第186話 放課後ガールズトーク
部活の練習中もイチャつこうとする亜美だが?
☆亜美視点☆
インターハイ予選も近付いてきた5月17日の日曜日。
私達バレー部も、夕ちゃん達バスケ部も休みを返上して練習に精を出している。
「夕ちゃんー」
「おいおい……部活中はやめろって」
「こーら清水さん! 部活中は部活に集中する!」
「うわわー」
部長に腕を引っ張られてバレーコート内に連れて行かれる。
うう、夕ちゃんしばしの別れだよぉ。
涙目で夕ちゃんを見つめるも、夕ちゃんは練習に集中していて気付かない。
「いくらなんでも、ちょっとやりすぎでしょあんた」
「ええ?」
何の事だろう?
「亜美……あんた変わりすぎでしょ」
「本当だよ。 付き合う前はそんなに甘えてなかったじゃない?」
「そうかなぁ?」
そんなに甘えてるかなぁ?
自分ではわからないよ。
紗希ちゃんは「別に良いじゃん。 ねぇ?」とフォローしてくれたが。
「ほらほら2年生! ちゃんとやる!」
「あ、はーい」
怒られたので練習を再開する。
1年生には「あれで全国制覇しちゃうんだから凄いよね」と言われてしまった。
うぅ、ちょっと反省だよ。
ということで、部活中は真剣に練習するよ。
部活終了後。
シャワーを浴びながら。
「亜美ー、このあと緑風行くけどどうする?」
「行く行くー」
緑風なら行かないわけにはいかないよ。
となると、夕ちゃんには先に帰ってもらわないといけないね。
シャワーを浴びて着替え終えてから、夕ちゃんに連絡する。
夕ちゃんは「わかった」と言って先に帰った。
「よし。 これで大丈夫だよ」
「じゃあ行きましょうか」
「おー!」
女子2年生組は全員参加のようである。
さーてフルーツパフェ食べるよぉ。
◆◇◆◇◆◇
「んむんむ。 おいしー」
「亜美ちゃん付き合い出してからはどう?」
奈央ちゃんに訊かれたので、とりあえず食べるのを止める。
「どうって言われても、あまり日数も経ってないしねぇ。 何より今までとあまり変わらないと思うんだけどなぁ」
「いやいや。 イチャつき方半端ないでしょ」
「私もそう思うなぁ」
「えぇ……」
皆が一様に頷いている。
希望ちゃんも「私はそこまでじゃなかったよ」と言う。
「うーん……でも別に良くない?」
「まぁ良いんだけどね。 部活中とかはさすがに控えなさいよ?」
「あぅ……それは反省します」
そうだよね。 皆は一生懸命練習してるんだもん。 夕ちゃんだってそうだし、邪魔しちゃいけない。
「それ以外なら別に構わないけど」
「いやいや、ちゃんと考えて行動します」
ただ紗希ちゃんは「別にいいんじゃない?」という感じで言っている。
紗希ちゃんはどっちかっていうと、どこでもイチャつくタイプだもんね。
「まぁでも……希望も相手が悪いというか」
「わかってたけど、亜美ちゃんは強かったよ……」
「と言っても、一度はいいとこまで行ったでしょ? ヤルこともヤッてるんだし」
「はぅ……」
紗希ちゃんに言われて、希望ちゃんは赤くなっていた。
「んで、希望はどうするの? やっぱりやり返す感じ?」
「んー、そのつもり。 どこまでやれるかわかんないけど、引き下がるつもりは無いよ」
「良いね良いね! 私はまだまだ協力するよ!」
「紗希ちゃんありがとう!」
ライバルはまだまだやる気のようだ。
私も頑張るけど、夕ちゃんにも釘を刺しておこう。
簡単にはいかないよ、希望ちゃん。
「うーん、青春だねぇ」
「そう言うあんたはどうなのよ遥ー? 憧れの人とは?」
「べ、別にどうも何も……あの日からは会ってないからなぁ。 ジムで会う機会もそんなにあるわけじゃ無いし」
「何よつまんないわね。 ジムの日合わせるとかしなさいよ」
奈々ちゃんが、焦れたように遥ちゃんに説教を始める。
「ストーカーみたいじゃないか!」
「それぐらいは許容範囲でしょ」
うーん……まあ、日にちを合わせるぐらいなら大丈夫かなぁ?
