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第17話 林間学校で登山!

楽しい林間学校!

 ☆夕也視点☆


 現在、朝7時。

 俺達、月ノ木学園1年は貸切観光バスに揺られている。

 本日から明日まで1泊2日の林間学校だ。

 窓側の隣の席では宏太が早くも寝ている。

 退屈だ。

 通路を挟んで隣には希望ちゃんが座っている。

 その奥に亜美。

 俺の真後ろの席には奈々美が座り、その隣の窓際席に奈央ちゃんと言う配置だ。


 ふと、希望ちゃんの方を見ると、何かを読んでいる。

 しおりか? その割には少し悩んだような表情をしているのが気にかかる。


「希望ちゃん、どうした?」

「ふぇっ? あ、これ?」


 手に持った紙を指す。


「ラブレターなんだけど……」


 聞いた瞬間に、俺はそれを奪い取りビリビリに破ってやった。

 悪霊退散!


「はぅっ?! 破っちゃった?!」

「希望ちゃんに悪い虫が付いたら大変だ」

「夕ちゃん、過保護すぎだよ?」


 すると、奥から亜美の声が聞こえてきた。

 亜美は呆れたような顔でこちらを覗き込む。


「希望ちゃんが、そこらの男子の告白受けるわけないよ。 ね? 希望ちゃん?」

「う、うん」

「しかし、しつこい男だったら大変だ! 断った後に力づくで人気の無い林に連れ込まれて、襲われたらどうする!?」

「はぅ……」


 こんな可愛らしい女の子だ。

 激情した男が乱暴な手段に出ないとも言い切れない。


「夕ちゃんが、守ってあげてね!」

「もぉちろん!」


 言われるまでも無い。


「よかったね、希望ちゃん! 夕ちゃんが付きっきりで守ってくれるよ」

「え、えぇと……ありがとう」


 希望ちゃんは、俯いてお礼を言った。

 希望ちゃんも、亜美や奈々美程では無いにしろ、そこそこの頻度で男子に呼び出される。

 元々、引っ込み思案で大人しく、気の優しい女の子なので、仲の良い友人以外と話す時は結構緊張するみたいだ。

 特に告白の返事で断わる時はかなり悩むらしい。

 優しすぎるんだよな、希望ちゃんは。

 なんてことを言ったら、希望ちゃん、亜美、奈々美の3人から「夕ちゃん(夕也くん・あんた)には言われなくない」と言われてしまった。


「ねね、夕ちゃん。 希望ちゃんを他の男子から守る、とっても良い方法があるんだけど聞く?」


 何と! そんなものがあるのか!


「是非」

「はぅ……なんか嫌な予感するよ……」


 ん? 希望ちゃんはあまり聞きたく無いようだな。

 しかし、希望ちゃんを魔の手から守る為だ。

 我慢してもらうとしよう。


「簡単だよ? 夕ちゃんが、希望ちゃんの彼氏になって『希望は俺のモノだ!』って、全校生徒に宣言すれば良いんだよ?」

「やっぱり……」


 希望ちゃんは、額を抑えて俯いてしまった。

 確かに、素晴らしい方法ではあるが……。


「それはダメだ」

「はぅ、ダメなんだ……」


 希望ちゃんが、残念そうな声を出して、更に下を向いてしまう。

 あ、やらかした?


