌道だが、ここから一気に軌道を変える。
ギュイン!
「拾います!」
反応したLの高槻さんがレシーブの体勢を作るが……。
パァンッ!
「なっ?!」
構えた位置の遥か手前に着弾するボール。 奈央ちゃんのネオドライブの落差はとてつもないのである。
「すいません」
「いやいや、あれは初見じゃ無理や」
「だね」
「次は拾います」
「おほほ。 ではもう一発いきますわよ」
パァンッ!
もう一発ネオドライブサーブを放つ奈央ちゃん。 しかし、回転数が少し少なく見える。 わざと返せるように打ったね?
「拾います!」
パァンッ!
「ナイスレシーブ!」
やっぱり。 拾えるレベルの回転数に落として打ったんだねぇ。 最高回転数で放たれた奈央ちゃんのネオドライブは、レシーブしてもそのスピンの影響を受けて顔に向かって跳ねるからね。
「大空さん!」
「はいよ!」
「亜美姉ブロックー!」
「らじゃだよ」
私と麻美ちゃんでブロックにつくよ。 現高校生トップクラスのアタッカーの実力拝見だ。
「ちょいさー!」
「てやや!」
私も麻美ちゃんも全力ジャンプで迎え撃つ。
「た、高っ?!」
パァンッ!
麻美ちゃんのちょいさーブロックで完全にシャットアウト。
ピッ!
「こ、これが世界最強の日本代表……」
今のところは私達が圧倒する形で試合は進行中。 はてさてこの先どうなるやらだよ。
後輩達相手に実力を見せつけていく。
「奈央ですわよ。 まだまだいきますわよー!」
「ちょっと可哀想な気もするよ」