「大体さぁ、気の無い相手を誘うわけないじゃないの。 その彼は遥に気があるのよ!」
「いやいやいや! あるわけないだろー? 趣味が合うだけだって」
「でも、同じ趣味持ってると話弾むし楽しいでしょ? 相手さんもそうじゃないかなぁ?」
私の意見を話でみる。
遥ちゃんは唸りながら──。
「まあ、スポーツ関係の話をするのは楽しいけどさぁ、向こうが同じかはやっぱりわかんないよ」
「遥って意外と奥手なのね」
話を聞いていた奈央ちゃんが、冷静に言い放つと、遥ちゃんは「ぐっ」と、言葉を詰まらせる。
続け様に紗希ちゃんが──。
「好きなら告っちゃいなよー。 案外いけるかもよー?」
「そうだよ!」
希望ちゃんも便乗するが、遥ちゃんはイマイチ乗り気ではないようである。
まあ、今の関係が壊れたりする可能性を考えると、怖くて進めないのもわかるよ。
この辺はもう、本人次第だね。
ひとしきりガールズトークを終えた私達は、その場で解散した。
帰り道でも、話は続く。
私と希望ちゃん、奈々ちゃんは帰り道が途中まで一緒だもんね。
「奈々ちゃんは、遥ちゃんに色々相談されてるんだよね?」
「まあねぇ。 彼氏欲しいだの何だのとね。 奈央にイメチェンさせられたし、憧れの人が居るならどんどんアタックすりゃ良いのよ」
「そうだよね!」
希望ちゃんは他人の恋にはうるさいねぇ。
私も人の事は言えないけど。
「でも、本人が今のままで良いって思ってるみたいだし、無理に関係を進めなくても良い気がするなぁ」
「それで後悔しないならねぇ。 誰かさんみたいに」
奈々ちゃんは、横目に私を見ながらそう言った。
「い、今は夕ちゃんの彼女になれたもん」
「はいはい」
「良く持ち直したよね、亜美ちゃん。 一時期はどん底まで落ちて、私に八つ当たりしたりしてたもんね」
「あぅ……思い出させないで……」
去年の夏の事は、もう忘れたいよぅ。
奈々ちゃんと希望ちゃんは、声を上げて笑うのだった。
途中の十字路で奈々ちゃんと別れると、希望ちゃんと2人になる。
希望ちゃんは、去年の私みたいにイライラして八つ当たりとかしないだろうか?
ちょっと想像はつかないけど、怒る時は怒るからなぁ。
「今日の夕飯は何しよう?」
と、希望ちゃんは普段通りである。
だから私も、普段通りに接する。
「んー、豚肉あるし生姜焼きでもしよっか」
「了解ー」
どうして普通でいられるんだろう?
私に夕ちゃんを盗られたのに、怒らないのはどうして?
私も色々と覚悟していたのに、こうあっさりされると拍子抜けだよ。
「どしたの?」
考え込む私を見て、不思議そうな顔で聞いてくる。
「……どうして、そんなに普通でいられるのかなって思って」
「……?」
「だって、夕ちゃんを盗られたんだよ? もっとこうケンカになって仲悪くなったりとか……」
「するわけないよ。 私、亜美ちゃんには本当に感謝してる。 今の私があるのは亜美ちゃんのおかげだし、一杯恩返ししなきゃって思ってる」
「でもっ」
「亜美ちゃんなら、良いかなって」
「……ありがとう」
「どういたしまして。 大きな恩返しも出来たし、私もまた遠慮なくぶつかるからね」
「ふふ、私に勝てると思うてか!」
「あははは」
私達は笑い合いながら、帰り道を歩いた。
希望は思いの外前向きで、まだまだ諦めてはいないらしいが?
「紗希だよ。 希望ちゃんも亜美ちゃんも頑張れー! だけど、今井君も今度ばかりは揺れたりしないかも? よーし、私が色仕掛けで確かめちゃうぞー!」
「紗希ちゃん? やめようねぇ?」