「あ、いや、希望ちゃんの彼氏になるのがダメなんじゃなくてだな!」


 何とか、取り繕う。


「ほんとぅ?」


 チラッと上目遣いでこちらを見つめてくる。

 うぉ、反則的な破壊力だな。


「お、おう」

「じゃ、何がダメなの?」


 作戦を提案した亜美が不服そうにこちらを見ている。

 そんな顔すんなよなぁ。


「その方法じゃ、亜美を守れなくなるからな」

「っ?!」


 それを聞いた途端、亜美は窓の方を向いてしまった。

 何だってんだよ。


「ふ、不意打ちすぎるよ……」

「よかったね、 亜美ちゃん?」

「うぅ」


 なんか、希望ちゃんが意地悪な顔をして亜美を攻めている。

 ほー、珍しいな。


「夕也、あんたって本当にあれよね」


 背後から奈々美の声が聞こえてきた。

 聞いてたのか。

 なら丁度良い。


「お前も守らにゃならんからな」

「わ、私? あ、あぁ、そう……本当にこいつは油断も隙もないわね……」


 なんだなんだよ。

 皆して、顔を背けて。


「今井君はもうちょっと自覚した方がよろしいですわよ?」

「な、何をだ?」

「自分が女たらしだと言うことをです」

「えぇ……」


 奈央ちゃんにそんなことを言われてしまった。

 俺は、普通に接しているつもりなんだけどなぁ。


 ◆◇◆◇◆◇


 ──キャンプ場──


 そんなやり取りをしながら時間が過ぎていく。

 バスは途中で休憩を挟み、昼には目的地であるキャンプ場に着いた。

 昼飯は持参した弁当を食べて、午後からはウォークラリーという名の登山が待っている。


「いやー、亜美の手作り弁当は美味いなぁ」

「いつも食べてるじゃない」

「こういう所で食べるのが美味しいんだよね」


 確かに、自然に囲まれた場所で食べると更に美味いよな。


「この後の山登り嫌だわー」

「そんなこと言ってましたら、夕食のカレー無くなりますわよ?」

「そだね、ウォークラリー頑張らないとだね」


 何の話かと言うと、この後の登山ウォークラリーには、夕食の具材がかかっているのだ。

 各チェックポイントでは、各教科担当の教師が立っており、問題を出してくる。

 正解するとスタンプが押されて、ゴール地点でスタンプが押されたポイントに対応した材料が貰えるわけだ。

 つまり、サボったり問題を間違えると、カレーが作れなくなる可能性があるのだ。


「最低限、カレールーと米は必ず確保しなければならん。 その問題は亜美と奈央ちゃんに任せたぞ」

「任されたよ」

「はい」


 ラリー中は1人につき1教科しか解答できなくなっている。

 つまり、亜美と奈央ちゃんに全て任せると言うことは出来ない。

 なので、確実にカレーライスを作る為に、カレールーと米はこの2人に任せるしかないのだ。

 あとは牛肉あたりを希望ちゃんに任せれば、野菜は無くてもいいだろう。


「出来れば全部正解したいね」

「うん」


 無理だろうなぁ……。

 宏太がいるんじゃあなぁ。


「なんで皆して俺の顔を見るんだよ……」

「なんでって、あんたが一番危ないからよ?」

「宏ちゃん、頼むよ?」

「亜美ちゃんから、ほっぺにキッス貰えば頑張れるんだけどなぁ」


 こいつ、すげー無茶振りをしやがった。

 亜美、どうすんだよおい。


「皆、野菜1つぐらい無くてもいいよね?」

「構わないわよ」

「うん、大丈夫だよ」

「仕方がないですわねー」

「あ、亜美ちゃぁん……」


 告白までしたってのに哀れなやつだな。

 ただ、亜美は決して宏太を嫌ってはいない。

 人前でそういうことを、あまりするような奴じゃないし、するべきではないとも考えているのだろう。

 照れ隠しをしている部分も多少はあるだろうし。

 さっきのを、俺が言ってても多分同じ反応をしていたに違いない。


「ふぅ、ごちそうさん」

「食べるの早いね、夕也くん」

「そうか?」

「ちゃんと噛んで食べてる?」

「おう、多分」


 あまり意識したことなかったけど。


 しかし、飯食った後に山を登れって、このイベント結構辛いな。

 で、下山したらもう夕食作れって言われるんだろう?

 ちょっとは、ゆっくりさせてくれ。


 俺は少し楽な姿勢を取り、皆が食べ終えるのを待った。

 皆が食べ終えたあとは少し時間があった。

 途中、亜美と宏太が席を立っていなくなったが、ナニをしてきたのか宏太がやる気に満ち溢れていた。

 まさか、ほっぺにチューをもらったのか?!


 そうこうしている間に集合の声が掛かる。

 これから行われる登山ラリーの簡単な説明を受ける。

 なお、体調が優れない者はここに残ってもいいということになっている。

 その場合は、残った教師と仲良くお勉強だが。


 一気に全員が出ると、狭い山道で混雑し危険なため、数分ごとに1グループずつスタートしていく。

 なお、我が班には不動の出席番号1がいるため、余裕のポールポジションだ。


「んじゃ1班行くわよー」

「おーっ!」

「いこいこー」

「こんな山ごとき、この私にかかれば余裕ですわよー」


 女子は意気揚々と歩き出していった。

 まあ、初級者用の登山ルートと下山ルートらしいので、そこまで気負う必要はないだろう。

 山に入ると、緩やかな登りでゆっくりと蛇行しているようだ。

 道も整備されており非常に登りやすい。

 ただ、少し道を外れるとそこはもう獣道と言っても差し支えないような場所になっている。

 絶対道を外れてはいけない。


 途中、分かれ道に看板が立っていて初級コースと上級コースに分かれているようだ。

 生徒が上級に入らないように監視の目的でもあるのだろう、最初のチェックポイントの教師が立っていた。


「おう、来たな藍沢班」

「前やん、うぃーす」


 軽いノリで挨拶する奈々美。

 数学教師の前田先生。

 若くて割と生徒からの人気のある教師で、親しみやすく友人感覚のノリで接することができる。

 しかし、初っ端数学か。


「数学の問題だぞー。 ここ正解しないと米がもらえないからなー? 今日の夕食はカレールー啜ることになるぞー」

「うわー、最初で間違えたら、もうその後テンションダダ下がりじゃねぇか」


 宏太の言うとおりである。

 最初の数学で米を落としてしまったらもう、カレーライスは食えないという絶望に打ちひしがれること間違いなしだ。

 仕方ない、ここは切り札を切るしかない。


「亜美、GO!」

「任せて! さぁ、前田先生、問題ちょうだい!」

「む! やっぱりここは清水で来るか」


 前田先生もどうやら読んでいたようだ。


「清水には特別な問題を用意してあるぞ」

「えっ? 前やん?」

「前田先生、それは卑怯ですわ!」

「見損なっちゃうよぅ」


 女子たちから非難の嵐を受ける前田先生。


「いや……清水も大概卑怯だと思うぞ?」


 そうなんだよなぁ。

 我が班最強の秘密兵器と言っても差支えない。

 一体どんな問題を出されるのか。

 前田先生はどこからか、問題集を出してきてページを開く。

 今カバーが見えたが、東京大学入試過去問とか書いてあったぞ。

 卑怯すぎるだろ!!

 いくら、亜美が出来るからって、高校1年生に大学入試問題をぶつけるのはやりすぎだ。


「さぁ、これを解いてもらおう」

「うげ、こんなのうちら習ってないじゃん」

「本当だぁ……亜美ちゃん大丈夫?」

「これ、去年の東大入試問題ですわ」

「マジか……」


 え、わかんのか奈央ちゃん。


「ほー、西條は過去問調べたりするのか?」

「まぁ、西條家の長女としてはトップを目指さないとですからね」


 さて、うちの秘密兵器は果してこの問題を解けるのだろうか。

 んーと、ボールペンを咥えて少し考える亜美。

 あー、可愛い。

 そもそも、やったこともない問題を考えてわかるものなのか?

 少しするとスラスラとペンを走らせはじめる。

 やけに簡単に式を立てているが、合ってんのかそれ?


「はい、出来たよ先生」

「お、おう?」


 式と答えを確認する前田の顔が青ざめていくのがわかった。

 おいおい、マジかよこの幼馴染。


「あ、合ってる……」

「おー、亜美やるじゃん! 東大合格待ったなしね!」

「あはは」

「私には暗号にしか見えないよこの式……」

「俺には楔形文字に見えるぜ」

「さすがは亜美ちゃんですわ! 私の終生のライバル!」

「ありがと、夕ちゃんも褒めて良いよ?」

「よくやった。 これで少なくとも白米は食えるわけだ」


 俺は亜美の頭を撫でてやる。

 凄く嬉しそうな顔をしやがる。

 俺達は前田先生からスタンプをもらって登山を再開する。


「この調子でどんどん行くわよー」

「おーっ」


 俺達はこの後も順調にチェックポイントを消化していく。

 暗記科目が得意な奈々美を日本史にぶつけて牛肉を確保。

 カレール―がもらえる物理化学は奈央ちゃんに任せて、これで無事にカレーライスは作れるようになった。


 少し登ると開けた場所に出た。

 立札を見るとどうやら、頂上らしい。

 少し高くなっところが展望台になっているようだ。

 俺達は展望台から景色を眺めてみる。

 遠くの方には建物が密集した場所が見える、あの辺は都市部かな?

 他の方角を見るといくつもの山が連なっている。

 こっちは良い季節に来れば絶景が拝めそうだ。


「ね、写真撮ろうよ」


 亜美がリュックからデジカメを取り出す。

 せっかくだから撮るのは賛成だが……。


「誰か1人は入れないわよ?」


 シャッター係が必要だ。

 まあ、少し待てば後続の班が追い付いてくるだろう。


「後続の班を待つのは?」


 希望ちゃんもそれを思いついたようだ。

 まあ、それしかないわな。


「じゃあ、ちょっと待ちますか……あっ……」

「ん?」


 振り向くと奈々美が尻餅をついていた。


「大丈夫、奈々ちゃん?」

「えぇ、滑りやすいとこだったみたいで、ちょっと滑っただけよ」

「そうなんだ。 気を付けないとね」


 確かに地面は少し滑りやすい感じはするが、そんなにでもないぞ?

 良く見ると、奈々美が体勢を崩した場所に小さな窪みがある。

 もしかして、そこに足を取られてバランスを崩したのか?

 まあ、大丈夫そうだし気にしなくていいか?

 しばらく待って後続の班に頼み写真撮影を終えた俺達は、登山ルートとは別にあるルートから下山を開始した。

 下山道中にもチェックポイントはあるし頑張るか。


「ごめん、ちょっとさっきのとこに忘れ物したみたいだから取りに行ってくるわ、先に行ってて」


 急に奈々美が踵を返して頂上に戻ろうとする。

 なんか様子がヘンです。


「ゆっくり下ってるから、急いでね」

「はいはーい」


 俺達は、戻っていった奈々美を置いてしばらく先に進む。

 だが、やっぱり少し気になるな。


「なぁ、俺ちょっと奈々美のとこ戻るわ」

「え? 戻る?」


 希望ちゃんが振り返る。


「ん? 私達も戻ろうか?」


 亜美も立ち止まってそう言うが、そんなに戻っても仕方がないし先に行くように伝えた。

 皆は「わかった」と言って先に進んだ。


「夕ちゃん、奈々ちゃんをお願いね? 思ったより足が痛むのかも」


 なんだ、こいつは気付いていたのか。

 じゃあなんで、こいつは奈々美を置いて先に進んだんだ?


「本当は宏ちゃんに気付いて戻ってほしかったとこなんだけどねぇ、作戦失敗だよ」


 こいつ、こんな時までそんなお節介を焼いてるのか……。

 まったく。


「んじゃ、行ってくるわ」

「気を付けてね」


 ◆◇◆◇◆◇


 俺は、亜美と別れて降りてきた道を戻った。

 おそらくだが、奈々美と別れた場所からそう遠くない場所に居るはずだ。

 しばらく戻ると予想通り、先ほど別れた場所からちょっと戻ったところで腰を下ろしていた。


「奈々美、大丈夫か?」

「夕也……もうバレたか」

「まぁな、亜美も気付いてたみたいだけど、あいつは宏太に戻らせるつもりだったらしい」

「本当……お節介よねぇ」

「だよな。 立てるか?」

「何とかね。 ただ、下りで足を踏ん張ると痛むのよ」


 なるほどな。

 仕方ない。

 俺は背中を向けて腰を下ろす。


「やっぱそうくるのね」

「これが手っ取り早いだろ」

「人間1人背負って山下りるのってきついわよ?」

「なんとかなるだろ」

「じゃあ、ちょっとお願いしようかしらね」


 奈々美が俺の背中に負ぶさってくる。


「重かったら言いなさいよ?」

「柔らかい」

「く……今は許したげるわ」


 俺は奈々美を背負いながら下山を再開した。

 次のチェックポイントまで行けば教師の誰かが何とかしてくれるだろう。


足を怪我した奈々美を背負って下山。

さすがの奈々美も夕也に傾く?

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